和田彩花のアートさんぽ

“絵とことば“を五感で楽しめる体感型ミュージアム──PLAY! MUSEUM

毎月連載

第18回

『大どろぼうの家』展示室入口

東京・立川市にある美術館と子どもの遊び場を中心とする複合文化施設「PLAY!」を訪れました。ここに併設された「PLAY! MUSEUM」は、「絵とことば」をテーマに、2020年に開館した美術館です。

現在開催されている企画展『大どろぼうの家』(9月28日(日)まで)は、「どろぼう」をテーマにした没入体験型の展覧会。児童書や漫画、絵本に登場する悪ものなのに、なぜか心惹かれてしまう「どろぼう」。この展覧会は来場者がとある大どろぼうの家に忍び込む、という設定で構成されています。

今回、ご案内頂いたのは、PLAY! MUSEUMの草刈千優さんです。

PLAY! MUSEUM広報の草刈千優さん

8つの部屋で構成された「大どろぼうの家」とは?

はじめに、「大どろぼうの家」の手がかりになる本を開いてみましょう。今回の展覧会では4冊もの「どろぼう本」が出版されていて、展示室のあちこちに置いてありますよ。

展覧会入口に設置されている『大どろぼうの家 文・絵 大どろぼう』は、大どろぼう自身が「大どろぼうの家」について語る物語。展覧会を見る前でも、見た後でも楽しめる一冊です

「大どろぼうの家」は8つの部屋で構成されています。入ってすぐにあるのは「緑の回廊」。ここでは、あの石川五右衛門や、ドイツの児童文学作品に登場するホッツェンプロッツ、絵本でおなじみの「すてきな三にんぐみ」など古今東西さまざまなどろぼうたちの肖像が展示されています。作品の横についているQRコードを読み込むと、描かれているどろぼうたちの情報を詳しく知れる仕掛けも。

イラストレーターの伊野孝行さんが手がけたどろぼうの肖像は、それぞれ違った画風で描かれています。描き分けをみているだけでも楽しい
展示室内のあちこちにQRコードが設置され、展示作品の解説を読むことができます

続く「青の応接間」では、大どろぼうの愛読書と盗みに使う道具が展示されています。約170冊の書籍は、「大どろぼうが持っていそうな本」というテーマで、ブックディレクターの幅允孝さんによってセレクトされています。

防衛マニュアルから正義についてまでさまざまなテーマを、大どろぼうは読み込んでいたんですね。展覧会で好きなだけ本とともに時間を過ごせるのも嬉しいです。

本のラインナップから、大どろぼうの人物像が見えてくるかも?
鍵にまつわる本もありました
子どもたちがたくさん集まるここは「赤の隠し部屋」です。祖父、父、孫の3世代が集めたどろぼうに関する資料やグッズを手にとって楽しめるお部屋。椅子も設置されています

先へ進むと「白の小部屋」へ入ります。ここは、PLAY! MUSEUMのスタッフさんが、これまで開催した展覧会で関わりのある作家さんなどから盗んできたお宝を展示している部屋なのだと草刈さんが紹介してくれました。

普段は福音館書店さんの社屋の外壁にかかっている大きな「ぐりとぐら」の時計も盗まれた!? PLAY! MUSEUMさんでは2021年に『ぐりとぐら しあわせの本』展が開催されました
22年にはさくらももこさんの人気漫画『コジコジ』をテーマにした展覧会も開催されました。こちらはさくらさんが海外旅行へ出かけた際にお土産で買ってきた品々
PLAY! MUSEUMさんとはさまざまな企画で協働した谷川俊太郎さんの創作ノート。ここに書かれた詩「二十億光年の孤独」は、次の展示の一部にもなっています

続く「銀の庭」は、谷川俊太郎さんの詩と谷川さんの息子、賢作さんによる音で構成するインスタレーションです。

谷川俊太郎さんの訃報を聞いた大どろぼうが、谷川さんの宇宙や星をめぐる15の詩を盗みだして庭に飾ったのだとか

「二十億光年の孤独」は、谷川さんと賢作さんよって朗読されます。朗読とともに流れる素敵なカリンバの演奏もじっくりお聞きくださいね。

この空間から生まれた谷川さんの詩集『星たち 谷川俊太郎詩集 選 大どろぼう』も出版されています
こちらはカラスが集めた片方だけの靴下コレクション「黒の壁」。よくみると、5本指ソックスでキラキラした靴下が混じっているらしいので、探してみてくださいね

7つ目の展示空間「トリコロールの廊下」では、絵本作家のヨシタケシンスケさんが、大どろぼうからの依頼で描き下ろした絵本『まだ大どろぼうになっていないあなたへ』の原画が展示されています。

「大どろぼうを育てるための本」というテーマのなかに、ヨシタケさんらしいメッセージが込められた『まだ大どろぼうになっていないあなたへ』の原画

実は今回の展覧会の企画は、初期の構想段階で、ヨシタケさんにこの絵本の制作を依頼したのだそう。「どろぼうという存在について考え、いろいろな形で発展させていくことができるような物語を作ってくださいました」と草刈さん。

『まだ大どろぼうになっていないあなたへ』も、もちろん本になっています
こちらは来館者のみなさんが参加できるコーナーです。「あなたが盗まれたものはなんですか?」という問いに、あなたならなんて答えますか?

