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演芸写真家 橘蓮二のごひいき願います! 〜落語・演芸 期待の新星たち〜

春雨や晴太さん、遠峰あこ先生 ごひいき願います!

毎月21日連載

第34回

左より)春雨や晴太、遠峰あこ 撮影:橘蓮二

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「生まれ変わった落語家」──春雨や晴太

7カ月間の休養を経てカムバックした姿は以前とは別人と見紛うばかりの観客の反応を受け止める懐の深さと安定感抜群の所作と語り口が印象に残る見事な高座だった。大学卒業後、約7年に渡り会計士の仕事をしていた。日々ミスなく勤め上げてもクライアントからの身勝手な要望やプレッシャーに曝され続けることも珍しくない毎日。そんな激務が続き細かく削られるように疲弊していく気持ちに当時安らぎを与えてくれたのが落語だった。

それまで落語に関しての知識は皆無だったが次第に自分がお客さまに喜んでもらえる存在になりたいという気持ちが芽生え始め気付けばプロの道へ進むことを決意していた。2015年2月四代目春雨や雷蔵師匠に入門、4年半の前座修業を終えて2019年11月二ツ目昇進、2021年より結成された落語芸術協会の若手ユニット「ルート9」にも参加、精力的に活動の場を広げていたが真っ直ぐ真面目に落語に向き合おうとすればするほど気付かぬうちに心は迷走していった。無力感に苛まれ全てが停滞した状況下で導き出した答えは、暫くの間“落語から離れること”。結果的にこの判断が功を奏した。自己分析するとドライでタイプ的にはあまり感情の起伏がないと語るように自身を客観的に見ることは元々得てだったことで時間をかけながら内面を推敲するようにひとつひとつ的確に気持ちを整理することができた。例えばルート9の活動に於いて以前は回を重ねる毎に他のメンバーの技術や表現力の上達を感じると焦燥感が募ったが現在は他者との違いを認めながら自分の任に添った表現を模索するようになったと言う。

持ちネタ数は古典、新作合わせて100席に迫るほどの努力家。新作もほぼ毎月のペースで高座にかけているが、今は古典落語を磨くために即効性はなくとも何かのタイミングで物語に奥行きを持たせる細やかなヒントになればと次々とかけ捨てにしている。質を担保するために噺を量産しつつも細部により神経を行き渡らせる。確りと言葉を眺め、一文・一語に感情を乗せることを心掛けている。目標とする落語はお客さまが疲れない、爆笑よりも思わずクスッとする笑い。そして後になってから思い出す落語家になりたいと控えめに語る。

晴太さんは繊細であるが故に自分が見え過ぎていた。見え過ぎるのは見えていないことに等しい。しかし一旦心を休め生まれ変わった今は落語家として生きる道に綺麗に焦点が合っている。“新生 春雨や晴太”素敵な若手がまたひとりここにいる。

「ひとりはひとりに在らず」──遠峰あこ

“捨てる神あれば拾う神あり”とはよく言われることだが救世主は誰にでも目をかけるのではなく偽りのない情熱を持った者のみに手を差しのべる。代演での寄席出演から一年、今月より落語協会の正会員にスピード昇格した遠峰あこ先生のこれまでの人生はまさに困難に直面した時に発動される思いもよらない人との縁がもたらした数々の不思議に救われてきた。

