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Lucky Kilimanjaroが伝える、“おどる≒ダンスミュージック”の新解釈「自分と向き合って楽しむことであり、日々の中で楽しむこと」

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 Lucky Kilimanjaroが、メジャー1stアルバム『!magination』をリリースした。2019年以降は「世界中の毎日をおどらせる」というテーマを掲げてきた彼らだが、まさに、「おどる」という言葉が持つ奥深さ、色彩の豊かさを濃縮し詰め込んだような素晴らしいアルバムだ。ここには、耳にするだけで体が動き出すような、文字通り身体性に訴えかけるダンスチューンもあれば、胸の奥底に沸き立つ熱情に火を灯すような、「心おどる」精神のダンスチューンもある。また、仕事、学校、家事、人付き合い……そんなこんなに追われる私たちの生活の細部にそっと魔法を宿すような、日常をおどらせるダンスだってある。メッセージと、快楽と、独白。そのすべてが、それぞれのおどり方で、私たちの体と心に訴えかけてくる。

 まるで「おどる哲学者」といったような、独特な風体を身にまとうフロントマン・熊木幸丸を中心に、Lucky Kilimanjaro6人の周りには、とても穏やかで幸福な雰囲気が漂っている。ライブを観ると、まるでパワースポットのようだ、と思う。大学のサークルで出会った頃から培われてきたであろう、この幸福な空気は、この先、さらにたくさんの人を巻き込みながら、誰かにとっての幸福と情熱の出発点になることだろう。(天野史彬)

■「自分たちとお客さんたちの喜びが一致している」(柴田)

山浦聖司、柴田昌輝、ラミ、熊木幸丸、大瀧真央、松崎浩二

ーー去年の初ワンマンは渋谷WWWでソールドアウト、今年の5月には恵比寿LIQUIDROOMでのワンマンを行います。会場の規模も順調に大きくなっていますが、Lucky Kilimanjaroのライブの空気や、自分たちがライブに求めるものに変化は感じますか?

熊木幸丸(Vo/以下、熊木):今までは、挑戦者的なポジションでライブをやってきた気がするんですけど、今はもうLucky Kilimanjaroを観に来てくれている人がいるっていう状態があるから、「Lucky Kilimanjaroのライブ、めっちゃいいよね。ライブ、何回でも行きたいよね」って思ってもらえるような空間が作れたらいいなと思っています。

柴田昌輝(Dr/以下、柴田):今は、お客さんが僕らを観に来てくれているということがわかっているから、お客さんと一緒に楽しんでいる感覚があるんですよね。みんなで楽しい時間を作っているし、自分たちがライブをする喜びと、お客さんたちがライブに来ている喜びが一致しているような、そんな充実感があります。

山浦 聖司(Ba/以下、山浦):ライブで「HOUSE」のような振り付けや、「Burning Friday Night」みたいにみんな揃ってステップを踏んで演奏することは変化かも。前は、そういう余裕や発想自体があまりなかったというか。

大瀧真央(Syn/以下、大瀧):一方通行じゃなくなったよね。最近は、お客さん参加型のライブっていう感じがしていて。今回のアルバムもみんなで歌える曲が増えたと思っていて、「!magination」や「DO YA THING」を歌ってくれたらいいなって、期待している自分がいます。

松崎浩二(Gt/以下、松崎):昔はこの曲ではこうノッてほしいみたいな願望があったんですけど、今は観てくれているみんなが笑顔でいてくれるし、自然に楽しんでる様子も伝わってくるから、もう好きに楽しんでくれたらいいと思えるようになったと思います。

ーー音源の聴き心地の良さがありますが、一方ライブでは身体性を伴う熱い演奏に変わるところもLucky Kilimanjaroの特徴だと思います。

熊木:ライブはその場にいる人たちのなかにも、いろんな気持ちがあり、いろんなコンテクストがあると思うんです。僕らのライブでは、それぞれが「そこ」にいる理由をしっかりと吐き出しきってもらいたいし、生の感覚、「今、そこ」にいる感覚をしっかり味わってほしいです。例えば、僕らの音源はシンバルが1枚も鳴らないんですけど、ライブはドラムとパーカッションを合わせればちゃんと4枚使ってるもんね。

