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巨匠から新鋭まで、アジア映画のうねり

紀平 重成

1948年生まれ コラムニスト(元毎日新聞記者)

ファーザー

これまで認知症の人は映画の中でどのように描かれてきたのでしょうか。たとえば映画の展開をドラマチックにするため病気の進行を極端に早めたり、家族の顔を見ても何の反応もしない人を登場させ故意に悲惨さを強調しているかもしれません。これでは「認知症になったらもうおしまい」と本人はもちろん家族も落胆するでしょう。 その点、本作の脚本も兼ねたフロリアン・ゼレール監督は認知症のことをよく調べています。いたずらに不安をあおるようなことはせず、むしろ過去の記憶は失われても怒りや悲しみといった感情は豊かに持ち続けることができるという病気の基本をしっかり押さえました。『羊たちの沈黙』でアカデミー賞の主演男優賞に輝いたアンソニー・ホプキンスが、現実と幻想の境界が崩れていく認知症の父親をリアルに演じましたが、そこには認知症になっても人にはなお守られるべき人間の尊厳という領域があるとでもいうようなポリシーが貫かれています。 それにしても認知症の人の家族ドラマなのにサスペンス仕立てというのが意外でした。主人公が頼りにしていた娘がパリに移住すると聞いてから見知らぬ男や女が入れ代わり立ち代わりアンソニーの前に現れ語り掛けるのです。どれが本当の映像なのかと考え続けるのですから、否が応でも画面に引き込まれてしまいます。 第93回アカデミー賞の作品賞、監督賞、主演男優賞など6部門にノミネート。

21/4/19(月)

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