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水先案内人のおすすめ

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映画史・映画芸術の視点で新作・上映特集・映画展をご紹介

岡田 秀則

1968年生まれ、国立映画アーカイブ主任研究員

ビーチ・バム まじめに不真面目

ここはフロリダの海辺。酒をあおれば気分は上々、車か船をぶっ飛ばすに決まってる。酔っ払ったら、もちろんバーンと水に飛びこむしかない。この男、一応詩人らしいが、何から何まで最低である。『ビーチ・バム』は、酒と女に溺れ、どんちゃん騒ぎに明け暮れるバカ野郎に、ひたすら付き合わされる最高の95分だ。呑んだくれをずっと見ているうちに、こっちが呑んだくれて映画に向かってる気がしてくる。 マシュー・マコノヒー演じるその男ムーンドッグは、何かに反抗しているのではない。勝利もなく、敗北もなく、まして反省などひとかけらもなく、ただ楽しみ尽くす。そこが崇高、じゃなくて「崇低」なのだ。家を失って、浜辺でビール片手にタイプライターを打ち続けるムーンドッグは、究極のノマド・ワーカーなのかも知れない。 7年前の『スプリング・ブレイカーズ』でベルギーからブノワ・デビエという撮影監督を引っぱってきたことで、ハーモニー・コリンの映画は「蛍光する映画」になった。時に毒々しい人工色で覆われるその世界は、この世の風景ではないようにも見え、それでいて人物たちの虚無もくっきり映し出している。まさかのジャン・ヴィゴ『新学期 操行ゼロ』のパロディには苦笑したけれど、そんな話は余興にして、まだ映画にはやってないことがいっぱいあるんだよ、と『ビーチ・バム』は教えてくれる。

21/3/31(水)

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