和田彩花のアートさんぽ
運慶仏を常設展示!都心で気軽に仏像鑑賞を──半蔵門ミュージアム
毎月連載
第19回

運慶作《大日如来坐像》の前で
東京都千代田区にある半蔵門ミュージアムへやってきました。こちらの施設では、真如苑が所蔵する仏教美術のコレクションが無料で一般に公開されています。常設展示では、運慶作と推定される《大日如来坐像》、ガンダーラ仏伝浮彫などが見どころです。
現在開催中の特集展示『阿弥陀仏―おわす・みちびく・あらわれるー』(12月28日(日)まで)も合わせて紹介します。今回は、客員研究員の山田美季さんにお話しを伺いながら鑑賞しました。

運慶作《大日如来坐像》に間近でじっくりと向き合う
地下1階の展示室に進んでいくと、すぐ正面に見えるのは常設展示エリアです。最初の展示は、「ガンダーラの仏教美術」。ガンダーラ地域とは、現在のパキスタン北部の町ペシャワールを中心としたエリアを指します。現在のパキスタン北部からアフガニスタン東部にまたがる、広域ガンダーラ(グレイター・ガンダーラ)という広範な地域を指すこともあります。
「こちらに展示されているガンダーラ仏伝浮彫は、お釈迦様の生涯や説話を浮彫(レリーフ)で表したものです。もとはストゥーパ(仏塔)の周囲などに据え付けられていました」(山田さん)
2~3世紀のガンダーラでは、ギリシャ・ローマ美術の影響を受けた多くの仏像や本生図(釈迦の前世の物語)や仏伝図が刻まれたそうです。ここでは、お釈迦様の誕生や出家、説法など多彩な場面が彫り出された美しい仏伝浮彫が並んでいます。

《初転法輪》は、釈迦が最初の弟子となる5人の仲間に説法をしている場面です。身を乗り出して説法を聞く人々の表情が印象的です。

続いて「祈りの世界」と題した展示エリアへ。こちらで注目したいのはやはり運慶作と考えられ重要文化財に指定されている《大日如来坐像》です。
鎌倉時代に制作されたとされる本像は、ヒノキ材の割矧ぎ造りで、玉眼が嵌入されています。想像していたよりも小ぶりで、すらっとした印象です。

こちらの《大日如来坐像》にも運慶らしい写実性を見ることができますか?
「柔らかそうな肌の肉感や充実した体軀、身体を覆う自然な衣の曲線がこの御像の魅力のひとつです。智拳印を結ぶ両手と腹部とのあいだに生じる空間の造形も美しく、横から見た姿にも自然な調和が感じられます」


《大日如来坐像》像内の納入品についての詳しい展示もあります。
「この御像は、まずX線透過撮影で納入品が確認されました。その後ボアスコープという内視鏡を耳の孔から挿入して撮影した画像や、X線断層撮影(C T)で得られたデータをもとに像内の納入品を原寸大の模型として再現しました」

金箔が貼られた像内には、仏さまの魂を蓮台のついた水晶珠で表した「心月輪」も収められています。また「上げ底式内刳り」が施されていることも、よく分かります。
「上げ底式内刳りとは、像の底の部分を一段高く刳り残して(上底式)、木造彫刻の内部を空洞にする(内刳り)技法のことです。これにより大日如来坐像の場合には、内部の納入品の位置を決め、しっかりと固定することができます」
ちなみにこの大日如来坐像はどこのお寺のためにつくられたものなのでしょうか?
「古い記録『鑁阿寺樺崎寺縁起幷仏事次第』にみえる、足利義兼(?〜1199)発願の樺崎寺下御堂に祀られていた、厨子に建久4年の願文のある“三尺皆金色金剛界大日如来像”にあたるものかと考えられています」

こちらは平安時代に一木造りでつくられた《如意輪観音菩薩坐像》です。

「この如意輪観音は、左足を踏み下げているのが特徴的です。正面から見ると小顔でスレンダーなイメージの本像ですが、横から見ると体幹がずっしりしています。後世の修理において、木屎漆(こくそうるし)を盛って造形しなおされていた面部については、今回の修理でそれを除去し、制作当初の姿にお戻しました。また、髷(まげ)の中心に四角い窓があり、そのなかには舎利容器と舎利が納められていたこともわかりました」

常設展示の締めくくりは、平安時代につくられた《不動明王坐像》と《二童子立像(矜羯羅童子・制吒迦童子)》です。

「平安時代の作であるこちらの不動明王坐像は後世の修理の際に玉眼が入れられましたが、鎌倉時代から使われた技法である玉眼は、もとの姿では使用されなかったと考えられるため、修理の際に玉眼が外されました」

