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BTS『MAP OF THE SOUL:7』の“内向き”な歌詞 SNSカルチャーの一つの到達点に

音楽

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リアルサウンド

 2月21日に韓国のボーイズグループ・BTSが発売した『MAP OF THE SOUL:7』。7年目を迎えた7人組による7枚目のフルアルバムだ。

(関連:『MAP OF THE SOUL』シリーズは“BTSとは何者なのか”を問う物語に ユング心理学も踏まえ新アルバム全貌を予想

 全19曲(+デジタル限定で「ON」の別バージョン)の中には前作のEP『MAP OF THE SOUL : PERSONA』の5曲がそのまま含まれており、新曲14曲うちメンバーのソロ曲が6曲、ユニット曲が4曲でオールメンバーの楽曲は4曲となっている。6・7曲目の「Interlude : Shadow」「Black Swan」に関してはすでに過去記事で取り上げているため、それ以外の曲を見ていきたい。メンバーのソロ曲を入れる構成は過去の『WINGS』と同じであるが、今回のソロ曲はより、それぞれのメンバーのパーソナルキャラクターが現れたような楽曲となっている。

■収録曲解説:欧米のポピュラーソングに近い構成に
8曲目「Filter」ジミンソロ曲
 ややラテン風味を感じるセクシーなストリングスと、『DARK & WILD』収録曲の「Can You Turn Off Your Phone(携帯ちょっと切ってくれる?)」をリファレンスしたような“僕を見てよ”というフレーズで始まり、“新しい世界へ連れて行くよ”“君のジニー(『アラジン』に出てくる願いを叶えてくれるランプの魔人)になってあげる”と甘く囁くような歌詞。髪色のバリエーションにかけてつけられたあだ名“全能のパレット”にちなみ、リスナーに対して“パレットで色をまぜて君のフィルターを通して”“君の好きな僕はどれ? ステージと素のギャップが好きでしょ?”という身の委ね方が「ジミンらしい」曲ながら、メロディはどこか切ない。

9曲目 「My Time(時差)」ジョングクソロ
 中学生で練習生になり“普通の人生”を送ることができなかった感情の移り変わりと懊悩を、“いつか自分の時間が持てるかな”と歌いながらも、最後は〈Happy that we met each other/Now til’ the very end〉とファンへ語りかけるようなメッセージで終わる。歌詞の半分以上が英語というのもあり、ボーカルエフェクトや盛り上げポイントが特に一聴して“洋楽っぽい”仕上がりになっている。

10曲目「Louder than bombs」
 Twitterでスポイラーがあった通り、トロイ・シヴァンが楽曲制作に参加している。『LOVE YOURSELF』シリーズ以降繰り返されている成功と、その痛みからもう逃げないという宣言のような曲。トロイ・シヴァンの楽曲を手がけているブラム・インスコアとLelandのプロデュースで、ボーカルディレクティングも含めて“もしもトロイ・シヴァンの曲をBTSが歌ったら”といった趣もある。

11曲目「ON」タイトル曲
 “過去のリブート/仕切り直し”がテーマということで、過去曲「N.O.」を反転させた「ON」というタイトルになったという。「Airplane pt.2」「血、汗、涙」のMVにも登場したニーチェの言葉、『WINGS』のモチーフのひとつであるヘルマン・ヘッセの『デミアン』などをリファレンスしつつも、歌詞の内容は現在の成功への痛みと内的闘争、そして最終的にはやはり“自分を見つけてくれ/君と共に血を流そう”と味方=ファンとの共感と共闘を歌うことに帰結していく。

12曲目 「UGH!」SUGA・RM・J−HOPE
 テーマは“怒り”。BTSのラップラインの楽曲のテーマとしては珍しくないが、過去の楽曲よりもオノマトペや感嘆詞、〈ahem, b-hem〉と“a”を“b”に変える言葉遊びでより感覚的な印象。

