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注目されにくい小品佳作や、インディーズも

吉田 伊知郎

1978年生まれ 映画評論家

深作欣二記念室 特別公開

「深作欣二記念室 特別公開」水戸市立中央図書館 2階  2020年11月15日(日)・2021年1月16日(土)・3月6日(土) 映画関係者が亡くなると、古本市場に貴重な関連資料が出回ることは珍しくない。有名な話では、衣笠貞之助監督の映画関連の遺品に1千万円の値が付けられた。こうした一括売却の場合は良いが、大半は散逸を余儀なくされる。記念館の設立を、という声はよく耳にするが、こうした資産を活かすも殺すも、その価値を理解し、どう見せるかを熟知した人の有無にかかっている。 有名なスターですら記念館の長期維持が困難な時代だけに、映画監督になると黒澤明監督の記念館計画が頓挫したぐらいなので、話にならないと思いそうになるが、浜松の木下惠介記念館、松山の伊丹十三記念館、渋谷の市川崑記念室など、工夫をこらした展示と運営を続ける場所もある。これらは遺品を活かす人と智恵があってこそのものだろう。 2003年に亡くなった深作欣二監督の出身地である水戸市には、2009年に遺品、蔵書などが遺族から寄贈され、水戸市立中央図書館に「深作欣二記念室」が設置された。雑誌、図書が約4000点、フィルム、LD、ビデオ、CD約300点に加えて、映画賞を受賞した際のトロフィー、賞状、さらに日常の愛用品も収蔵されている。 普段は非公開だが、今年は深作生誕90周年を記念して特別公開されることになった。事前申込の際にやりとりした「310+1シネマプロジェクト」の谷田部智章氏の案内で展示品の解説を聞くが、東映と深作映画への愛情にあふれた語りぶりが実に好ましく、こちらの問いかけにも打てば響く博識ぶりが頼もしい。 展示は蔵書が中心とはいえ、深作監督が生前に使用していた書棚に収められた書籍の数々は想像をかき立てられるものばかりだ。『丑三つの村』『OUT』『レディ・ジョーカー』といった深作以外の監督によって映画化された小説が並んでいるのを眺めながら、もしかしたら深作版の可能性があったのかもしれないと思いを馳せてみるのも楽しい。 資料として読み込んでいたとおぼしい本も多い。戦前の共産党にまつわる本が一角を占めていたが、これは東映で作ろうとして中止になった『実録・共産党』(後に角川映画で『いつかぎらぎらする日』と改題して再度挑むも頓挫)のためのものだろう。 棚の隅に無造作に挿されたコピー用紙の束を見ると、表紙に『愛と幻想のファシズム 第二稿』とある。『バトル・ロワイアル』(00年)の直後に映画化を検討していた村上龍原作の脚本である。また『バトル・ロワイアルII 鎮魂歌』(03年)の企画書には、主演の欄に藤原竜也と役所広司とあり、初期構想では役所広司が何らかの役(教師役か?)で出演することが検討されたことが分かる。こうした公式には明かされていない構想や企画の片鱗を見つけることが出来るところを見ても、この記念室が映画史的にも貴重な場であり、深作欣二を研究するうえで最重要拠点であることが分かる。 意外だったのは、自作の批評が載った映画雑誌には細かく付箋が貼られ、小林正樹監督の後を継いだ大作『敦煌』(後に降板、佐藤純彌監督で映画化)のロケハンが収められた数冊のアルバムは驚くほど綺麗に整理されていた。こうした繊細さが、整然よりも雑然を好む画面を美学的に構築していたことをうかがわせる。 時間を忘れて見入ってしまう場所だけに、これだけの文化資産を受け継いだ水戸市には、限定公開と言わず、ぜひ恒久的な常設を検討してもらいたいものだ。案内してくれた谷田部氏のような人がいれば、この資産は数十倍にも膨らませて価値あるものにして見せてくれるはずだ。

20/11/1(日)

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