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巨匠から新鋭まで、アジア映画のうねり

紀平 重成

1948年生まれ コラムニスト(元毎日新聞記者)

悪人伝

いま、自分の名前だけで客を呼べる韓国の俳優を一人挙げなさいと求められれば、あなたは誰を選びますか。私の場合は『新感染 ファイナル・エクスプレス』で筋肉ムキムキのナイスボディを武器に主役をすっかり食ってしまったマ・ドンソクです。その彼が自身の“売り”はそのままに、データを集めては推理する頭脳派の暴力団ボスという新たなキャラクターを得て大暴れするのですから、見逃せません。 彼が演じる暴力団の親分チャン・ドンスが映画の冒頭サンドバッグを使って激しいトレーニングをするシーンがあります。角度を変えて何度も何度も重いパンチを打ち込みます。何気ない描写に見えますが、サンドバッグの中には生きている人間が詰め込まれていました。敵対する組織への見せしめですが、彼の凶暴な一面が浮かび上がってきます。 そんな彼が鍛え上げた腕力だけではない別の一面を見せるのは、絶体絶命の危機に陥ったとき。当時、連続無差別殺人事件が世情をにぎわせていましたが、犯人がたまたま次のターゲットに選んだのがドンスでした。 雨の夜、交通事故を装って近づいた犯人が油断しているドンスを背後から襲いめった刺しにします。ところが思わぬ反撃に遭い犯人は現場から慌てて逃走。辛うじて一命をとりとめたドンスは部下に命じてすぐ犯人探しに動きます。同時に彼は頭脳を高速回転させ、犯人は車で移動し鋭利な刃物で背後から襲うという手口が共通しており、連続無差別殺人鬼によるものであると早い段階から確信します。さらに犯人ともみ合う最中に一瞬見ることのできた犯人の顔のイメージをもとに精密な似顔絵まで作り上げてしまうのです。 はち切れんばかりの上腕を一振りして相手をぶっ飛ばすかと思えば緻密に推理を重ねていくというキャラのドンスも魅力的です。そんな彼とは真逆を行くように刑事の身ながら捜査のためには暴力も辞さないという武闘派のチョン刑事(キム・ムヨル)も見せ場を作ってくれます。殺人事件唯一の生き証人であるドンスにチョン刑事が近づいたことから始まった犯人捜しのゲームはやがて互いの情報を交換し合う取引に。警察と暴力団という利害の相反する組織同士の「共闘」も見ものです。 もちろん現実には考えにくい提携ですが、その点を意識してかマ・ドンソクは「私の役は悪役です」とプレスのインタビューでわざわざ断ったほど。悪役でも好かれるキャラクターを彼がどう演じているかも見どころです。

20/7/13(月)

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