13曲目「00:00[Zero O’Clock]」ジン・V・ジミン・ジョングク
 日本語オリジナル曲のような趣も感じる、ユニゾンやコーラスの印象的なミドルテンポの楽曲。タイトルの「00:00」は1日の終わりと同時に新しい日の始まりの瞬間だ。過去実際にあったアクシデントを思わせる歌詞をVとジミンが歌うパートもあり、この歌が終わったら失敗を乗り越えて、気持ちも新たに幸せになろうと歌う「Magic Shop」のようなコンフォートソング。

14曲目「Inner Child」Vソロ曲
 過去の自分と内なる少年を自ら抱きしめて慰めるような歌。過去にVが発表したソロ曲「Winter Bear」のように、他のBTSの楽曲とはまた異なる独特の童話的でポエティックな感性が感じられる。

15曲目「Friend」V&ジミン
 ファンの間では“クオズ(1995年生まれ)”の愛称でおなじみの同い年コンビ・Vとジミンのデュエット曲。共に地方から上京して、芸能系の高校に通いながらデビューを目指した過去から現在までを歌っている。小指の長さやドリームキャッチャーなどファンには知られたエピソードを散りばめつつ、「人気がなくなっても一緒にいよう」と歌う“ズッ友ソング”。

16曲目「Moon」ジンソロ曲
 自分とファンの関係を月と地球に例え、特別な存在ではない自分をファンが特別にしてくれた”とファンへの感謝を歌った曲。いつも夜空で地球を照らす月のように、“君の光になってあげる”というフレーズは日本オリジナル曲「Lights」の〈I’m you’re light〉を思わせる。

17曲目「Respect」RM&SUGA
 韓国ではラッパーサバイバル番組の『SHOW ME THE MONEY』をきっかけに「リスペクト」というフレーズが流行った時期があり、映画『パラサイト 半地下の家族』にも登場する。しかし流行語のように「リスペクト(尊敬)!」を多用する割には、世の中には他者への尊敬が足りないのでは? リスペクトとは何なのか? と問いかける曲だ。『花様年華」時代の楽曲「Moving On」や「Young Forever」からリファレンスを引きつつ、re-spect のラテン語源まで遡りながら“英語って難しいな”とオチるやや皮肉めいたユーモアも狙ったような楽曲。

18曲目 「We Are Bulletproof:the Eternal」
 デビューEP『2 COOL 4 SKOOL』収録の「We Are Bulletproof:Pt.2」を現状に合わせてリビルドした曲だと思われる。「春の日」などのイメージを入れながら過去から現在を振り返っている。Pt.1はデビュー前の練習生のswag(イキリ)、Pt.2は待望のデビューを迎えるにあたってのswagを表現していたが、“ファンを守るつもりが守られていた”“7人しかいなかった僕達だけど今は君たち(ファン)がいる”とARMYをBTSの一部として表現するに至ったファンソングの極北ともいうべき曲へと変貌を遂げた。

 ラストの「Outro:EGO」については、前回の記事で「Persona-Shadow-EGO」というシリーズ中の流れと関係性について言及した。しかし、全曲を通して聴き、改めて全体を眺めてみると、また新たな側面が見えてくるようだ。音楽的な面ではいわゆる“ワールドスター”としての世界展開を意識しているかのようにアメリカのプロデューサーや作曲家も多く参加し、より欧米のポピュラーソングに近い構成に寄っていることは明らかだ。

■作品に内包される“外向き”と“内向き”の姿勢
 以前「Rolling Stone」のK-POPアーティストに楽曲を提供しているアメリカの作曲家へのインタビューでは「韓国のポップスでは大胆な展開が好まれる」「アメリカの曲の大半が4つか5つのメロディでできてるのに対して、K-popの曲には平均して8~10くらいのメロディがある。リッチなハーモニーも特徴のひとつね」(中略)「韓国じゃ短いビートのループは通用しない。曲にあんなにも多くの展開を持たせるのはK-popだけだろうね。作曲家としては大いにやりがいがあるよ」と語られていた。それを踏まえてBTSの今作を聴いてみると、新録曲にダンスブレイクがないわけではないし、様々なジャンルにも挑戦しているが、よりシンプルな構成の曲が増えているようには感じられる。タイトル曲の「ON」は「Boy With Luv」のポップさとは対極の、悲壮感すら漂うダイナミックなパフォーマンスとメッセージで、アーティスティックな表現に挑んでいるようだ。

