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水先案内人のおすすめ

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時代劇研究家ですが趣味は洋画観賞。見知らぬ世界に惹かれます。

春日 太一

映画史・時代劇研究家

トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング

観終えて、ひたすら重いものに覆われた。 主人公は1870年代のオーストラリアで盗賊団を率いた実在の人物、ネッド・ケリー。ケリーは狙うのは富裕層で殺すのは腐敗した警官のみだったため、オーストラリアでは「義賊」的な扱いを受けているという。 「という」と書いたのは、その活躍の描写が本作にはほとんど描かれていないからだ。 彼はなぜ盗賊になったのか。なぜ警官ばかりを殺すのか。幼少期から、その過程が丁寧に描かれていく。 映し出されるのは地獄絵図のような物語だ。貧しい生活、一家を蹂躙する警官、息子を身勝手に扱う母親……ようやくまともな大人に出会えたと思ったら、その男は盗賊。手伝わされた挙げ句に捕まり刑務所へ。更正して真っ当に生きようとするも、周囲の醜いエゴに巻き込まれ……。 よくぞ見つけたと唸りたくなる枯れ木ばかりの荒野のロケーションとあいまって、主人公の逃げ場のない苦しみがズッシリのしかかる。 最後のエピローグも注目。冒頭のクレジットに示される、二つの「トゥルー」が伏線となっていて実に皮肉が効いている。それがまた最後の最後になって救いのなさを助長させる。簡単に感動の物語に仕立てようとしない作り手側の気概を感じた。 覚悟して観てほしいし、またその価値のある作品でもある。

21/6/17(木)

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