和田彩花のアートさんぽ

最先端の現代アートに出会える。渋谷の隠れ家的スポット──UESHIMA MUSEUM

毎月連載

第23回

「UESHIMA MUSEUM COLLECTION」のオーナー、植島幹九郎さんと

東京・渋谷にあるUESHIMA MUSEUMへやってきました。事業家・投資家の植島幹九郎さんの現代アートコレクション「UESHIMA MUSEUM COLLECTION」を紹介する施設です。植島さんは2022年から「同時代性」をテーマに収集を開始。国際的なアーティストからキャリアをスタートさせたばかりのアーティストまで、約800点の作品がコレクションされています。

UESHIMA MUSEUMは、植島さんの母校であり、国際的な視野や高い倫理観を重視した教育で評価を受けている渋谷教育学園の敷地内に位置します。もともとブリティッシュ・スクール・イン・東京の建物だったこの場所は、2024年に地下1階から5階まで現代アートの展示室をもつ美術館に生まれ変わりました。3階から5階までは、美術館の展示室でありながら、一部オフィスとしても使えるように設えている空間もあるそうです。

建物の入り口で来館者を迎えているのは、加藤泉の大きな立体作品《Untitled》(2024年)です

今回は、25年まで金沢21世紀美術館の館長を務めていた長谷川祐子さんをキュレーターに迎えたコレクション展『創造的な出会いのためのテーマ別展示』を中心に紹介します。1年に1回を目安に展示替えが行われているそうです。

エントランスでは動物たちがお出迎え

美術館のエントランスには、ふとしたところに動物をモチーフにした作品が点在しています。

何気なく置かれた植物の鉢の上で、来場者に語りかける一匹のカエルを発見。こちらは、ライアン・ガンダーの《You Complete Me, or I see things you canʼt see (A Frog’s Tale)》です。

ライアン・ガンダー《You Complete Me, or I see things you canʼt see (A Frog’s Tale)》2025年

カエルの声は、当時6歳だったガンダーの息子さんによるもので、そのモノローグは、私たちの思考やものの見方を揺さぶります。

「ガンダーは車椅子で生活をしていますが、例えば“歩ける“とか“話せる”とか“普通”や“当たり前”はそれぞれに異なる、というような内容が語られています。渋谷教育学園の学園長が、私が中学生のときから『それぞれに凹凸はあっても、全ての人、ひとりひとりに価値があるんだ』ということをおっしゃっていて、その言葉と通ずる作品だと思い、エントランスに設置しました」(植島さん)

ライアン・ガンダー《Sowing confusion amongst the titles, or The squatters (Tiger meet Hiller’s Lucidity & Intuition: Homage to Gerturde Stein (2011)》2020年

こちらの猫の作品も、ライアン・ガンダーによる作品です。本来ならば美術品を展示する台座の上で、すやすやと寝息を立てているかのようにわずかに体を動かしていますが、猫からしたら、ただ寝やすいからそこにいるにすぎないのかもしれません。この作品は、「不法占拠」がテーマになっており、本来のルールや境界線をユーモラスに飛び越えていく姿を通して、 異文化での共生といった現代社会の問題を示唆しています。

植島さんが現代アートのコレクションを始めたきっかけが気になります。

「2016年にニューヨークで行われたゲルハルト・リヒターの個展を見て、リヒターのペインティング作品に大きな衝撃を受けました。その後、自宅やオフィスに飾る作品を購入し始めましたが、2022年に事業拡大に伴い、作品を設置できる場所が増えたこともあって、本格的にコレクションを始めました」

「都市とポップ」「宇宙と重力」 ……
フロアごとに巡る多彩なテーマ

それでは、フロアごとにテーマが設定された展示を見ていきましょう。

1階の展示室では、カルチャーの発信地である渋谷の街が持つエネルギーや、デジタル、ストリートといった大衆文化(ポップ)の文脈を汲んだ作品群が並びます。

アンディ・ウォーホルのキャンベルスープ缶から奈良美智の版画作品、バンクシーまで。
中央はタジマミカの《You Be My Body For Me (Unit 3)》2020年

タジマミカの《You Be My Body For Me (Unit 3)》は、ピンク色のローズクォーツの原石 と、その背後にある2枚の黒いガラスパネルで構成された立体作品です。