不動明王に付き添う従順で素直な矜羯羅童子(こんがらどうじ)とやんちゃな制吒迦童子(せいたかどうじ)も見てみましょう。
「性格の対比が穏やかなのが平安時代の二童子立像の特徴です。童子の裙(腰から下を覆う衣服)の裾に切金紋様が施されていたりと、当時の美意識を伺い知ることができます」


仏像、仏画に見るさまざまな阿弥陀如来の姿
つづく展示室は、特集展示『阿弥陀仏―おわす・みちびく・あらわれる―』。
極楽に住んでいる阿弥陀さまは、極楽に往生したいと思う人々を必ず迎え入れてくれると言われているそうです。そんな阿弥陀さまのさまざまな姿を見ていきましょう。
こちらは平安時代につくられた《阿弥陀如来立像》。このお像のようなサイズの阿弥陀如来は「三尺(約90cm)阿弥陀」と呼ばれ、鎌倉時代に浄土教系のご本尊として数多くつくられましたが、平安時代の作例はあまり多くないのだそう。

浄土真宗では「方便法身像」と呼ばれる姿で本尊を表します。背後に四十八条の光明を放っているのが特徴です。人々を救うために、たくさんの光明を放ちながら「あらわれる」そうです。

こちらは《阿弥陀三尊来迎図》です。じっくり見てみると少し足を開いて、いまにも一歩踏み出すかのような姿で表されています。亡くなった信者を「みちびく」ために駆けつける「来迎図」の阿弥陀さまには動きが感じられます。

特集展示の最後に展示されるのは《清海曼荼羅》。この曼荼羅にあらわされるのは、阿弥陀さまの「おわす」浄土の世界です。《清海曼荼羅》は、奈良・超昇寺の僧・清海(?〜1017)が、長徳2(996)年に感得した阿弥陀浄土の世界を写したものだそう。
「金、銀を粉状にして、膠(にかわ)と混ぜて作られる金泥・銀泥で描かれます。当時、ロウソクで照らされていたら、その光で煌めく極楽浄土の世界が現れたのではないかと思います」


半蔵門ミュージアムでは、常設展も特集展示も無料で見学することができます。また、特集展示に合わせてレクチャーや講演会も行われているほか、3階のシアターでは、展示に関する映像の上映も行われており、仏教美術への理解をさらに深めることができます。誰でも見ることができますので、東京近郊で素敵な仏さまに会いたいとき、ぜひ足を運んでみてくださいね。

撮影:村上大輔
半蔵門ミュージアム
地下鉄半蔵門駅すぐの場所に2018年にオープン。真如苑が所蔵する仏教美術を一般公開するための文化施設で、地下1階の展示空間では、運慶作と推定される大日如来坐像(重要文化財)や、ガンダーラ仏伝浮彫などが常設展示されているほか、特集展示として仏像や仏画、経典などをさまざまな切り口で紹介している。館内には仏教文化に関する映像を楽しめるシアターや講座などを開催するホールも併設されており、仏教美術をさまざまな角度から学び、楽しむことができる。
https://www.hanzomonmuseum.jp/
【展覧会情報】
『特集展示 阿弥陀仏―おわす・みちびく・あらわれる―』
2025年9月13日(土)~12月28日(日)
念仏を唱える人々を必ず極楽浄土へ導くといわれ、広く信仰を集めた阿弥陀如来に焦点を当てた特集展示。修理が完成したばかりの《阿弥陀如来立像》、浄土真宗独特の本尊である《阿弥陀如来像(方便法身像)》や、信者を極楽浄土へと《阿弥陀三尊来迎図》など、仏像、仏画に表されたさまざまな阿弥陀如来の姿を紹介。さらに阿弥陀如来がおわす極楽浄土の表す《清海曼荼羅》なども展示し、阿弥陀信仰が育んできた美の世界を感じとることができる。
プロフィール
和田彩花
1994年8月1日生まれ、群馬県出身。
アイドル:2019年ハロー!プロジェクト、アンジュルムを卒業。アイドルグループでの活動経験を通して、フェミニズム、ジェンダーの視点からアイドルについて、アイドルの労働問題について発信する。
音楽:オルタナポップバンド「和田彩花とオムニバス」、ダブ・アンビエンスのアブストラクトバンド「L O L O E T」にて作詞、歌、朗読等を担当する。
美術:実践女子大学大学院博士前期課程美術史学修了、美術館や展覧会について執筆、メディア出演する。