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水先案内人のおすすめ

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エンタテインメント性の強い外国映画や日本映画名作上映も

植草 信和

1949年生まれ フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

没後50年 成瀬巳喜男の世界

『妻よ薔薇のやうに』(12/14〜12/20) 神保町シアター「没後50年 成瀬巳喜男の世界」(11/9〜12/20)で上映 劇作家中野實の舞台劇『二人妻』の映画化で、成瀬己喜男監督“初期の代表作”との評価が高い佳作。 予告編・本編ともにメイン・タイトルは原作の『二人妻』で、サブ・タイトルが『妻よ薔薇のやうに』とクレジットされている。 ところがポスターやプレスシートでは『二人妻』が外され、『妻よ薔薇のやうに』のみ。 いつ、どこで、誰がクレジット・タイトルを変更したのかは謎だ。英題タイトルは『Wife! Be Like a Rose!』。 ベスト・タイトル賞を捧げたいくらい素敵なタイトルだが、それに負けず劣らず、作品自体も素晴らしい。 山田洋次監督は『妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ』でオマージュを捧げ、『恋にめざめる頃』というリメイク作も作られた(どちらもオリジナルの足元に遠く及ばない出来だったが)。 その作品的魅力の源泉は主演の千葉早智子(さちこ)にある。憂いをたたえた明眸、豊麗な相貌の輪郭、絢爛たる美貌というに相応しい華やぎと品位。そのどれをとっても映画史に残る名女優のひとりだ。 本作で千葉が演じているのは、丸の内に勤めるOLの君子という娘。歌人の母と二人暮らし。父は砂金探しに出たまま10年以上も帰宅せず、その土地で芸者のお雪と同棲し子供までもうけていた。君子は父とお雪に会うため信州へ。彼女は砂金探しを続ける父に帰ってほしいと懇願するのだが…。 揺れ動く君子の心情が、彼女とかかわる脇役たちとの会話や表情を通して、心に染み入る。悲劇的なお話なのに悲壮感や暗さが微塵もないのは、千葉早智子が生来持っている気品によるものだろう。余談だが、本作公開の2年後の1937年に成瀬と千葉は結婚。その3年後に離婚している。ふたりの間にどんな葛藤があったのだろうか。

19/12/12(木)

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