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時代劇研究家ですが趣味は洋画観賞。見知らぬ世界に惹かれます。
春日 太一
映画史・時代劇研究家
野球少女
21/3/5(金)
TOHOシネマズ 日比谷
かつて、脚本家を目指して習作していた時期があった。今から20年ほど前の話だ。 いろいろな脚本をたくさん書いたが、もちろん一本として芽が出ることはなかった。当然だ。才能がなかったのだ。当時はそのことが認められず、諦めきれずにいた。 これがダメなら、もう止めよう。最後のつもりで新人コンクールに出した脚本がある。 才能がありながらも女性であるためにプロになれない若者がアメリカ球団のトライアウトを受ける。そんな話だった。 この映画を観て、すっかり忘れていた、そんな若い頃の記憶が蘇った。 本作の主人公は、プロ野球選手になるために奮闘する高校生少女。まだ実力は足りない。周囲は女子野球を勧める。が、彼女は諦められない。 設定がなまじ似ていただけに、記憶の底にあった我が習作と比べてしまった。圧倒的な実力差を見せつけられた。苦い。 苦い理由は、それだけではない。人から何と言われようと夢を諦めきれずにもがき苦しむ本作のヒロインの姿が、あの頃の自分自身に重なったのだ。 そんな個人的な想いとしてもグッと来たのだが、もちろん一本の映画としても極めて優れている。素晴らしい。
21/3/5(金)