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伊勢正三 メロディーは海風に乗って

純粋な欲求

全13回

第13回

伊勢正三 撮影:吉田圭子

自分が理想とする音楽は──この連載で再三述べてきたけど──何よりもまず良いメロディと歌詞。そしてそこに音楽的な試みがいかに合致しているかということ。そういう意味では、まだ理想の音楽をやり切れていないという思いがある。だからこそ、こうしてまだ音楽をやっているということなのだろう。

アルバム『Re-born』(2019年2月)は、今のところ自分の理想にもっとも近い作品だ。そのなかに「テレポーテーション」という曲がある。アルバムの1曲目だ。ちょっと小難しい話になってしまうけど、この曲を書いたきっかけを話したいと思う。光の粒などの量子が、お互いにどんなに遠く離れていても、片方の粒子の状態が変化すれば、もう一方の粒子も瞬時に変化する〈量子もつれ〉という現象が量子力学ではあるのだが、この現象とラブソングを組み合わせたら──どんなに遠く引き離されても、なぜか互いのことがわかるというステキな歌ができるに違いないと思った。けれど、書いては捨ててというのを繰り返し、なかなか納得するものが何年もできなかった。

『Re-born』ジャケット

一方で、同じアルバムに入っている「冬の恋」はパッと思い浮かんだものだった。これは自分のなかでももっともシンプルなタイプの曲で、今はこういう気分じゃないんだけどな……と思いながら、けれど曲として自分のなかから出てくるものをあえて押さえつけることもない。ひとまず完成させておくか──そんな感じで最後まで作ったら、それをきっかけに一気に「テレポーテーション」の歌詞が書けるようになった。さらにはアルバムの全体像が組み上がるようにできていった。

自分の一番理想のピークにある「テレポーテーション」が、自分の一番素に近い状態からできた「冬の恋」によって導かれるというのが、考えようによっては、僕自身がこれまで歩んできたキャリアを指し示しているような気がした。

11曲目に収録している「俺たちの詩」も、まさに「冬の恋」ができたことによって道筋の見えた曲だった。これは、いわゆる“フォークソング”を僕自身が初めて意識的に作ったものだと言える。コードはCとGの2つだけで、あとは言葉のイメージをどんどん連ねていく感じ。しかし、最初の〈夢を見た〉という言葉はポンと出てきたのだが、それから先の言葉が全くつながらなかった。それで10年間ほど放置していたのだ。

近年のLIVE写真

吉田拓郎さんや高田渡さん、加川良さんといった先輩たちが作り上げたフォークソングを「俺たちの詩」で自分なりに形にできたこともそうだし、先ほどの「テレポーテーション」はAOR的なサウンドの追求の上にできた楽曲だ。そして、風の3rdシングル「ささやかなこの人生」(※アルバム未収録)と同一線上にある、10曲目に収録した「風の日の少年」にしても、このタイミングで形になったことに意味があるのだと感じた。

僕は、ソングライティングというのはジグソーパズルに似ていると思っている。最初に手にするかけらからは、それがどのような絵になるのかはわからない。けれどこの1ピースとくっついて離れないピースが生まれ、それがどんどんつながっていき、ああこういう景色だったんだとそこで知ることになる。最初から全体の絵は見えていないのだ。曲を作るときも同様で、断片から全体を形作っていく。

さらに同じように、僕のこれまで辿ってきた音楽人生というのもパズルのようなものだったのかもしれないと、今この地点に立って振り返ることでようやく理解できる。あのときのあれが、ここにつながっていたのかと。

近年のLIVE写真

40代になってからフライフィッシングに凝った。時間が空いたり、少しでもストレスがたまったりしたら道具を積んで車を高速道路に走らせ、都会を離れて渓流に分け入る。フライフィッシングというのは魚が動き出してからそこに向かって毛針を投げる釣りなので、待つ時間が長い。川のせせらぎや風に揺れる木立のざわめき、鳥の鳴き声などを聴きながら、視線は川面に集中している。それはまるで、未明から明け方にかけてじっと白い紙に向かって曲を書いているときに酷似している。一瞬、魚の背がきらめく。無駄のない動作で竿を振る。メロディと言葉が一体となって僕の頭のなかで跳ね回る──。

子供の頃、家のすぐ前にある海を覗いては、そのなかでゆったりと泳ぐ大きな魚をこの手に捕まえたいと思った。僕にとって、音楽を作るということは、純粋な欲求なのだ。それはこれからも変わることはない。

近年のLIVE写真

取材・構成:谷岡正浩

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ライブ情報

『なごり雪』50周年スペシャル 伊勢正三&イルカ コンサート
【日程】
5月18日(土)神奈川・茅ヶ崎市民文化会館
5月26日(日)東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
6月2日(日)埼玉・サンシティ越谷市民ホール
6月7日(金)神奈川・相模女子大学グリーンホール
6月9日(日)兵庫・アクリエひめじ(姫路市文化コンベンションセンター)大ホール
6月15日(土)宮城・仙台銀行ホール(イズミティ21)大ホール
6月23日(日)鹿児島・川商ホール(鹿児島市民文化ホール 第1ホール)
7月6日(土)奈良・なら100年会館
7月13日(土)佐賀・鳥栖市⺠文化会館
7月15日(月・祝)沖縄・那覇文化芸術劇場なはーと 大劇場
7月21日(日)愛知・Niterra日本特殊陶業市⺠会館フォレストホール
7月28日(日)山口・KDDI維新ホール
料金:9,000円

プロフィール

伊勢正三(イセショウゾウ)
1951年大分県津久見市生まれ。シンガーソングライター&ギタリスト
「かぐや姫」「風」という70年代を代表する両スーパーグループで一時代を築く。
80年にはソロとして、武道館コンサート等も成功させるが、その後、表立った活動は控えるようになる。
93年本格的に再始動。かつて8枚のアルバムでチャート1位を記録したその楽曲は、様々なアーティストにカバーされ、時を経た今もなお多くの支持を受けている。
現在はソロのLIVE、他のアーティストとのコラボレーション、コンサートプロデュース等、幅広く活動している。

■公式サイト:https://www.ise-shozo.com/