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映画史・映画芸術の視点で新作・上映特集・映画展をご紹介

岡田 秀則

1968年生まれ、国立映画アーカイブ主任研究員

【特別展】生誕100年 激動の時代を生きた二人の女優ー 原節子と山口淑子

2020年は、日本映画史にとってあまりにも大切な俳優三人が生誕100年を迎える年だ。つまり三船敏郎、原節子、山口淑子(李香蘭)。この三人は今秋国立映画アーカイブでも特集上映されるし、また名画座のスクリーンにもお目見えする。あまりの重要人物なのでまとめて観たい人も多いだろうが、実践すると大変忙しい年になる。 それを承知で書くが、むしろ決して見逃してはならないのは、鎌倉ですでに開催されている原節子と山口淑子の展覧会だ。何しろ、自らのスターイメージを戦前・戦中・戦後それぞれの形で社会に刻印し得た、日本近現代史のイコンのような二人である。作品を観て「美しい……」と思うだけでは済まされない、屹立した生がそこにはある。 川喜多映画記念館は、若き原節子を抜擢した日独合作映画『新しき土』を製作した川喜多長政に由来する館だけあって、特に『新しき土』関連の資料には瞠目せざるを得ない。彼女がドイツで着たという和服も必見だ。そして「小津安二郎映画の原節子」など、彼女の決然とした生き様にあってはほんの一側面に過ぎないことが否応なく分かる。 また、東亜のスター李香蘭が実は日本人であると証明して無事帰国できた背景には、当時上海にいた川喜多の尽力があったとも言われる。それがあってこそ、黒澤明やサミュエル・フラーの映画に主演する戦後の彼女が再生したのだ。この企画は、中国・日本・アメリカをまたいで活躍した国際派女優の姿を振り返る絶好の機会になっている。 そして最後に小展示として、満州映画協会のフィルム編集者であり、新生中国に残って映画人の育成に貢献した岸富美子(昨年98歳で逝去)のコーナーがあるのが素晴らしいエピローグだ。あの戦争をそれぞれの形で渡り抜き、映画を通してそれぞれの志を貫いた三人の女性の道のりを、多くの方にたどっていただきたい。

20/10/3(土)

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