Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!

文学、美術、音楽など、映画とさまざまな構成要素に注目

高崎 俊夫

1954年生まれ フリー編集者、映画評論家

ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)

岩手県一関市にある〝世界一のジャズ喫茶〟と称される「ベイシー」のマスター・菅原正二を描くドキュメンタリーである。「ベイシー」といえば色川武大が最晩年に一関に引っ越した直後、急逝したことが思い出される。あまりに濃密な友人づきあいを断ち、純文学作家として創作に専念する決意をした色川は、一方で、「ベイシー」の至高の音響でジャズが聴ける愉悦にも心惹かれたはずだ。 映画は、色川や最も尊敬する野口久光との交遊をめぐる私的回想、そしてベイシーでのエルヴィン・ジョーンズのドラムソロ、破滅型の天才サックスプレイヤー阿部薫のライブなどの貴重な映像を織り込みながら、菅原が独自のオーディオ哲学を披歴する様子を親密なタッチで描き出している。とりわけ村上〝ポンタ〟秀一がマイルス・デイヴィスの『Fast Track』に合わせてドラムを演奏するシーンや渡辺貞夫が『スマイル』を朗々と謳いあげる場面は、そのリアルな〝音〟の響きが、あたかもベイシーという空間に身を置いているかのような錯覚を抱かせる。「ジャズ喫茶って意外にしぶとい。なぜならジャズそのものがしぶといから。だからジャズ喫茶もけっこうしぶとく生き残っている」「俺はカッコいい音を出したい」「スピーカーも楽器だと思う」。ジャズへの骨がらみの愛がまさに血肉と化している菅原のような真の〝ジャズ極道〟にしか吐けないとびきりの名フレーズが印象的である。

20/9/17(木)

アプリで読む