最後のお部屋「光の蔵」には大人用と子ども用、ふたつの入口が。展示室に入ると、大どろぼうが昭和、平成の時代から盗んだ懐かしいお宝が並んでいます。

大人用と子ども用、ふたつの入口がある「光の蔵」

「子ども用の入り口からは、展示ケースの下を潜って通れるようになっています。静かに歩こうとしても、音が鳴ってしまう仕組みなんですよ。子どもの目線で楽しめる展示空間になっています」(草刈さん)

昭和、平成に流行ったたくさんのガラクタにワクワク

そして、この部屋の最後にはお宝が展示されています。しかし、ブラックライトで照らされて光る、センサーを模したロープに当たらずに進まなければいけません。小さなお子さんとぜひチャレンジしてみてくださいね。

大どろぼうの気分になれる楽しい展示です。センサーに触れると大きな音が鳴ってしまうので気を付けて!

『大どろぼうの家』展のグッズもとても可愛い。Tシャツはデザインによってボディのサイズ感を変えるなどのこだわりがあるようです。さらっと着こなしたい可愛いデザイン。 今回の展示のために出版された4冊の本ももちろんミュージアムショップで購入可能。とても素敵なので、じっくり楽しんでみてくださいね。併設のカフェでは、展覧会に関連したオリジナルメニューも用意されています。

ミュージアムショップには『大どろぼう展』のオリジナルグッズがたくさん揃っています
PLAY! 提供 撮影:高橋マナミ

ユニークな遊具で自由に遊べる「PLAY! PARK」

こちらの施設「PLAY!」の特徴は、なんといっても美術館鑑賞後に小さなお子さんと一緒にさまざまな工作ですぐにアウトプットできるところ。子どもが自由に遊べる「PLAY! PARK」にもぜひ立ち寄ってみてください。

現在は緩衝材「プチプチ」でできた遊具が設置されています

身近な素材を使った遊具をダイナミックに設置し、子どもたちが自由な発想で遊びまわることができる空間です。商品の梱包で使われるプチプチでできたブランコで遊ぶこどもたちの姿が印象的でした。

0歳から楽しめるワークショップは、毎日開催されています。赤ちゃん用のものからMUSEUMとのコラボ企画まで、バリエーション豊かな4つのメニューが魅力的です。

「PLAY!」のある新街区「GREEN SPRINGS」には、ショップやレストラン、カフェのほか、コンサート会場などもあります。お休みの日に出かけた先に当たり前にアート施設があるってとても素晴らしいですね。大人も子どもも一緒に楽しめる施設「PLAY!」にぜひ遊びに行ってみてくださいね。

撮影:村上大輔

PLAY! MUSEUM

2020年6月、東京・立川駅北口の新街区「GREEN SPRINGS」に美術館と子どもの遊び場を中心とする複合文化施設「PLAY!」がオープン。「PLAY! MUSEUM」は、「絵とことば」をテーマにしており、絵本やマンガ、アートを中心に参加型、体験型の展示を取り入れたさまざまな企画展が開催されている。また、併設の「PLAY! PARK」は子どものための屋内広場。広々としたプレイルームには、身近な素材でできた遊具が設置されているほか、「PLAY! MUSEUM」とも連携し子どもたちの創造力を育むさまざまなワークショップも開催されている。
https://play2020.jp/

【展覧会情報】
『大どろぼうの家』
2025年7月16日(水)ー 9月28日(日)

来場者自身がかの有名な「大どろぼう」の家に来場者が忍び込むという設定で構成された展覧会。回廊、応接室、隠し部屋など8つの部屋に分けられた展示室には、古今東西さまざまな物語に登場するどろぼうたちの肖像画や変装道具、どろぼうにまつわる書籍のほか、谷川俊太郎やヨシタケシンスケなどさまざまなジャンルのアーティストたちの作品も。許されざる罪人でありながら、わたしたちがどろぼうに憧れ、惹かれてしまうのはなぜ? どろぼうや人間の不思議さ、おもしろさを、体験展示を通して楽しめる。

プロフィール

和田彩花

1994年8月1日生まれ、群馬県出身。

アイドル:2019年ハロー!プロジェクト、アンジュルムを卒業。アイドルグループでの活動経験を通して、フェミニズム、ジェンダーの視点からアイドルについて、アイドルの労働問題について発信する。

音楽:オルタナポップバンド「和田彩花とオムニバス」、ダブ・アンビエンスのアブストラクトバンド「L O L O E T」にて作詞、歌、朗読等を担当する。

美術:実践女子大学大学院博士前期課程美術史学修了、美術館や展覧会について執筆、メディア出演する。