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水先案内人のおすすめ

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時代劇研究家ですが趣味は洋画観賞。見知らぬ世界に惹かれます。

春日 太一

映画史・時代劇研究家

名もなき歌

とてつもなく見応えのあるペルー映画だ。 前半は全く救いのない展開が続く。 貧しい先住民の女性が“無料で出産できる”という病院で子供を産むが、出産後に赤ん坊を取り上げられた挙げ句、病院からも閉め出されてしまう。その後、何度病院を訪ねても扉は開かない。警察も相手にしてくれない……。 理不尽な展開の連続の果てに、後半になってようやくひとりの記者が味方になってくれる。そして国際的な乳児売買組織の暗躍が明らかになっていくのだが……。 モノクロのスタンダードサイズを採用したことが実に効果的。巧みな陰影の使い方によって、往年のネオリアリズモ映画やポーランド映画を彷彿とさせる痛切な乾きが画面から滲み出ている。近年、あえてモノクロで撮る作品が出てきているが、本作はその中でも出色といえる。 終盤に出てくるスラムの映像など、強いインパクトを与える映像は多いが、特に印象深いのは序盤の赤ん坊を奪われる場面。 薄暗い病室、白い壁に映る助産婦たちの影、真っ黒に立ちはだかるドア……映し出される全てが冷たく無機的で、不気味で重々しく、主人公の絶叫が全く届かない絶望感を見事に表現していた。

21/7/26(月)

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