
笑福亭笑利 撮影:橘蓮二
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驚くべき才能の塊、そして間違いなく将来の上方落語を代表するひとりになることは必定の逸材である。関西での10年間の活動を経て11年目となる今年、更なる刺激を求めて東京に拠点を置き新たな挑戦がスタートした。
8月2日東京・神保町らくごカフェで開催された「笑福亭笑利 落語会」で見せた三席は初見のお客さまが多数詰めかけた東京の聴き手にも、笑利さんのポテンシャルの高さを十全に感じさせる出色の高座だった。

一席目は笑利さんの師匠であり、またパペット落語の創始者でもある笑福亭鶴笑師匠譲りの『鯉つかみ』で客席の度肝を抜いた。人形を用いた派手な設えのみに傾かない、地の喋りとの絶妙な間合いから繰り出される世界観に思わず爆笑。笑利さん自身も「エンターテインメントの王道」と語るように老若男女誰もが楽しめる強い訴求力を有している。

一転、二席目は『看板のピン』で古典落語の世界へ誘う。真っ直ぐ揺るがない正中線から台詞ひとつひとつを丁寧且つスピーディーに配置していく緩急が効いた語り口で、観客の想像力を一気に持っていく没入感は痛快だ。

そして中入りを挟み三席目は新作『カッパのガタロ』。主人公の少年と河童の交流を、独自のくすぐりから終始絶え間ない笑いを纏いながらも、ちょっぴり切ない余韻で描く優しい作品に仕上がっている。

古典、新作、加えてパペット落語と他ではなかなか観ることができない振り幅が大きい三席であったが、その何れもが物語への関与の仕方、展開力と出力の均整が見事に取れている。“型”があるからこその“型破り”であるように、持ち根多も古典は40席、新作は20席と質量共に充実していることからもわかる通り、これまでに培ってきた土台の確かさが伺い知れる。

さらに「芸人として成長していくために、これまでやっていないことにも常にチャレンジしていきたい」と貪欲に表現の場を求める姿勢が自身の落語を一層研磨していく。将来は全国で独演会を開催し、上方落語を担う一翼になりたいという目標も必ずや結実するに違いない。

大御所から若手まで東西を見渡しても、古典・新作共に圧倒できる落語家はそうはいない。若手屈指のハイレベルな二刀流(パペット落語を入れ三刀流)である笑福亭笑利さんの東京進出は東西の若手落語家にとって大きな刺激になる。耳にしていた評判を超える上方からやって来た気鋭の高座に魅せられた。要注目である。

文・撮影=橘蓮二
<公演情報>
「笑福亭笑利 落語会」
2025年8月2日(土) 東京・らくごカフェ
開場 17:30 開演18:00
笑福亭笑利 今後の公演予定
■笑福亭笑利責任プロデュース よしもと落語寄席in繁昌亭
2025年9月2日(火) 大阪・天満天神繁昌亭
開場 18:30 開演 19:00

■ハルカス寄席
2025年9月13日(土) 開場 14:15 開演 14:30
2025年9月25日(木) 開場 12:45 開演 13:00
会場:大阪・あべのハルカス SPACE9
プロフィール
橘蓮二(たちばな・れんじ)
1961年生まれ。95年より演芸写真家として活動を始める。人物、落語・演芸を中心に雑誌などで活動中。著書は『橘蓮二写真集 噺家 柳家小三治』『喬太郎のいる風景』など多数。作品を中心にした「Pen+」MOOK『蓮二のレンズ』(Pen+)も出版されている。落語公演のプロデュースも多く手がける。近著は『演芸場で会いましょう 本日の高座 その弐』(講談社)、『演芸写真家』(小学館)。
