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みうらじゅんの映画チラシ放談

ゴジラが“一線を越える”ってどういう意味なんでしょうねぇ。『ゴジラxコング 新たなる帝国』『ザ・タワー』

月2回連載

第128回

『ゴジラxコング 新たなる帝国』

── 今回の1枚目のチラシは、ハリウッド版ゴジラのシリーズ最新作『ゴジラxコング 新たなる帝国』です。

みうら このチラシにある構図は、小学生の頃、夢で見てたTV番組 “ローラーゲーム”に似てます(笑)。ダンプとか、ジュディ・ソーインスキーといった選手がね、腕をブンブン回しながらレーンを走るんですよ。ローラースケートのシューズが欲しくてねぇ、当時。ま、それはどうでもいいんですがね、今回(笑)。

このチラシには「一線を越える」ってキャッチコピーが書かれてあるでしょ。これはたぶん、怪獣ファンの常識から「一線を越える」っていう意味だと思うんですよね。

怪獣ファンからしたらそれは「超えてほしくない一線」かもしれません。日本のゴジラは『-1.0』で原点回帰なのに、ハリウッドは一線を越える。どうなんでしょう? 

最初の頃は、それこそ、日本の怪獣映画が大好きで怪獣映画で育ってきたアメリカの監督が撮ってくれてるんだろうと当然思ってたし、一線は越えないだろうと安心してましたけど、このチラシを見て「やっぱり超えるんだな、アメリカ野郎は」って思っちゃいましたよ。もはや僕の好きな怪獣映画じゃないことは確かだと思うんです(笑)。確実に『三大怪獣 地球最大の決戦』ではない“ゴジラ”ですよ。

まあ、それですっかり従来のイメージが変わってもいいんですけどね。僕を含めた上京組はね、たまに田舎に帰省するとかつての友だちから「お前変わったな」って否定的な声をかけられることもありました。でもよく考えたら、変わりたくて上京したわけですから。ゴジラだってハリウッドに行ってきっとそう思ってるに違いありません。

── ゴジラが「もう昔の俺じゃない」って言ってるってことですか?

みうら 変わったことを認めるのがファンの務めじゃないか、と言っていると思います。それにしても今回、またゴジラ、ずいぶん顔が変わりましたね。

ま、日本でも、何度も変わってますけどね。『怪獣大戦争』では当時流行ってた『おそ松くん』のイヤミのシェーのポーズまでやってたくらいですから。

でも、当時、小学生だった僕はそういうふざけたゴジラをなかなか受け止めることができなくてねぇ。なにか釈然としないというか、どちらかと言うとイヤだった思い出です。ゴジラはゴジラでいてほしいって小学校のときから思ってたんでしょうね。

キングギドラやラドンもハリウッドに行って、なんならもう“ホームステイ”じゃなくて“ステイホーム”状態だと思うんです。

── どういうことですか?(笑)

みうら いや、もう日本に帰ってこないんじゃないかと心配でねぇ(笑)。

だから、たまにゴジラから「拝啓、日本のみなさまへ」っていう便りでもあればまだホッとするんですがね。でもこのチラシは「一線を越える、常識が変わる」とも書かれてるでしょ。これは何もゴジラが言ってるんではないと思うんですけどね……。

── なんだか寂しい感じですね。

みうら いや、このチラシのカンジは東宝映画の『キングコング対ゴジラ』の匂いもするんですよね。そもそもキングコングがハリウッドですから。ゴジラがどんどんアメリカっぽくなるところを、今回コングが逆に「お前、田舎を忘れちゃ駄目だっぺ!」みたいなことを言うんじゃないでしょうか? 

