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水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
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音楽は生活の一部、映画もドキュメンタリー中心に結構観ています

佐々木 俊尚

1961年生まれ フリージャーナリスト

羊飼いと風船

中国による長い支配と文化の収奪という厳しい問題が、チベットには横たわっている。本作にもその暗い影がうっすらと差しているが、決して政治的な作品ではない。 使われている電気製品や社会背景などから推測すると、舞台は1990年代ぐらいだろうか。中国共産党政府のひとりっ子政策で子供を増やすことが抑制されている状況と、それに対してチベットでは生まれてくる子供が死者の生まれ変わりであるととらえる転生の伝統が対立軸として提示される。その中で揺れ動く母親が主人公なのだが、彼女が夫との性生活の話をしたり、ベッドの枕の裏にコンドームを隠し持っていたり(そもそもタイトルの『風船』自体がコンドームのことである)と、やけに生々しい性的な描写があって、それが本作になんとも言えない“体臭”を与えている。この生ぐささとチベットの伝統、現代社会、そして美しすぎる自然の風景や衣装と混じり合って、忘れ難い映画に昇華していると感じた。そこにはチベットというありようが、ユーモアや叙情とともに生身の肉体として描き出されている。

21/1/22(金)

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