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水先案内人のおすすめ

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一瞬がすべてを救う映画、だれも断罪しない映画を信じています

相田 冬二

ライター、ノベライザー

その日、カレーライスができるまで

リリー・フランキーの表現を、ひとり芝居というフォーマットでまるごと独占できる、まるでシェフズテーブルのような贅沢三昧作品。 息子を病気で喪い、それを契機に妻とも別居することになった男。いまは、ひとり暮らしのその部屋で、彼がカレーライスをつくる夜。奥さんの誕生日だから。一緒にはいないけど、彼女は、3日目のカレーライスが好きだから。 去来する後悔。よみがえる思い出。ミルフィーユのように積み重なっている記憶の断面を、リリー・フランキーは体感させる。あるときは、雷の音に驚きながら。あるときは、闇に怯えながら。雨音が、心細さ、心許なさにかたちを与え、その夜だけの心象を浮かび上がらせる。 彼は説明をしない演技者だ。生まれたてのリアクションが転がり、ちいさなくるくるとした音を、ささやかに反響させるだけ。ひとりごとというもの取り扱いが繊細で、わたしたちの魂はごく自然に無防備になってしまう。 たからもの。 かぶりつきで見つめることのできる、この愉悦を。お見逃しなく。

21/8/15(日)

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