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監督、役者に着目して選んだこの映画
樋口 尚文
映画監督、映画評論家
十一人の賊軍
24/11/1(金)
TOHOシネマズ日比谷
『仁義なき戦い』シリーズをはじめとする濃密な脚本で知られる笠原和夫が『十一人の賊軍』の脚本を書いたのは、東京五輪の年、1964年のことだ。1950年代末に戦後の邦画黄金期は観客動員のピークを迎え、以後興行は凋落の一途をたどるわけだが、東映の看板だった時代劇もマンネリに堕して飽きられていた。一方でダイナミックな活劇表現を開拓した黒澤明の時代劇は熱烈な支持を集め、これに大いに刺激された東映からも様式的な時代劇の定式をリアリズムで打ち破る「東映集団時代劇」が生まれた。この路線は1963年の『十三人の刺客』『十七人の忍者』に始まり、翌64年の『大殺陣』『忍者狩り』『十兵衛暗殺剣』などが話題を呼んだが、まさに笠原和夫はこの勢いにのって同年『十一人の賊軍』の脚本を書き上げた。だが、東映京都撮影所長だった岡田茂がこの破滅的なラストに難色を示して企画は流れ、怒った笠原は第一稿を破棄してしまった。辛うじてその梗概だけは残っていたが、それだけでもじゅうぶんに本作の面白さは伝わるもので、なんとこのたび60年を経てまさかの映画化となった。そして直近作『碁盤斬り』で時代劇にも冴えを見せたばかりの白石和彌監督が、笠原のアイディアをみごとに映画として実現させた。こうしてアウトラインばかりを語っているのは、かかる作品誕生の経緯は踏まえてほしいものの、具体的な設定など全く知らないまま『十一人の賊軍』を観てほしいからである。権力の捨て駒とされたアウトローたちの花火のような華と儚さがいきいきと描かれている。
24/11/1(金)