「タジマミカさんは見えないものを可視化することをテーマに作品を制作されています。この作品は、鑑賞者が近づくとセンサーによってソーシャルネットワーク分析アルゴリズムが発動して 、ガラスパネルが透明・不透明を繰り返すんですよ」

鑑賞者がパネルに近づくと、センサーが感知しガラスパネルが透明になったり不透明になったりします

植島さんが「同時代性」を感じる作家を中心にコレクションされていて、作品購入の際には作家や作品についてさまざまな情報を確認されるそうです。しかし、情報だけでなく、直感でいいなと思う気持ちも大切にされているのだとか。

地下1階のテーマは「宇宙と重力」。1階とは雰囲気がガラッと変わります。

地下1階は、アーティストたちの壮大な宇宙観を感じられる神秘的な空間です

個人的に目を惹かれたのは、メキシコの作家ボスコ・ソディの作品《untitled(Urushi series)》です。抽象的に浮遊する物質のようなものと何層も重ねられたピンク色に奥行きを感じられて、眺めているのが楽しい作品です。

ボスコ・ソディ《untitled(Urushi series)》2015年
木炭で金星を描いたロバート・ロンゴ《untitled(small Venus)》2005年

2階は主に常設作品で構成されています。中央のスペースには、植島さんのコレクションのきっかけにもなったゲルハルト・リヒターの作品群が。さらに、2025年からは、ジェームズ・タレルによる常設のインスタレーション作品《Boris》が新たに設置されました。真っ白な展示室(定員3名)のなかで、壁の開口部から放たれる色と光が移ろう神秘的な空間になっており、じっくりと光と対峙する瞑想的な時間を過ごすことができます。

ゲルハルト・リヒターの作品が並ぶ2階中央の展示室
ジェームズ・タレル《Boris》2002年

2階ではほかにも、チームラボ、塩田千春、ルイーズ・ブルジョワ、名和晃平など、錚々たる作家の作品が小さなお部屋に分かれて展示されています。

こちらは、2024年に森美術館で開催された個展も記憶に新しいシアスター・ゲイツの展示室です。

左:シアスター・ゲイツ《Slaves, Ex Slaves》2021年

「ここで流れている音楽も含めて、すべて本人の監修のもと制作された展示室です。《Slaves, Ex Slaves》では、アメリカの社会学者によって発表された黒人奴隷比率のグラフをネオン管の長さで示しています。明るくきらびやかな社会とそれを支える黒人奴隷という構図を可視化しています」

オラファー・エリアソン《Eye see you》2006年

こちらはオラファー・エリアソンのインスタレーション《Eye see you》。単一周波数のライトに照らされた展示空間に入ると、目に見える全ての色が黄色に塗り替えられます。

「煌びやかな宝飾品やバッグを持っていても、肌の色が違っても、人間は皆平等なんだということをあらためて感じられる作品です。この作品のように、インスタとかで写真を見ただけじゃわからない、リアルに体感する、五感で感じられるような作品を購入する傾向があるかもしれませんね」

植島さんのコレクションは、社会問題をしっかりと扱った作家が多いのが印象的です。

「2011年の東日本大震災のとき、被災地に炊き出しに行ったのですが、そのときにNPO法人ピースウィンズ・ジャパンの大西健丞さんに出会いました。その縁で、リヒターが瀬戸内海の豊島に《ゲルハルト・リヒター14枚のガラス/豊島》を寄贈したということを知りました。リヒターと大西さんは難民キャンプの支援活動を通じて出会い、リヒター自身も豊島へ足を運んで作品の寄贈に至ったそうなのですが、このときに初めて『アーティストはただ作品を作るだけではなく、実社会と深く関わり、社会に対して大きな役割を果たしているんだ』ということ知りました。その後、最初にお話ししたように、ニューヨークで実際にリヒターの作品を見ることにつながっていくのですが、アーティストたちが現代社会においてどういったテーマをもって表現しようとしているのか、というところへの興味が、私が現代アートに惹かれる最大の理由なのかなと思います」