柴田:ライブアレンジは基本的には任せてもらっていて。まずは曲を聴いて、バンドであわせて、調整していく感じですね。

熊木:もともと柴田くんはゴスペルチョップとか、パワー系のドラムを叩くタイプなので、僕の中のライブで鳴る音のイメージとの乖離が少ないんです。ビートに関しては、リズム隊の3人に任せてます。

柴田:でも、ちゃんと叩けないときは、すごく厳しいです(笑)。

一同:(笑)

■「僕自身の想像力が試されるバンドになってきている」(熊木)

ーーラミさんはもともとはツインドラムで演奏していましたが、今ではパーカッションとして立ち位置も変わっていますよね。実際、生楽器からの変化は大きいのでは?

ラミ:どんどんドラムの要素がなくなっていき、今では電子パットやMPCも使ってますから。とうとう椅子まで撤去されて、お客さんの目の前の立ち位置にもなってますし……正直、最初は微妙な気持ちもありましたね(笑)。でも、ドラムだと触れられない部分も今は任せてもらえるし、今は楽しくやっています。

ーーパーカッションの楽しみに目覚めている、と。

ラミ:電子パットなので生音ではないんですけど、使い方によっては生のような感情も表現できるんです。電子と生感を融合していくことが、他のバンドにはない強みに繋がっていく感覚もあるので、そこは純粋に楽しいです。それにLucky Kilimanjaroの音楽性として、いろんな音色を出せる環境にあるので、新しいことをずっとやっていける。これは絶対に飽きないです。

ーー柴田さんや山浦さんと話しあったりもするんですか?

ラミ:そうですね。たまに、そこ生ドラムで叩いちゃうの?」って思うこともありますね(笑)。そこは自分がやりたかったのになって。

熊木:最近はシンセベースを導入したりもしていますし、個人としてもいろんな音色を出すという部分は大事にしていて。でも、僕がドラムは叩けないので、絶対苦労するようなフレーズをお願いしていることもあると思います。それを最終的には3人のグルーヴで仕上げていくので、他と比べてもクリエイティブなリズム隊だと思いますね。逆に色々やれることがわかってくるので、僕自身の想像力が試されるバンドになってきているな、と。

ーーギターに関して、ライブアレンジはどうですか?

松崎:僕はあまり自分のギターにエゴがないタイプで。このギターの音を聞いてほしいというよりも、柴ちゃんが言っていたみたいにみんなの笑顔を見れることが嬉しいから、楽しんでもらえることを第一に考えているかもしれません。

ーーなるほど。ライブの会場の規模が大きくなるにつれて、作る音楽にも影響はありますか?

熊木:そうですね。実際、ライブのキャパもどんどん大きくなっているし、もっとたくさんの人に届けたいという気持ちが強くなってきたときに、Lucky Kilimanjaroの音の広さ、世界の広さを出したいなと思うようになって。『FRESH』の頃はテクノやハウスみたいなビートがガツガツしているものが多かったんですけど、『!magination』を作っている時期は、もっと音が浮いている作品をよく聴いていて。最新作じゃないんですけど、ポスト・マローンの「Psycho」なんかが、自分がそういうことを意識するスタートになっていましたね。

ーーたしかに、「Psycho」はトラップでありつつ、スタジアムロック的な音のスケール感がある作品でもありましたもんね。

熊木:そう、踊れるんだけど、広くて、かっこいいっていう。あれを聴いて、「この感覚は日本のフェスにも絶対に合うし、日本の、この人口密度が高い感じの空気にも合うだろうな」と思ったんですよね。

