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三鷹市芸術文化センターで、演劇・落語・映画・狂言公演の企画運営に従事しています

森元 隆樹

(公財)三鷹市スポーツと文化財団 副主幹/演劇企画員

ONEOR8『誕生の日』

初めてONEOR8の舞台を観たのは、2002年10月『ゴールデンアワー』(下北沢駅前劇場)であった。人間関係を見事に炙り出していくセリフの切れ味と、目の前に繰り広げられているのが演技であることを忘れるほどの自然な振る舞いを導く演出力に驚かされるとともに、ラストシーンへと続く大胆なまでの構成力に感嘆の声を上げずにはいられなかった。その後もONEOR8は、田村孝裕の筆のもと、徹底して人間を描き続け、生きていく上でやるせないほどに浮かび上がっていく、虚栄、慢心、傲慢、狡猾、猜疑、羨望といった人の世の業(ごう)に、一貫して逃げることのない視線を注ぎ、そこから滲み出ていく「人が人と関わっていくことの暖かさ」を、観客に届け続けてきた。 そんなONEOR8は、一昨年、2018年に20周年を迎え、今回、新たな船出というべき2年ぶりの新作公演『誕生の日』を上演する。近年、主役や重要な役どころに、演技力が確かで知名度もある俳優を迎え入れることが多く、田村演出を心得た劇団員たちが脇を固めることも多かったONEOR8だが、今回は劇団員を中心に据え、小劇場系の個性に満ちた手練れの俳優を揃え、チラシの表面も、劇団員の山口森広の写真が、全面に使われている。 ////////////// 木村加寿美、39歳、独身、恋愛経験なし 女らしく・・・女に生まれたからには・・・ なんて言葉をかけられたことは一度もない 化粧もドレスもヒールもいらない人生だった もうすぐ40歳の誕生日・・・ 特に何も宣言しないが これを機に生まれ変わってみようと思う 別に何も期待しないが 誕生日会に脇毛くらいは剃っていこうと思う /////////////// チラシに記されたその文面から、今回もまた、幾重にも注がれていく「生きていく」ことへの切ないまでの視線が舞台上に乱反射していくことへの期待が高まる。20周年記念公演を終えた彼らが、劇団員を中心とした座組で臨む、その静かな決意を感じながら、ONEOR8だけが持つ観劇後の余韻に、しっかりと抱かれたい。

20/1/13(月)

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