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稲葉友の「話はかわるけど」

オンライン×オフライン×イベント【後編】

毎週連載

第149回

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映画の舞台挨拶を通して、以前は当たり前だったことが、貴重なことだったと痛感する稲葉さん。今後のエンターティメント業界についても、色々と考えることがあるようで……。

イベントでいうと映画『ずっと独身でいるつもり?』の完成披露試写会が10月19日にあった。緊急事態宣言明けで、映画館が100%お客さんを入れられるようになっては初めての舞台挨拶。舞台挨拶はずいぶんお無沙汰だったこともあり大きな感動があった。

メディアの方々が2、3列いて、後ろはお客さんで埋まっていて、お客さんのそれぞれの顔がある。そんな当たり前だったはずの光景にとてもグッときたのだ。当たり前じゃなくなったことがもう当たり前になっていたんだという現実にも改めて衝撃を受けてうっかり泣いてしまいそうだった。

ふくだももこ監督はもう挨拶の時に感極まって涙していて、隣の僕はひたすらに強く頷いていた。作品を共に作ったことだけでも戦友のような感覚が芽生えるが、それ以上にこの景色をこのタイミングで一緒に見られたことにこみ上げてくるものがあった。挨拶が終わっての舞台袖では「いや、すごかったね」とみんなで言い合った。『ずっと独身でいるつもり?』の完成披露試写会は、僕にいろんな感情、感動をくれた。このタイミングでそれを経験できたことは、とてもありがたい。この共感と感動は理屈じゃない。やっぱりお客さんがいる空間は最高だと強く思う。

完成披露試写会の後しばらくネットニュースで、いろんな舞台挨拶で俳優が100%埋まった客席に感動している記事が多く出ていた。お客さんを入れられなかった時期でも、リモートや別の形でなんとか繋いで堪えていた映画業界に少しだけ元の景色が帰ってきた。それはやっぱり、老いも若きもキャリアさまざまあれど共通する感動があるんだと思う。

こういう情熱の火は絶やしたらいけないし、やはり集まれるならば集まった方がいい。一概に「やっぱり対面でしょう」とは言えないが、集まったことで生まれる感動は絶対にある。それは僕にとってとても大きなものだ。

舞台で共演していた大鶴佐助と「これから俳優を始めようという人たちは超大変だよな」みたいな話になった。目指すには色んなルートがあるが、今のご時世で一から始める人たちは、僕らが始めた頃にはなかった大変さがあると思う。親御さんの気持ちになると、ご時世もあって応援しにくいという気持ちも強くなると思う。コロナ前、コロナ禍中を経験している僕らには、後々に「役割」みたいなものが出てくるのかもしれない、と、そんな話をした。

この前の完成披露試写会はご褒美みたいな気分になったなあ。お客さんもメディアの方々ももたくさん来てくださって。別に自分が頑張ったワケじゃないんだけど、色んな人が色んなところで踏ん張った結果、こういう景色がまた見られたんだなって。どっかで我慢して飲み込んでいたところを刺激されて、心が震えた。

コロナがあって良かったとは絶対に言えないし、今もまだ苦しい部分は多くある。それでも、だからこそ、人が集まれない時期を経たがゆえの感慨はあった。会場がお客さんでいっぱいになるというのは本当に嬉しくて。もともとたくさんのお客さんが来てくれるのは嬉しいし、コロナのせいでなく客席が埋まらないという悔しさも経験しているんだけど、世界中共通の困難があっての対面形式に強く感動できたことは、仕事を続けていくうえで素晴らしい経験になった。

『ずっと独身でいるつもり?』の公開は11/19とこれから。映画館で観ていただくのがベストだけど、まだ映画館に行くのは不安と言う人は、観られるタイミングでおうちでも是非観ていただきたい。日常と隣り合わせな物語なので、家という環境とも相性は良いと思う。映画館で観られる方は是非とも映画館で。

次回の更新は11月17日(水)です。お楽しみに!

プロフィール

稲葉友(いなばゆう)

1993年1月12日生まれ、神奈川県出身。
2010年、ドラマ『クローン ベイビー』(TBS)で俳優デビュー後、ドラマ、映画、舞台と幅広く活動。
主な出演作に、ドラマ『仮面ライダードライブ』(‘14~’15 EX)、『MARS~ただ、君を愛してる~』(’16 NTV)、『ひぐらしのなく頃に』(’16 BSスカパー!)、『レンタル救世主』(’16 NTV)、『将棋めし』(’17 CX)、映画『ワンダフルワールドエンド』(’15)、『HiGH&LOW』シリーズ、『N.Y.マックスマン』(’18)、『私の人生なのに』(’18)、舞台『すべての四月のために』(’17)、映画『春待つ僕ら』(’19)『この道』(’19)など。
J-WAVE『ALL GOOD FRIDAY』(毎週金曜11:30~16:00生放送)ではレギュラーパーソナリティ―を務める。

撮影/斎藤大嗣、取材/藤坂美樹、構成/中尾巴、ヘアメイク/速水昭仁、スタイリング/添田和宏、衣装協力/ジャケット¥13,200/ユーズド(カウンシルフラット1 TEL:03-6807-0812)
シャツ¥4,290、タイ¥1,100、パンツ¥4,290/すべてユーズド(原宿シカゴ 原宿店 TEL:03-6427-5505)
ベルト¥15,400/ヴィンテージワークス(ヴィンテージワークス TEL:03-6712-7920)
ソックス¥2,090/タビオ(タビオ株式会社 TEL:0120-315-924)
シューズ¥6,380/コンバース(コンバースインフォメーションセンター TEL:0120-819-217)
リング¥19,250/ユーズド(タナゴコロータス 東京 TEL:03-5843-1346)
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