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水先案内人のおすすめ

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文学、美術、音楽など、映画とさまざまな構成要素に注目

高崎 俊夫

1954年生まれ フリー編集者、映画評論家

ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実

エンディングで、「ピーター・フォンダに捧ぐ」と献辞が出る。ああ、これはピーター・フォンダの遺作なのか、と、一瞬、こみあげてくるものがある。と同時に、この映画は、おそらく、クリストファー・プラマーの遺作でもあるはずだと、ふと思う。 1960年代に『イージー・ライダー』(69)でカウンター・カルチャーの精神をまるごと体現した反逆児も、『サウンド・オブ・ミュージック』(65)で模範的なヒューマニストの軍人を演じた名優も、この映画で、ベトナム戦争で亡くなった一人の若き空軍兵士ピッツェンバーガーに名誉勲章を授与するために奔走する空軍の官僚ハフマン(セバスチャン・スタン)にとっては、等しく、遥かなる60年代という過酷な時代の生き証人にほかならないのである。  当初、さほど、この仕事に乗り気ではなかったハフマンは、『舞踏会の手帖』(37)のヒロインよろしく、殉死した兵士の戦友たちの間を巡礼しながら、彼らの証言に耳を傾けるうちに、30年以上も前から請願されている名誉勲章が却下されている真の原因を探り当てる。そこで、明らかになる欺瞞に満ちた苦い真実とは──。 酸鼻極まる戦闘シーンが頻出するにもかかわらず、この映画が清々しい余韻を残すのは、主人公の瞳に映じた、老いさらばえた貌と身体を晒すピーター・フォンダ、クリストファー・プラマーに加えて、ウィリアム・ハート、エド・ハリス、サミュエル・L・ジャクソンといった老兵たちのいぶし銀のような存在感と表情がこの上なく魅力的だからである。

21/3/4(木)

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