左より)桂三実、九ノ一 撮影:橘蓮二
続きを読む近年、上方落語家の躍進が目覚ましい。若手の登竜門、NHK落語新人大賞に於いても、ここ10年間で7人の大賞受賞者が上方落語協会所属と圧倒している。数多の気鋭が積極的に活動の場を広げる中、4月5日神保町らくごカフェにて開催された、昨年の大賞受賞者・桂三実さんと、同大会本選出場を果たした注目株・桂九ノ一さんの二人会は、各々が古典と新作の大きな両輪となって、今後の上方落語を力強く牽引していくことを十二分に予感させる見事な高座だった。

二人会は二度目(東京では初めて)とは思えない息の合ったオープニングトークから、古典(桂九ノ一さん)と新作(桂三実さん)を二席ずつ披露。桂三実さんは抜群の発想力と緻密な構成力で描く『ネタ』と『みんな京阪』。桂九ノ一さんはダイナミック且つ繊細な描写力で魅了する『天神山』と『花筏』。共に効果的なマクラから手際よく物語を起動させ、瞬く間にお客さまの感情を自分の世界に引き込む手腕は素晴らしかった。

桂三実さんの作品は、“架空であるのに近しい”ほどよい距離感がある。未知から創作していく新作落語にあっては、時代・キャラクター設定やストーリー展開は自由であるが、跳躍力が過ぎると気持ちが追いつかなくなることがある。

しかし三実さんの落語は、観客を置き去りにしない。実際にはあり得なくても“ありそう”と共感させる力を感じる。そこには何百という新作落語を作り続けてきた偉大な師、桂文枝師匠から受けた多大な影響がある。“跳んだ発想の時ほど日常的な設定にする”と心掛け、さらに状況に応じて“老若男女どんな層にも分かりやすい噺”“マニアックなもの”“誰もやってこなかったテーマ”を自在に操り、同じ根多であっても毎回微細な部分を変える創意工夫をするなど幾つもの引き出しを持っている。

翻って、将来は上方を代表する古典落語の名手になると期待される桂九ノ一さん。溢れ出る、はち切れんばかりの“落語愛”がダイレクトに届く濃密な高座は嘘がなく、とても心地いい。先月、大阪心斎橋PARCOでの初となるホール独演会も昼夜満員の大盛況、順調にステップアップしながら、日々自身の現在地を知ろうと謙虚に試行錯誤を続ける。

九ノ一さんは表現者としての感度が非常に高い。聴き手との間合い、落語表現への向き合い方、常に変化を繰り返す目前の現象のみに囚われず、その向こう側にある落語家としての“自分への関与”を探求する。どんな時も“上方落語でありたい”と語る一途な姿勢は、まさに落語家になるために生まれてきたのだと合点がいく。

この日、上方落語の逸材二人が魅せた高座には、古典と新作双方の魅力が隅々まで満ち溢れていた。と同時に、日々思考と実践を怠らない、ハイレベルな“落語脳”が際立っていた。上方落語、グイグイ来てます!
文・撮影=橘蓮二
<公演情報>
「桂三実・桂九ノ一 二人会」
2025年4月5日(土) 東京・らくごカフェ
開場 13:00 開演 13:30

桂三実 今後の公演予定
■生喬まるかじりの会2025~新作ばなし編~
2025年5月22日(木) 大阪・動楽亭
開場 18:30 開演 19:00
■笑福亭智丸 第19回繁昌亭大賞新人賞受賞記念ウィーク
2025年5月23日(金) 大阪・天満天神繁昌亭
開場 13:00 開演 13:30
■生駒寄席せせらぎ亭 桂文三奮闘落語会 其の五
2025年5月25日(日) 奈良・南コミュニティセンターせせらぎ
開場 13:30 開演 14:00

■漫才落語漫才 in 繁昌亭
2025年5月26日(月) 大阪・天満天神繁昌亭
開場 18:30 開演 19:00

■桂慶治朗新作落語の会
2025年5月27日(火) 大阪・天満天神繁昌亭
開場 18:15 開演 18:45

■桂三実シンプル勉強会
2025年5月28日(水) 兵庫・西宮えびす亭
開場 19:00 開演 19:30
■三ツ星落語会vol.26
2025年5月30日(金) 大阪・ツギハギ荘
開場 18:45 開演 19:00
■深夜寄席
2025年5月28日(水) 大阪・天満天神繁昌亭
開演 21:45
■BSよしもと創作落語の会
2025年5月31日(土) 東京・浅草5656会館
開場 11:00 開演 11:30
開場 17:30 開演 18:00

■桂三実の確信的落語会
2025年6月2日(月) 大阪・猫も杓子も
開場 19:00 開演 19:30
■ショートネタと落語の会
2025年6月3日(火) 大阪・猫も杓子も
開場 18:45 開演 19:00
■桂三実の確信的落語会
2025年6月5日(木) 大阪・猫も杓子も
開場 19:00 開演 19:30
■桂三実シンプル勉強会
2025年6月11日(水) 兵庫・西宮えびす亭
開場 19:00 開演 19:30
■第365回 ゆとりーと寄席
2025年6月13日日(金) 大阪・ユトリート東大阪 3階ホール
開演 18:30
■金鯱ノ会 伍
2025年6月14日(土) 愛知・大須演芸場
開場 13:30 開演 14:00

■喜楽館昼席~笑福亭笑利 上方落語若手噺家グランプリ優勝お祝いウィーク~
2025年6月17日(火) 兵庫・新開地喜楽館
開場 13:30 開演 14:00
■第3回 新作落語自作自演の会~古典に変わるまで~
2025年6月17日(火) 兵庫・西宮えびす亭
開場 18:30 開演 19:00
■喜楽館昼席~笑福亭笑利 上方落語若手噺家グランプリ優勝お祝いウィーク~
2025年6月18日(水) 兵庫・新開地喜楽館
開場 13:30 開演 14:00
■第11回 上方落語若手噺家グランプリ 決勝戦
2025年6月18日(水) 大阪・天満天神繁昌亭
開場 18:00 開演 18:30
■よしもと祇園花月 本公演
2025年6月19日(木) 京都・よしもと祇園花月
開場 11:30 開演 12:00
開場 14:30 開演 15:00
■桂吉弥独演会
2025年6月20日(金) 愛知・緑文化小劇場
開場 17:30 開演 18:00

■第32回 大津はつらつ寄席~三風改め桂慶枝襲名披露公演~
2025年6月21日(土) 滋賀・大津市伝統芸能会館
開場 13:30 開演 14:00

桂九ノ一 今後の公演予定
■桂九ノ一 春風亭かけ橋 ふたり会
2025年6月14日(土) 東京・アートスペース兜座
開場 18:00 開演 18:30

プロフィール
橘蓮二(たちばな・れんじ)
1961年生まれ。95年より演芸写真家として活動を始める。人物、落語・演芸を中心に雑誌などで活動中。著書は『橘蓮二写真集 噺家 柳家小三治』『喬太郎のいる風景』など多数。作品を中心にした「Pen+」MOOK『蓮二のレンズ』(Pen+)も出版されている。落語公演のプロデュースも多く手がける。近著は『演芸場で会いましょう 本日の高座 その弐』(講談社)。