学校の渡り廊下だった場所も、今では洗練された展示室へと生まれ変わっています。池田亮司の《data.scan [n°1b-9b]》(2011/2022年)では、ずらりと並んだ9枚のディスプレイに、染色体や宇宙、素粒子の研究データなど、世界を構成する膨大なデータが極限まで緻密にビジュアライズされ、高速で映し出されています

展示期間中に新収蔵された作品も

続く3階のテーマは、「幾何と内省のコンポジション―常温の抽象」。幾何学的な抽象作品が並びます。

今回の展示がスタートしてから購入し、設置されたというタラ・ドノヴァンの《Untitled》(2024年)。遠くから見るとガラスのような透過性のある物質に見えますが、近づくと枠の中に無数のフィルムが折り重ねられていることに気づきます。

「日常にある既存のさまざまな物質をアートにする作家です。透過性のあるポリエステル素材が何層にも重ねられているので、作品の背後にある窓越しの景色や、太陽の位置、一日の光の移り変わりによって、作品が見せる表情が刻一刻と変化していく様子を楽しめます 」

タラ・ドノヴァン《Untitled》2024年。大きな窓に面して設置されており、外の光によって、また見る位置によっても表情が変わる作品です

具象と抽象の作品が交互に並ぶ4階のテーマは「ナラティヴと色彩のアウラ」。具象画の構図と色が、隣に展示されている抽象画と呼応するように展示されています。

アフリカをはじめ多国籍なアーティストたちが、その歴史やそれぞれの人生の語り(ナラティヴ)を表現した作品が並びます

最後の展示室となる5階は「物質と感情のエンタングルメント」。愛、欲望など、さまざまな情動を、物質とイメージの絡まり(エンタングルメント)として表現された空間です。ここでは、植島さんが最初に購入した作品が展示されています。それが、ベルナール・フリズの《Bitje》です。

中央がベルナール・フリズの《Bitje》2019年

この作品を買うまでに、世界のさまざまなグローバルのメガギャラリー のインスタグラムを見続け、自分の好きな作品と感性を見極めっていったそうです。そんな時間を経て、選んだ一点は特別な作品になりそうですね。

水戸部七絵《remember love》2022年。ジョン・レノンとオノ・ヨーコの「ベッドイン」を描いた作品。マットレスに直接描かれています

都会の真ん中でたくさんの現代アートに触れられるUESHIMA MUSEUMへ、ぜひ遊びに行って見てくださいね。

撮影:村上大輔

UESHIMA MUSEUM

UESHIMA MUSEUM COLLECTIONのオーナーである植島幹九郎氏の出身母校である、渋谷教育学園の敷地内に2024年6月1日にオープン。事業家・投資家の植島氏が2022年より「同時代性」をテーマに本格的に収集をスタートし、現在は約800点にものぼる現代アートコレクションから、テーマ別の企画展示が行われている。また、2026年5月19日にはミュージアム内の茶室「幹槐庵(かんかいあん)」を一般公開。現代アートと茶の湯をつなぐ場として、一般の方に向けた体験や茶道具の鑑賞の場としてひらいていくとともに、来館者が自ら抹茶を点てて味わうことのできる特別な体験の場 、また折に触れて、館長・植島氏による茶会の場としても使用される。
https://ueshima-museum.com/

【展覧会情報】
コレクション展「創造的な出会いのためのテーマ別展示」

開館以来2回目となるコレクション展は、グローバルに活躍する長谷川祐子氏がキュレーションを担当。宇宙、ポップ、ナラティヴなど、それぞれに赴きの異なる多彩なテーマを設定し、渋谷の風景や文化とも呼応する刺激的な展示が展開されている。

プロフィール

和田彩花

1994年8月1日生まれ、群馬県出身。

アイドル:2019年ハロー!プロジェクト、アンジュルムを卒業。アイドルグループでの活動経験を通して、フェミニズム、ジェンダーの視点からアイドルについて、アイドルの労働問題について発信する。

音楽:オルタナポップバンド「和田彩花とオムニバス」、ダブ・アンビエンスのアブストラクトバンド「L O L O E T」にて作詞、歌、朗読等を担当する。

美術:実践女子大学大学院博士前期課程美術史学修了、美術館や展覧会について執筆、メディア出演する。