![](/shared/materials/30852b07-9bdb-415b-a37b-843f1daf4076/origin.jpg)
金原亭馬久 撮影:橘蓮二
4年目を迎える本連載がリニューアルスタート! 毎回、高座の臨場感と共にオススメの芸人さんをご紹介。今月は秋の真打ち昇進が待ち遠しい「古今亭」を担う気鋭の若手金原亭馬久さんが登場。よろしくお願いいたします!
金原亭馬久さん『猫怪談』2024年12月21日「第三十四回 馬久行久(うまくいく)~金原亭馬久勉強会~」神田連雀亭
![](/shared/materials/304787ce-4168-4d10-b51f-9ff6df7816cd/origin.jpg)
誠実で然り気無い優しさを感じる高座は聴く者の気持ちにゆっくりと溶け込んでゆく温もりがある。心地よく耳に届く声音、登場人物の心情や情景の距離感を緻密に描き出すために無駄な動きを省略した美しい所作、飽くことがない聴けば聴くほど深く浸透してゆく端正な“金原亭の落語”を体現する見事な三席。
![](/shared/materials/ed93015c-53cb-4520-a69f-2d969fdc9c4e/origin.jpg)
特に印象深く心に残ったのが二席目の『猫怪談』だった。主人公の与太郎が実父と変わらぬ愛情で育んでくれた養父の亡骸を早桶で運ぶ途中に遭遇する怪異譚。笑い所も殆どなく意表を突く展開もないワンシーンを切り取ったちょっと不気味で不思議な世界。猫の魔力で動き出した父親の遺体に状況を理解出来ない与太郎が想いを伝える純心と亡くなった父親の無念など様々な感情が呼び起こされる怪談というよりは切ない親子の情愛の物語が際立っていた。
![](/shared/materials/904c0ea9-46a5-4e9e-a8b1-13a7f60c05a6/origin.jpg)
2010年11月十一代目 金原亭馬生師匠に入門、半年間の見習いを経て翌5月に前座名「駒松」で前座修業を開始、2015年11月上席「馬久」と改名し二ツ目昇進、そして今年2025年9月下席より六代目 金原亭馬好襲名と共に待望の真打ち昇進が決まっている。これからは今まで以上にあまり他者がやらない珍しい噺や長講を高座にかけていきたい、そして自身が演じることでそれを聴いた誰かがやってみたいと思ってもらえたら落語家として存在する意味があると語る。さらにあまり知られていない多くの魅力的な落語が消えないよう少しでも形にして残せるように自分が落語界に於ける“前向きな意味での歯車”になれたらと先人の想いを受け継ぐ矜持も忘れない。
![](/shared/materials/8e96419d-b45f-44de-9544-1b19036f2ed5/origin.jpg)
ジャズプレーヤーの父を持ち生まれながらに様々な表現に触れてきた中で大学在学中に落語に出会った。表舞台に立った経験がない落語ファンだった青年は特別な舞台装置も照明もない全てはお客様の想像力という無限の宇宙にひとりで立ち、独自の世界を創造する落語の魅力に心を掴まれいつしかプロの道へ舵を切っていった。演者としての技量は元より伝統を紡いでいくために日々懸命に高座に取り組む姿勢は落語家としての意識の高さを感じる。物語は既に存在し表現者は媒介者であることを知る謙虚さ、押し付けるのではなく相手に寄り添おうとする心根、馬久さんには表現者にとって最も肝要な時代を超えてゆける美質が既に備わっている。芸も人も将来名人になれる逸材。今秋の真打ち昇進へ向けて「馬久」改メ 六代目 金原亭馬好師匠を是非ともごひいき願います!
文・撮影=橘蓮二
<取り上げた公演>
「第三十四回 馬久行久~金原亭馬久勉強会~」
2024年12月21日(土) 東京・神田連雀亭
開場 17:30 開演 18:00
![](/shared/materials/eae5927b-a579-461f-b40c-072fa437b26d/origin.jpg)
今後の公演予定
公式サイト:
https://bakyu.hatenablog.com/
■真打目前
2025年1月22日(水)、2月26日(水)、3月19日(水)
会場:東京・鈴座Lisa cafe
開場 18:30 開演 19:00
![](/shared/materials/c66daf39-374a-44fe-855c-27e35cca1bcc/origin.jpg)
■東京国際バリトンサックス・フェスティバル2025 プレ・イベント「彼とボクらのツアーは続く」
2025年1月25日(土) 東京・神保町試聴室
開場 18:00 開演 18:30
![](/shared/materials/ade4ebc3-e298-4e39-82f9-cd2ee13223cc/origin.jpg)
■トリしかみえない。
2025年2月21日(金)、3月11日(火)、4月15日(火)
会場:東京・新宿 無何有
開場 18:30 開演 19:00
![](/shared/materials/479fc7c6-fa0d-49c7-a6db-5a141676dee2/origin.jpg)
プロフィール
橘蓮二(たちばな・れんじ)
1961年生まれ。95年より演芸写真家として活動を始める。人物、落語・演芸を中心に雑誌などで活動中。著書は『橘蓮二写真集 噺家 柳家小三治』『喬太郎のいる風景』など多数。作品を中心にした「Pen+」MOOK『蓮二のレンズ』(Pen+)も出版されている。落語公演のプロデュースも多く手がける。近著は『演芸場で会いましょう 本日の高座 その弐』(講談社)。