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水先案内人のおすすめ

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映画史・映画芸術の視点で新作・上映特集・映画展をご紹介

岡田 秀則

1968年生まれ、国立映画アーカイブ主任研究員

オキナワ サントス

第二次世界大戦下のアメリカで、敵性人と見なされた日系人が強制的に収容所に送り込まれた史実は、長い年月を経て注目を集め、今ではアメリカ政府も公式に過ちと認めている。だが世界で最大の日系人社会を持つブラジルで、彼らはどのような扱いを受けたのか。それがずっと語られなかったのは、ブラジル日系人自らがその痛ましい史実、1943年の「日系移民強制退去事件」に触れにくかったからだ。ブラジルが戦後も長く軍政の下にあったことを忘れてはならない。 70年後の彼らがそのタブーを語り始めたのは、カメラを持ったひとりの風来坊の登場によってである。このドキュメンタリーは、ひとつの事件を叙述するのに、つかんだ情報を手際よく整理し、叙述するスタイルは取らない。松林要樹監督は、この主題が偶然知り得たものであることを隠さず、風来坊の立場を崩さずに、話を聞きたい人への面会をひとつひとつ積み重ね、当時のブラジル人の日本観や、日本本土出身者と沖縄出身者の間にある深い溝を見つけ出してゆく。 異国ブラジルで日本人であること、そしてその中で沖縄人であること。二重の差別に晒され、一瞬で家や財産を奪われた彼らのトラウマをほぐすことは容易でなかったはずだ。監督はその過程を強調するわけではないが、証言に臨まれた年輩のウチナンチュの方々の、カメラに対する信頼は確実に感じ取れよう。観る側も、人間を見つめることで心の中のボーダーを崩してゆける、そんな映画の可能性を改めて教えてくれる一本である。

21/7/30(金)

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