■「“人に寄り添う優しさ”は一貫している」(大滝)

ーー「日本の人口密度に合う」というのはまさにな表現だと思うんですけど、新作『!magination』はメッセージ性と快楽性が相反せず同居しているところが素晴らしくて、ナチュラルに日常に溶け込むアルバムだなと思いました。

熊木:今回のアルバムのなかで最初にできたのが、最後の11曲目に入っている「ロケット」だったんです。この曲は去年、「FRESH」と同じくらいのタイミングに作っていたんですけど、「FRESH」を書き終えて、2019年にリリースする曲も出揃ったときに、「このあと、Lucky Kilimanjaroをどうしていけばいいんだろう?」ということを迷い始めたんです。どこかで、自分にとっての「Lucky Kilimanjaro像」を勝手に作ってしまっていた感じがあって。自分たちで「世界中の毎日をおどらせる」と言っている以上、「踊らせなきゃいけないんじゃないか?」っていう気持ちが、自分のなかに出てきてしまったんですよね。

ーー2019年のLucky Kilimanjaroはすごくいいモードの印象がありましたけど、曲を作っている側としては、次の1歩に向けての悩みがあった。

熊木:お客さんには楽しんでもらいたいし、新しいお客さんにも出会いたい。でも、「ロケット」を作っている頃はまだシングルもリリースされていなかったから、どんな反応が来るかもわからないし……そういうところで、すごく悩んではいました。上手く曲も書けなくなっていたのですが、悩みながら作った「ロケット」が自分と向き合ういいきっかけになったと思います。

ーーそう思うと、「ロケット」はすごく内省的な曲ですよね。〈思うようには伝わらない/思うように完成しない/でもそれがやめる理由にはならない〉という歌い出しも、すごく正直な内面の吐露のように思えます。

熊木:結果として、「ロケット」は2019年に出してきた曲に比べても、すごくスローな曲になったんです。でも、すごく好きな曲になったし、「とりあえず、自分が思うかっこよさをそのままちゃんと出すことが大事なんだ」っていうことが、「ロケット」を作ったことでわかったんです。そういう気付きが、『!magination』を作る上でのスタートになっていると思います。アルバム全体を通しても、「いいからとりあえずやってみよう」「いいからとりあえず続けてみよう」っていうことを、根拠はないけど、言い続けていると思うんです。最後には、自分が好きだと思っていることが根拠になるからって。

ーー熊木さんが自分の内省に向き合ったからこそ生まれたメッセージであり、作品であると。

熊木:ただ、「ロケット」はかなり内省的な曲だったから、最初メンバーの評判はあんまりよくなかった気がします(笑)。アルバムの全体像が見えていたわけでもないし、「次は『ロケット』で大丈夫なのか?」っていう不安はあったと思う。でも、最終的にアルバムとして落とし込んだときに、みんな、しっくり来たんじゃないかと思います。結果として「ロケット」はアルバムの最後に入れることになったんですけど、それは、「ロケット」のメッセージのあとに、聴いた人がなにかを始めてくれたらいいなと思ったからなんです。

ーー「ロケット」が生まれたときのことや、今回のアルバムを通して出てきている熊木さんの詩情を皆さんはどう受け止めているのか、伺いたいです。

松崎:たしかに、「ロケット」ができたのはシングルに向けた4曲と「FRESH」の出てきた後のタイミングだったから、挑戦的な曲だなと思いましたね。僕は正直、「ロケット」がリリースされるところまでは想像がついていなかった部分もあって。

