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古今東西、興味のおもむくままに

藤原えりみ

美術ジャーナリスト

アートのお値段

1990年代以降、中国やロシア、中東諸国の経済発展を受けて現代美術マーケットは拡大し続け、年間の取引総額は約560億ドルにも上るという。だが、作品の値段=作品の価値なのか、また誰が作品の値段を決めているのか等々、傍から眺めているだけではさっぱり分からない。本作は、本来なら関係者以外には知られることのないマーケットの実情をとらえたドキュメンタリーだ。登場するのはアーティストやオークショニア、コンサルタント、批評家、キュレーター、コレクター、ギャラリストなど27人。各人の立場により、マーケットの現状に対する考え方や作品観は決して同じではない。例えば、作品のブランディングに邁進するジェフ・クーンズについては肯定的な見方と否定的な見方の双方があり、オークションを嫌うアーティストもいれば、美術館は作品が死蔵される墓場のような場所と語るオークショニアもいる。 クーンズとは対照的に、1960年代に評価されたものの、自らの進化と可能性を探るためにアート界からドロップアウトしたラリー・プーンズという画家も登場。カメラは、その彼が「再発見」され、個展会場で人々の賞賛を浴びるまでを追う。また、ヒトラーを象ったマウリッツィオ・カテランの作品『彼』を所有するユダヤ人コレクター、ステファン・エドリスの存在も印象深い。「なぜユダヤ人がヒトラーの作品を?」と問われ、「アートはアートだからさ」と答えるのだが、実はヒトラー作品の展示方法にさり気なく「ある意地悪」を仕組んでいたりもする。 アートをめぐる含蓄に富む見解満載の高密度の内容は秀逸だが、この映画を観たからといって即刻「アートマーケットの事情通」になれるわけではない。要するに「作品を自分の目でみて、自分で考え、自分で判断する」ことが問われているのだ(当たり前のことですけどね)。

19/8/24(土)

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