高校時代よりバンド活動に熱中するも裏方としてアーティストを支えたいと音楽事務所への就職を決めた。しかし思いもかけないトラブルに巻き込まれ一方的に被害を受けたにも関わらず謂れのない誤解は解消されずに内定取り消しの憂き目にあう。割り切れない思いに落ち込む日々の中で次第に頭をもたげたのは変わることのない表現への渇望だった。音楽と同様に傾倒していた映像の世界を目指しまだコンピューターでアニメーションを描くことが困難だった当時、日本でも珍しい超高性能且つ超高額のパソコンを貯蓄していたお金を全てつぎ込み購入、使用方法の情報は乏しく取説も英語であったがひとつひとつ読解し自在に使いこなす迄になった。その後映像専門学校をトップの成績で卒業したが就職難に直面、しかし根性が違う。地方局の雑用の仕事を皮切りに念願の映像製作現場へ異動、在京テレビ局へ移り様々な映像製作を手掛ける。その間数々の映像関連の受賞歴を持つ。その後は多くの著名な映像作家が所属する事務所で活動を始めたが思わぬ弱点が露呈した。それは常に“表現したい想い”が起点になってきたので厳格な指示一辺倒の映像製作には不向きだった。関係者に迷惑はかけられないと退職、新たな表現を模索する中で出会ったのが民謡だった。教室に通い伴奏も自分でこなすためにアコーディオンを手にする。足には鈴を付け身ひとつで歌い演奏する“遠峰あこスタイル”が誕生した。

横浜野毛の居酒屋での流しをスタートに路上ライブなど様々な活動から“野毛の歌姫”と評判になり多くの落語会のゲスト出演を重ねる。更にヨーロッパを中心に世界各地での演奏も積極的に行っていたがコロナ禍に見舞われ順調だった活動が一転またひとりになった。しかし周囲の芸人さんが見過ごすはずがなく親身な働きかけで寄席出演へと道が繋がった。最も大事にしていることは“感謝の気持ちを持ち続けること”。明快で躍動感溢れる高座にはどんな困難も独学で切り開いてきた者が持つ強さが共存している。ずっとひとりで闘ってきた。だから決してひとりにはならない。

文・撮影=橘蓮二

春雨や晴太 公演予定

■-落語芸術協会 若手ユニット√9-晴太SPECIAL
2024年10月23日(水) 東京・EDOCCO 神田明神文化交流会館4F
開場 18:30 / 開演 19:00

■はればれ晴太
2024年10月28日(月) 東京・浅草なまらく亭
開場 18:30 / 開演 19:00

■ネタおろしの会
2024年10月30日(水) 東京・新宿 無何有
開場 19:00 / 開演 19:30

■第2回 ヘーゼル落語会
2024年11月3日(日・祝) 東京・喫茶モモンガ
開演 14:00

■メガネちーむ落語会
2024年11月10日(日) 東京・尾久おひねり亭
開場 17:30 / 開演 18:00

■第50回 十条落語 晴太のハレの日2
2024年11月16日(土) 東京・肉骨茶(バクテー)
開場 14:40 / 開演 15:00

遠峰あこ 公演予定

公式サイト:
http://tominegumi.com/

■まんてんの空に唄う
2024年10月23日(水) 東京・赤坂会館
開場 18:30 / 開演 19:00

■桜荘18/秋の狂い咲きスペシャル
2024年10月27日(日) 東京・con ton ton vivo
開場 18:30 / 開演 19:00

■まるらくご爆裂ドーン
2024年11月12日(火) 東京・しもきたドーン
開演 19:00

■くがらく
2024年11月16日(土) 東京・久が原会館
開場 13:30 / 開演 14:00

■ぷれみあむナイト
2024年11月30日(土) 東京・浅草 あさくさ劇亭
出演:遠峰あこ 共演:MAKO(ピアノ)
昼の部:開場 13:30 / 開演14:00
夜の部:開場 17:30 / 開演 18:00
予約:2800円 / 当日:3000円
東京都台東区西浅草2-8-2
問い合わせ:03-6231-6047
予約:
https://asakusa-gekitei.jimdosite.com/

プロフィール

橘蓮二(たちばな・れんじ)
1961年生まれ。95年より演芸写真家として活動を始める。人物、落語・演芸を中心に雑誌などで活動中。著書は『橘蓮二写真集 噺家 柳家小三治』『喬太郎のいる風景』など多数。作品を中心にした「Pen+」MOOK『蓮二のレンズ』(Pen+)も出版されている。落語公演のプロデュースも多く手がける。近著は『演芸場で会いましょう 本日の高座 その弐』(講談社)。