たとえば『駅馬車』で、インディアンの大群に追われながらも、疾走する馬車の馬に次々に乗り移ってゆくジョン・ウェインの血沸き肉躍る爽快なアクションシーンを吹き替えたのはヤキマ・カナットというスタントマンであったというのは映画史の常識としてよく知られている。だが、このドキュメンタリーに登場するスタントウーマンたちはまさに長い間、知られざる存在であっただろう。 サイレントの初期から女性や移民たちがスタントとして活躍していたという事実にも驚かされるが、並走する自動車から列車に飛び移るという危険極まりないアクションを、実際に豊富なフッテージ映像で観せる趣向がすばらしい。 ジーニー・エッパーという伝説のスタントウーマンは父親がゲイリー・クーパー、ヘンリー・フォンダの吹き替えをやったという親子二代のスタント一家で、そこで語られる逸話の数々は血の通った魅力あふれるハリウッド映画史そのものだ。常に死と隣り合わせであり、不慮の事故死を遂げた友人を語る彼女たちの言葉もしたたかに胸を打つ。CG全盛の時代にあっても、やはり真に感動を呼び起こすのは、生身の肉体による躍動感にほかならないことを、この魅力的なドキュメンタリーは教えてくれるのである。

21/1/8(金)