昔は熱海城をふたりでぶっ潰し、ヤンチャした仲ですからね。当然、ヤンキーのセンスは持ってます。関西で言うところの「ヤンキー」ですけどね、当時は。

── 確かに関西人の母親から「関東でいうツッパリのことだ」って教わりましたけど、ヤンキーって本来はアメリカ人ってことですもんね。

みうら 日本産とか、そういうことの一線を越える。世界のゴジラですよと言いたいのではないかと。

チラシでコングが大きく口開けてますけど、「もう、そんなことどーでも良くね?」と言ってるんじゃないのかなあ。

── ゴジラも口を開けてますけども。

みうら 「だよなぁー!」って言ってるんだと思います(笑)。ハリウッド版の前作のタイトルが『ゴジラvsコング』でしょ。元々は『キングコング対ゴジラ』でしたからね。そこは、日本側がコングのことを立ててたんだと思うんです。

もう、今ではコンビ名ですよね。“ゴジコン”なんて、約(つづ)めて呼ぶんでしょ。でも、僕は観に行きますよ。怪獣ファンとして。たとえ次回作にジェットジャガーが登場したとしてもね(笑)。

『ザ・タワー』

── 2枚目のチラシは、フランスのSFスリラー『ザ・タワー』です。

みうら シャマラン的タイトルですが、何か関係はあるんですか?

── フランス映画なんで、シャマランではないと思います。でも、「建物の外に出ると物体がなくなる現象が発生」のコピー、確かにシャマラン感ありますね。

みうら シャマラン感プラスこのチラシには、ギラーミン感すら漂っていますね。ポスターやチラシの下に役者の顔写真を並べてるカンジがね。『タワーリング・インフェルノ』や『キング・コング』、『オリエント急行殺人事件』などのヤリ口です。

この場合、よく知らなくて申し訳ないんですが、チラシの下に並ぶ人たちは豪華キャストなんですか?

── いや、全然知らないですね。

みうら (笑)。豪華キャストじゃないのに並べるヤリ口は逆に新しいですよね。たぶん、このチラシをお作りになった方は、僕くらいの世代が引っかかるよう考えたに違いないんですよ。これは確実に『タワーリング・インフェルノ』のパロディだと思います。

『タワーリング・インフェルノ』では何人くらいの役者の写真が並んでましたか?

── ポール・ニューマンとスティーヴ・マックィーンを除くと9人いますね。

みうら 9人もいましたか。でも、主演のポール・ニューマンとスティーヴ・マックィーンに相当する人はこのチラシを見る限りいませんね。

ってことは、『ザ・タワー』、設計士と消防隊員がいない『タワーリング・インフェルノ』だってことになります。となると、火災ではなくこのタワー自体が生命体だということです。最近取り上げた『エレベーター・ゲーム』のときの予想と似てますけどね(笑)。

── 確かにちょっと雰囲気は似てるなとは思いました。

みうら ひょっとしてこの『ザ・タワー』、「ザ」が付くってことはバンド名でもあるんじゃないでしょうか? 下に写っている7人がそのバンドのメンバーだったりして。

── バンド名ですか? 

みうら いや、パニックものじゃなく、このタワーに貸しスタジオがあってね、そこに出入りしていると思ったんです。

── 確かに左から3番目の人なんかはミュージシャンっぽいですね。

みうら 左から4人目は確実にシド・ヴィシャスを意識してるでしょ(笑)? たぶんパンクバンドですよ。

── 子どもを抱いてる人もいます。

みうら バンド内での恋愛もそりゃありますからねぇ。

“ザ・タワー”っていう名のバンドと、“ザ・タワー”っていう生命体。それがどう結び付くのかは観てのお楽しみです。それにチラシには団地の中とも書いてありますね。『ウルトラセブン』のニオイもしてきます。

── フック星人の回ですね。

みうら そうです。夜中になるとこの団地タワーごと地下に潜るのかもしれません。チラシに書かれた「闇が現れる」ってのは、バンドの曲のタイトルでしょう。たぶん、メンバーは地獄から来たって設定ですから。

── それはキッスか聖飢魔IIみたいなことですか?

みうら そうなりますねぇ。……ごめんなさい、もう僕の妄想はここまでで限界です(笑)。

取材・文:村山章


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プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。

『マイ修行映画』
文藝春秋
1650円(税込)