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ジェニーハイはバンドの理想形 高いミュージシャンシップが実現する音楽×エンタメの充実

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リアルサウンド

 ジェニーハイが初の東名阪Zeppツアー『ジェニーハイONEMAN TOUR 2020「みんなのジェニー」』を開催した。ファイナルの東京・Zepp Divercity(Tokyo)公演でジェニーハイは、高度な音楽性、豊かな表現力に裏打ちされたサウンド、笑いと音楽が混ざり合うステージングが一つになったライブを繰り広げた。音楽的な充実度とエンタメ性をここまで高いレベルで融合させたバンドは、絶対に他にはない。

参考:川谷絵音がジェニーハイで描く“女性の清々しさ”とは? 『ジェニーハイストーリー』の歌詞を分析

 会場の照明が落とされ、最初に登場したのは、“オープニング漫才”の天竺鼠。予測不能のシュールな漫才とミニコントを披露し、クスクス笑いが会場に広がる。“コンサートのオープニングアクトに漫才”というのはもちろん変則的だが(以前、細野晴臣さんの前座としてナイツが出たことがありますが)、ジェニーハイの場合は「ああ、あ、なるほど。いいね」と普通に思ってしまう。そもそも、メンバーに芸人さんが2人いるわけだし。

 「観客全員が“ジェニー!”、最前列の男性客が“ハイ!”と叫ぶ」というコール&レスポンスを挟み、そのままジェニーハイのライブへ。最初のナンバーは、メンバー紹介のラップナンバー「ジェニーハイのテーマ」。川谷絵音(Produce&Gt/ゲスの極み乙女。、indigo la End、ichikoro)、新垣隆(Key)、野性爆弾のくっきー!(Ba)、中嶋イッキュウ(Vo/tricot)、小籔千豊(Dr)がラップをつなぎ、揃いの振り付けで会場を沸かせる。さすがにタレントぞろい、5人が並んだだけでめちゃくちゃ絵になる。

 さらに「愛しのジェニー」を披露したあと、全員が本来の(?)立ち位置に戻ってバンドセットに移行、「ランデブーに逃避行」「ダイエッター典子」「強がりと弱虫」を続けて演奏する。独創的なコード進行、起伏に満ち溢れたメロディライン、ナンセンスとリアル事象が絡み合うリリックなど、ジェニーハイ特有のハイブリッド感に貫かれた楽曲ばかりだ。

 特筆すべきはやはり、メンバー5人のプレイヤビリティの高さ。複雑かつ多様なリズムを正確に刻む小籔、ピック弾きと指1本奏法を使い分けながら骨太のベースラインを放つくっきー!によるリズムセクション。さらに鋭利なギターカッティングでバンドを牽引する川谷、抜群の演奏技術に支えられたフレーズ(どんなに速いパッセージでも、すべての音がクリアに聴こえる)で楽曲に彩りを与える新垣の音が重なるアンサンブルは、きわめてスリリングだ。

 中心にあるのは、イッキュウの歌。tricotではギターボーカルを担当している彼女だが、このバンドでは基本的にハンドマイク。この複雑なメロディを上品に描き出すボーカルからは、シンガーとしてのポテンシャルの高さが伝わってきた。

 中盤では、“即興曲作りコーナー”も。観客からお題を募り、その場で曲を作るという、まるで音楽バラエティ番組のようなコーナーだ。まず川谷がコードを弾き、それに合わせて小籔とくっきー!がリズム、新垣がピアノのフレーズを乗せ、イッキュウが即興で歌を乗せるという趣向だが、出来上がる曲が驚くほど高品質。全員のミュージシャンシップの高さ(特に小籔のリズムに対する感度)に驚かされた。

 ライブ後半では、このバンドが持つ多彩な音楽性を実感できるシーンが続いた。“やる気なくてもよくない?”と訴えかける「グータラ節」、鋭利なリズムアレンジと抑制の効いたメロディが融合した「シャミナミ」、シックな響きをたたえた歌声が心に残る「プリマドンナ」、東京の夜景の映像とともに披露された、切なくも美しいミディアムチューン「東京は雨」。バンドスタイルの楽曲は、ほとんど演出を施すことなく、5人の演奏をそのまま聴かせるだけなのだが、それがとてつもなく面白く、興味深い。“バンド、現代音楽、お笑いを本職にしているメンバーが、前衛的にしてポップな楽曲を演奏して、歌う”ということ自体が、きわめて質の高いエンターテインメントになる。これこそがジェニーハイのライブの核だろう。

 「不便な可愛げ feat アイナ・ジ・エンド(BiSH)」では、今回のツアーで初めてアイナ本人が登場し、貴重なコラボレーションが繰り広げられた。ジャンルやシーンを超えた活動を続けている両者のセッションによって、フロアの熱気は一気に引き上げられた。「リハーサルのときに“こんなにカッコイイんだ”と思って、緊張してきちゃって。でも、ライブが始まると、みなさん、いつも通り面白い。こんなバンドはいないですよね」(アイナ)というコメントも、ジェニーハイの魅力を端的に評していたと思う。

 デビュー曲「片目で異常に恋してる」で本編は終了。アンコールでは新曲「ジェニーハイボックス」、切なくも愛らしいラブソング「まるで幸せ」を披露し、ツアーの最後を飾った。極めて音楽的であり、メンバーのキャラ立ちも抜群。テレビ番組の企画モノから始まったジェニーハイは、じつはバンドの理想形であり、この先の音楽シーンを先取りした存在なのかもしれない。(森朋之)