評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!
クラシック、歌舞伎、乱歩&横溝、そしてアイドルの著書多数
中川 右介
1960年生まれ、作家、編集者
赤い闇 スターリンの冷たい大地で
20/8/14(金)
新宿武蔵野館
タイトルの「赤」は、共産主義の象徴だが、映画の後半はモノトーン、白と黒しかない世界になる。最初から抑えた色調で撮られているのは、後半のウクライナの絶望、色のない世界を描くための映像的伏線なのだろう。 色のない世界、つまり、希望のない世界だ。 スターリン政権初期の1932年から33年にかけての大失策、ウクライナ大飢饉が描かれている。本で読んで知ってはいたが、たとえ劇映画とはいえ、映像として見ると、改めて、怒りと絶望がこみあげる。 この映画が描く絶望は2つ。ひとつは「飢餓」だが、もうひとつが、「ジャーナリズムの死」。 ソ連国内の報道はすべて共産党が管理しており、政権に不都合な事実は報じられない。しかし、それだけではないのだ。アメリカのソ連駐在のジャーナリストも、フェイクと知りながら、共産党政権の意に沿ったことしか報じない。ソ連国内の真実は、外へも伝わらない。その絶望。いまの日本で餓死する人は少ない。だが、「ジャーナリズムの死」は、すぐそこまで来ているように感じる。 見る前にオーウェルの『動物農場』を読んでおいたほうが、理解が深まると思う。
20/8/12(水)