 しかし、音楽やパフォーマンス面で“外向き”の視線を演出する一方で、歌詞の内容はどれも非常に“内向き”だ。初期の学校3部作時代は“外の世界=社会”との対決を歌っていた彼らは、『花様年華』シリーズの青春三部作の時期を迎え、自らの内面と対峙する世界観へと転換していった。そのような精神的・内的葛藤の向こう側の世界が“ファンと自分たち”という、よりクローズドなものだったのは、彼らの現状を反映するかのように予想外の展開とも言える。彼らの世界は物理的には広がったはずなのに、表現する精神世界はより狭くなっているように感じられる。実際、今回のアルバムの楽曲の内容はほとんどが“ファンソング”と呼べるようなものだ。ソロ曲やユニット曲にしても彼ら個人に関心があったり、彼らの歴史をある程度知っているリスナー向けというのがまず前提になっている。

 彼らのアイドル/芸能人としての“Persona”を表現したのが『MAP OF THE SOUL : PERSONA』の5曲で“Shadow”や“EGO”を表したのが今回の新曲14曲だという解釈をするならば、この中で表現されている彼らの“self=全てを内包した自己”には“アイドル/BTSである自分”以外の部分がないということになる。そこでもう一度「Intro:Persona」の歌詞を見ると、「Shadow」と「EGO」のリファレンスの他にも「ON」の歌詞“俺なんかが何の使命”と、「Respect」の歌詞“俺なんかがmuse”といった、今作『MAP OF THE SOUL:7』の楽曲のフレーズがリファレンスされている。その後に続く“俺の名前の3文字”が“BTS”だとするなら、「EGO」で達成した“自己実現”というのはやはり全てを内包した“self”というよりも、あくまで“BTSである自分”という枠組みの中でのことなのだろう。

 本当のプライベートやアティチュードを晒し/晒されて時にそれが作品の源にもなるいわゆる“欧米のアーティスト”とBTSが決定的に異なるのは、彼らが“韓国のアイドル”である以上、彼らが見せる/見せられる“プライベート”は実際はかなり限定されているという点だ。アイドルが楽曲やパフォーマンス含めた“ファンタジー化された自己”そのものを売るビジネスである以上、見せる部分と見せない部分の演出は不可欠だ。そのような限られた範囲で“己を晒す”以上、“アイドル/芸能人である自分”の枠をはみ出すことはほとんどない。その上でファンドムとの絆や関係性をここまで前面に出した作品を作るのは、“ファン=ARMY”が現在の“BTS”のアイデンティティの大きな部分を占める存在になってしまっていることを、図らずも赤裸々に表現しているとも言える。“K-POPではなくBTS POP”という表現も、韓国では人気アイドルを指して「○○が出せば童謡でも売れる」というフレーズがあり、どのような音楽か、よりも“誰が歌うか”の方が重要なジャンルにおいては至極当然の表現とも言えるだろう。それも含めた上での「ON」=we on(我々がやってきたこと)・carry on(それでもやり続けていく)という、諦観にも似た覚悟の表明なのかもしれない。

 このような“作品の外面と内面のズレ”と、「N.O.」では“他人の夢に閉じ込められて生きるな”と歌っていた防弾少年団が、BTSに至り、表現する対象のほとんどがファンドムとの絆になったという点は、考えさせられるものがある。しかし、ファンドムが時にはアーティスト以上の力を持ち、ビジネスを動かす“スタンカルチャー(熱烈すぎるファン文化)の時代”になった2010年代後半において、 BTSは間違いなく最もその恩恵を受けて成功したグループだろう。このアルバムを真に心から共感して味わうには、彼らのファンドムに“入信”するしかないということだ。そういう時代を究極の形で表現したアルバムという点で、2010年代後半を代表するSNSカルチャーの一種の到達点とも言えるのかもしれない。(DJ泡沫)