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吉田 伊知郎

1978年生まれ 映画評論家

驚異のドキュメント 中島貞夫ニッポンをえぐる!1969-1973(レイトショー)

『にっぽん’69 セックス猟奇地帯』 (7/20〜7/27) ラピュタ阿佐ヶ谷  特集「驚異のドキュメント 中島貞夫ニッポンをえぐる!1969-1973」(7/20〜8/26)で上映 今年、20年ぶりの劇映画『多十郎殉愛記』が公開された中島貞夫監督は、やくざ映画、時代劇、アクション映画、文芸映画など多彩なフィルモグラフィを誇るが、異色なのはドキュメンタリー、それも性風俗をテーマにした作品がまぎれこんでいることだろう。扇情的なタイトルが多いので安易なエロドキュメンタリーに思えるが、実は大真面目に〈日本人と性〉を追求した意欲作ばかりだ。とはいえ、こうした作品は評価の対象になりにくい上に、公開後は観ることが出来ない作品ばかりだった。この15年ほどの間に断続的にニュープリントが焼かれたが、一挙上映は実現しなかった。今回、ラピュタ阿佐ヶ谷はニュープリントも含む全4本の連続上映という歓迎すべき暴挙に出ようとしている。これで遂にドキュメンタリストとしての中島貞夫の全貌が明らかになるはずである。 1本目となる『にっぽん’69 セックス猟奇地帯』(1969)は、1968年の日本の状況を丸ごと飲み込もうとする力作だ。東映京都撮影所が異例のドキュメンタリー製作に挑んだもののノウハウがないためガムシャラにあらゆるものを撮っておいたことが功を奏したようで、今見ると、半世紀前の新宿の熱気、猥雑さをカラーで垣間見ることができるのが貴重。新宿のアルタ前をシンナーを吸いながら歩く若者と、花園神社で盛り上がる唐十郎率いる状況劇場の芝居、そして10・21の新宿騒乱――。大島渚の『新宿泥棒日記』(1969)と並んで、〈1968年の新宿〉を知るには最良の1本だろう。 もっとも、それだけではないのが本作のユニークなというか怪しいところで、美容整形の施術光景まで生々しく映される。隆鼻、豊胸、二重瞼への手術を行う様子が映されるが、時代のせいか、けっこう雑な施術で恐ろしくなる。さらにブルーフィルムの撮影風景があるかと思えば、唐十郎がレポートする返還前の沖縄潜入レポートなど、硬軟織り混ぜ、何でも見てやろうという野次馬精神が飽きさせない。 公開されるや本作は大ヒットとなり、それを喜んだ東映社長の鶴の一声で、中島貞夫が準備していた次回作はオールスター総出演の大作へと変貌を遂げることになる。それが日本のテロ事件をドキュメンタリー・タッチで描く『日本暗殺秘録』である。なぜ、こんな危ない企画がオールスターで作ることが出来たのか? その理由は『にっぽん’69 セックス猟奇地帯』にあった。

19/7/18(木)

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