大瀧:(「ロケット」は)リード曲というよりも、アルバム曲だよねっていう印象はあった。でも、昔から、“人に寄り添う優しさ”っていう点は、一貫していると思うんです。

松崎:そうだね。今回のアルバムは、メッセージ性が芯にあるとは思うんだけど、そうじゃない、もっと生活に寄り添うような曲もあって、メッセージだけをガンガン押し付けるようなアルバムではない。そのバランス感覚が僕はすごくいいなと思うんです。真面目なことだけを言うんじゃなくて、ふざけてみせたり、いろんな側面を見せることで、より、世界観に入りやすくなっているんじゃないかって。例えば「とろける」は、普通の生活の中に馴染んで聴ける曲だと思う。こういう曲を入れていくことは、フルアルバムだからこそ、できたことなのかなとも思います。

熊木:確かに、今まではメッセージ主体の曲が多かったけど、去年の「HOUSE」がいろんな人に受け入れられたことで、自分のなかの意識も結構、変わったのかもしれない。もっとフランクでいいし、ふざけていてもいいのかなって。……ラミちゃんはどうなの、今回の僕の歌は。例えば「君とつづく」みたいな恋愛の歌はどう響きましたか。

ラミ:こういうシチュエーションになったことがないので、わからないです。

一同:(笑)

大瀧:実体験してみないとわからないんだ(笑)。

ラミ:そりゃそうよ。でも、昔のマルさん(熊木)が書いていた恋愛の曲って、どこか絵空事というか、理想を歌っている感じがあったなと思うんですよね。映画のワンシーンを切り取りましたよ、みたいな。でも、今回は日常で起きたちょっとした恋愛模様みたいなものを歌っている感じがあって……そういうところは、グサッときますよね。

大瀧:結局、刺さってるんじゃん(笑)。

熊木:確かに、昔は映画っぽかった気がする、自分でも。

大瀧:なんで変わったの?

熊木:なんでだろう?(笑)

■「バンド全体のことをいつも考えてくれるようになった」(ラミ)

ーー(笑)。今日、せっかくの全員揃っての取材なので聞きたかったことなんですけど、熊木さんは、バンド結成当初に比べてなにかが変わりましたか?

松崎:変わったと思いますよ。僕はLucky Kilimanjaroの結成当初にはいなかったメンバーなんですけど、そのときは普通に友達として、デモを聴かせてもらっていたんです。当時は歌詞にまったく重きを置いていなくて、むしろ耳障りとか、如何にメロディにマッチするかで言葉を選んでいたと思うんですよ。

ラミ:そうだ、マルさん、昔は「歌詞なんてどうでもいいんだよ」って言ってたよね。「結局、イントネーションだから」みたいな(笑)。

大瀧:そうそう、「曲がよければ売れるんだ」って言ってた(笑)。

熊木:そういう部分は今も受け継がれてはいるんだけど、そこに、歌詞の重要性が乗っかってきた感じなんだよね。でも、詞に対しての姿勢は本当に変わったなって思う。性格はどう? 変わった?

ラミ:昔は、もっとクズだったよね。

一同:(爆笑)

熊木:今、すごいこと言ったぞ(笑)。

ラミ:クズというか、人を突き離すときは、すごく突き離してたよね。でも、今は突き離すというよりは、人との関係が上手くいかなくなったとき、「どう良くしていこう?」とか「どう改善していこう?」っていうことを考える人になったなって思う。

熊木:確かに、昔はもうちょっとパワハラ気質があったかもね。

ーー(笑)。自覚があるわけですね。

熊木:自分でも「そうかもな」って思います。でも、今は歌詞を書いていても、「強い言葉で当てても相手が委縮するだけだな」というのは考えるようになっていて。自分が正しいと思うことは本当に正しいかわからないし、正論で相手を論破しても、それだと「勝てているけど負けている」みたいな状態になってしまうこともある……そういう部分は、自分でいろんなことに気づいて、変わったなって思いますね。やっぱり、詞に向き合うことで変わっていったと思うんですよ。詞に向き合うことで、「人はどんな感情になるのか?」みたいなことにもっと目を向けるようになったんです。そういう意味では、優しくなったのかなって思うけど(笑)。

