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水先案内人のおすすめ

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注目されにくい小品佳作や、インディーズも

吉田 伊知郎

1978年生まれ 映画評論家

生誕120年 円谷英二展

円谷英二が撮影を担当した1935年の映画『かぐや姫』がイギリスで発見されたという報道には驚かされた。晩年まで円谷が映画化を夢見ていた『かぐや姫』の原点となる作品ながら、フィルムが現存せず、これまで観ることが叶わなかったからだ。 今回発見されたのは33分の短縮版(オリジナルは75分)。9月4日と5日に国立映画アーカイブで特別上映されることになり、筆者もどうにかチケットを取ったが、発売から2時間ほどで完売する人気で、戦前のキャメラマン時代の円谷を知る絶好の機会となる。 そんなこと言ったって、チケットが完売してるじゃないかと言う向きもあるだろうから、慌てて言い添えておくと、国立映画アーカイブの展示室で開催中の「展覧会 生誕120年 円谷英二展」では、『かぐや姫』の5分ほどのダイジェスト版がモニターで繰り返し上映されており、これを観るだけでも、円谷の撮影の確かさを知ることが出来る。何より、特殊技術が駆使されている上に、実に見事な画面を作り上げていることに圧倒される。 竹やぶの中で、光り輝く竹の中にちょこんと立つかぐや姫と、それを見つめる翁と妻をカットバックで見せる際の自然な繋ぎは、視線も光も申し分なく、この時点でこれが出来ているから、『ハワイ・マレー沖海戦』も『ゴジラ』もあれだけの完成度を見せたのだと実感できよう。 スクリーンプロセスで、あっという間に大きくなるかぐや姫を見つめる翁たちを同一画面で見せるカット、帆船のミニチュア、揺れる波紋に映る月など、息を飲む美しさである。クライマックスの空を舞う天人たちと動けなくなった守衛たちの合成も素晴らしい。特撮と共に、優れた撮影者としての円谷英二を、この5分だけでも十分に感じることが出来るはずだ。 展示は「若きキャメラマンとして」「特撮への志」「東宝特撮の時代」「円谷プロの創設」という4部構成になっており、特に戦前のキャメラマン時代は、現存するフィルムが少ない中、当時の映画雑誌や写真、脚本から、その仕事ぶりを探っていく。撮影の技倆も批評の対象になっただけに、具体的な記述が、失われたフィルムをたどる貴重な資料となるのだ。 第1作の『ゴジラ』の撮影アルバムが、志村喬の旧蔵(!)だったりするので、うっかり気も抜けない展示だが、個人的に最も驚き、食い入るように眺めたのが、これが初公開となる未映画化企画『ギュヨードラゴン』の資料である。ボツになった怪獣映画の企画は数あれど、これは全く聞いたことがなかった。俳優出身の星野和平が1957年に企画した怪獣映画で、水爆実験で生まれた二足歩行の首長竜的な怪獣ギュヨードラゴンを描いた作品だという。宇津井健、久保菜穂子の主演が予定されており、脚本や円谷研究所との契約書まで展示されていたが、この資料の出どころが、東宝の大プロデューサーだった本木荘二郎(後にピンク映画の監督になった)――というのも、日本映画史の裏面を見るような思いだ。 それにしても、『ギュヨードラゴン』なる幻の映画の存在はどれほど知られていたのだろうか? この手のネタに詳しい『特撮秘宝』の編集者に訊いても、全く知らなかったので、今回の展示の目玉と言っても過言ではなさそうだ。別ルートで脚本を読むことが出来たので、近々、中身の大公開と行きたいと考えている。

21/8/31(火)

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