柴田:優しくなりましたよ。バンド全体のことをいつも考えてくれるようになったという意味では、頼もしくなったとも言えるし。結成当初は、「幸丸さんが一番頑張っているから、頑張ってついていかなきゃ」っていう感覚が僕にはあったんですけど、今は幸丸さんがちゃんと引っ張っていってくれるから、自分も頑張ろうと思えている感覚があって。

熊木:この6人じゃないとできないことがたくさんあるので。今は、僕のほうから皆にお願いする形になっていると思います(笑)。

■「日常をちゃんと楽しんで生きてきた実感はある」(熊木)

ーー先ほど松崎さんが仰っていた、今作がメッセージだけではなく、もっと生活に寄り添う部分があるというポイントを掘り下げたいなと思うんですけど、「とろける」や「350ml Galaxy」などはまさに、そういう曲だと思うんです。「HOUSE」以降のムードの曲というか。

熊木:そもそも、メジャーデビュー前は「かっこいい歌詞を書きたい」と思っていたようなタイプだったから、「HOUSE」みたいな曲は、僕にとってはNGだったんですよね。「HOUSE」を書いたきっかけも、「ちょっと疲れたから、楽なのを書きたいな」と思ってサクッと書いたくらいのものだったんです(笑)。でも、あの曲を書いたことで、インドア派な僕自身の感性も表に出てきたし、「HOUSE」を聴いて「これは私の歌だ」と言ってくれる人も多くて。結果として「HOUSE」は、Lucky Kilimanjaroのいい意味での「ゆるさ」を伝えることができる曲になったし、こういう表現が自分にもできるんだなと思ったんです。

ーーなるほど。

熊木:それが、さっき挙がった「とろける」や「350ml Galaxy」につながっていったと思います。日常の気持ちいいシーンを、ちょっと強くしてあげるような曲にできたんじゃないかと思うんです。僕自身、別にお洒落な服に興味があったわけでもないし、アート方向に触れてきたわけでもない。かっこいい文化に触れてきた人間ではないんですよ。でも、日常をちゃんと楽しんで生きてきた実感はあって。そういう感覚をそのまま歌詞に入れ込むことができたなっていう感じもありますね。

ーー「350ml Galaxy」は特に、見事な歌詞ですよね。〈コンビニ寄ってこ/新商品の9%/うずらの燻製と一緒にレジへGO!〉という部分とか、本当に情景が具体的で、でも重くなりすぎず、軽やかに曲に乗っているのが素晴らしいなと。

熊木:こういうタイプの歌詞は、サクサクっと書けるんです。「350ml Galaxy」は、2時間くらいで書いた気がする。この曲ができたとき、メンバーに「これ、RIP SLYMEっぽいよね」って言っていたんですけど、僕、そもそもRIP SLYMEめっちゃ好きだったんです。「ふざけてモノを言っているんだけど、めっちゃ踊れる」っていう感覚は、RIP SLYMEからの影響が大きいかもしれないですね。

ーー自分たちの音楽がその人の生活の中に流れている……そういう光景をイメージできていることが、とても特別なことだと思います。特に、「おどる」って、非現実的な行為だと思う人もいると思うんです。でも、人は日常生活の中で「おどる」ことができるんだって、このアルバムを聴くと感じることができます。

熊木:僕ら自身、クラブカルチャーにどっぷりと浸かってきた人間ではないし、どちらかというとロックのカルチャーのなかで生きてきたんですよね。このバンド自体、普通にサークル活動で遊んでいた中からできたバンドだし。でも、だからこそ、「おどる」ということに対しての解釈が、「自分と向き合って楽しむこと」であり、「日々の中で楽しむこと」なんだっていう感覚が強くあるんです。そういう部分が、今の自分たちの曲には出ているのかなと思います。

ーー人それぞれ、日常のなかで「おどる」瞬間も違うでしょうからね。

ラミ:僕はサウナで熱波を浴びているときが一番、体の悪いものが殺菌されているようで、心おどりますね。

ーーなるほど(笑)。

柴田:僕は犬の散歩ですね。

大瀧:私はゲームやっているときと、ご飯作っているときとか、外食するとき。

熊木:僕もゲームだなぁ。ジーコさんは?

松崎:僕はもう、プロ野球ですね。好きな選手が3打席連続ホームランとか打ったら、もうねぇ。

ラミ:ずっと野球のこと調べてるよね。

山浦:僕は今、週一でフットサルをやっているので。みんなでパスを回していって、最後にゴールを決めると、おどりますね。

大瀧:え、実際に踊るの? 

山浦:いや、心が。

ーー(笑)。見事にそれぞれキャラが違いますね、Lucky Kilimanjaroは。

大瀧:バンドやっていなかったら、絶対に友達になっていないと思います(笑)。

熊木:それぞれ、生きている領域が全然違うからね(笑)。

■「他の人に作用できるような表現をできれば」(熊木)

ーー今回のアルバムが優れたポップアルバムである由縁は、熊木さんや、Lucky Kilimanjaroというバンドの人生観みたいなものが、ものすごく実直に、作品に反映されているからだとも思うんですよね。

熊木:このアルバムを作って思ったんですけど、僕は熱くなれる瞬間が好きなんですよ。昔はそうでもなかったんですけどね。昔はスポーツを見て熱くなるタイプじゃなかったんですけど、去年のラグビーワールドカップとか、すごく感動して。努力して、なにかに挑戦して、それが成し遂げられる瞬間の熱って、あるじゃないですか。

ーーありますね。

熊木:僕も「ひとりの夜を抜け」を作ったときに、自分が積み上げてきたもののうえで、「みんなになにかを与えることができた」っていう感覚があったんですけど、僕はそういう熱くなれる瞬間を求めているんですよね。自分が熱中することで、なにかを成し遂げることって、すごく幸福度が高いと思う。でも、熱いばかりだとダメだから、熱くなった自分をクールダウンさせるために「350ml Galaxy」や「とろける」みたいな瞬間も必要だし、それも曲にするし。そうやって人生のバランスを取りながら生きているんだと思うんです。音楽で煮詰めて、それをゲームや映画でクールダウンさせる、みたいな(笑)。そういう自分の日常の感覚がそのまま作品の作りに出ているのかなと思います。

ーーその中には、もちろん「ロケット」のような内省もあるし。

熊木:そう、僕自身、すごく不安になるタイプだし、自分のなかでこんがらがってしまうタイミングが日々の中であるんですよね。でも、僕だけじゃなくて、そういう人ってたくさんいると思うんですよ。それですべてを諦めてしまう人もいるのかもしれないけど、でも、「こうすれば、もっと人生を楽しめるかもしれないよ」っていう提案はしていきたいので。昔の自分が作った曲のなかには、自分の暗い部分を切りとって、それを美しく見せたいっていう気持ちもあったと思う。でも今は、その1歩先で、「人になにかを与えたい」と思うようになったんだと思います。

ーー「与える」って、前提に「豊かさ」があるからこその態度だと思うんです。もちろん豊かさって経済的な面だけじゃなくて、気持ちの問題でもあって。今、20代前半くらいの若者に話を聞くと、「不安」という言葉をよく口にするんです。その不安感は、今の時代感や社会の在り様に起因する部分も大きいとは思うんですけど、その不安感に、Lucky Kilimanjaroの「与える」という態度が、なにかしらの示唆になるかもしれない、とも思うんですよね。

熊木:僕も、そういう若い人たちが感じる不安感みたいなものは、漠然と伝わってきている感じがしていて。でも、その不安感を受け入れすぎてしまうと、アンニュイでい続けてしまうような気がするんですよね。それが悪いわけではないんだけど、そういう不安のなかにいる人が、他の人になにか作用できるようなきっかけを与える表現を、自分たちはできればいいなと思っていますね。(天野史彬)