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スガ シカオ、“ヒトリシュガー”に溢れた音楽家としての本能と親密なコミュニケーション

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リアルサウンド

 2月25日、東京・LINE CUBE SHIBUYAで『SUGA SHIKAO-Hitori Sugar Tour 2020-明日、君の街に歌いに行くよ』を観た。知らない方のためにちょっと説明すると、「ヒトリシュガー」とはアコースティックギターのみ、しかもスタッフ含めて3名という最小人数で全国を回る、恒例の弾き語りツアーのこと。2011年、インディーズとして再スタートを切った頃の初心を忘れずに、という思いを込めた原点回帰ツアー、全18本のうちこの日が8本目。序盤から中盤へ、エンジンがあたたまって快調な走りが期待できる、ちょうどいいタイミングだ。

 新装となったLINE CUBE SHIBUYAの、ピカピカの広いステージに置かれているのは、四畳ほどのじゅうたんの上に、モニター2台、マイクスタンド、ギタースタンド、エフェクトボード、水とタオルをのせた小さな台、それだけ。シンプルなステージの上、鮮やかな金髪で颯爽と現れたスガが、ファンキーな打ち込みのビートに乗ってギターをかき鳴らす。曲は「労働なんかしないで 光合成だけで生きたい」。青、赤、ピンク、妖しく揺れる照明のもと、足元のエフェクターを巧みに操り、硬質なグルーヴを作り出す。手作り感満載、いつものライブとは異なるムードが耳と目を心地よく刺激する。

 「アコギ一本でも飽きさせないための、機材の説明をしますね」。そう言って紹介したエフェクトの数々は、アコギなのにエレキの歪みを響かせたり、コーラスでハモリを加えたり、サンプリングマシンでその場でフレーズを重ねたり、足踏みでビートを作り出す人力の仕掛けだったり。大変なんですと言いつつも楽しそうなのは、音楽家としての本能だろう。思うがままにすべての音を自在に操る、ある意味究極の音楽の醍醐味。

 アコギのみと言いつつ、曲によっては「ギタレレ」に持ち換える。ギタレレとはウクレレサイズのコンパクトなボディとナイロン弦を持ち、ギターの指使いでコードが押さえられるすぐれもの。ポロンポロンと柔らかく、牧歌的な中にちょっぴり哀愁が潜んだ音色が、スガの曲によく似合う。ライブ序盤はアップテンポ中心、会場からの手拍子も加えて和やかに時間は進む。

「新しい曲をみんなに聴かせたくて、去年の9月から作り始めました。隙のないものよりも、音数少なく、歌と言葉だけの曲がだんだん作りたくなって、4曲できて、プライベートCDを作りました」

 そのプライベートCDが、同日リリース、オフィシャルオンラインショップ限定発売の『ACOUSTIC SOUL 2』だ。その中から「奥田民生さんを目指したのに、完成したらどこにも民生さんがいなかった(笑)」と、お茶目なMCと共に歌われた「1+1」。歌い終わって、「やっぱり歌詞が違うな。声も違う」と、当たり前のことをつぶやくのが妙におかしい。つまり、いくら〇〇風に作っても、スガシカオが歌えばスガシカオ。これ天下の真理なり。

 中盤のハイライトは、みんな大好き「Progress」。正確にはkōkua名義の曲だが、もはやスガ シカオのライブ定番として欠かせない。手拍子と拍手でこの日一番の盛り上がりを見せた後、中盤のお楽しみ「カバーコーナー」へ。地方の会場では観客にカードを引かせて曲を決めていたらしいが、今日は人が多すぎるため「あらかじめ2曲選んできました」。しかし歌い始めたらやめられない止まらない、結局4曲歌ってしまったのも、音楽家としての本能だろう。曲はサザンオールスターズ「慕情」、水前寺清子「三百六十五歩のマーチ」、そしてLittle Glee Monster「ヒカルカケラ」、嵐「アオゾラペダル」のセルフカバー。どれもワンコーラスほどだが、リトグリや嵐とのエピソードを交え、リラックスして歌う様子がいかにも楽しげ。これも「ヒトリシュガー」ならではの、オーディエンスとの親密であたたかいコミュニケーション。

 ステージにドラムセットとキーボードが運び込まれると、会場内のテンションが一気に高まる。東京公演のみのスペシャルゲスト、まずは森俊之(Key)と共に「発芽」を、続いて沼澤尚(Dr)を迎えて「アストライド」を。スガのデビューから数年を支えたバックバンド、The Family Sugarのメンバーでもあった二人との演奏は、言うまでもなくベストマッチング。アコースティックに合わせたメロウで繊細、ストイックで大人なプレイが素晴らしい。その「発芽」と、続けて歌った「ヤグルトさんの唄」は、『ACOUSTIC SOUL 2』収録の新曲。「ヤグルトさんの唄」はスガのお茶目な母親のことを、ユーモアと愛を込めて歌い込んだありがとうソングだが、かつてここまで素直な曲がスガ シカオにあっただろうか。時は流れ、良い意味で、スガ シカオも変わってゆく。

 後半は、待ってましたのヒットチューンで一気にスパート。ずっと座っていたからそろそろ立って手を振り上げたかったんだよと言わんばかりに、総立ちの観客のノリも最高潮。イントロだけで大歓声が湧き上がった「ストーリー」は、バンドだろうとアコースティックだろうとその盛り上がりに上下なし。広いLINE CUBE SHIBUYAがライブハウスに見えてくる。翌26日、デビュー23年の記念日を迎える前祝いとも言うべき、それはそれは親密な2時間半のパーティー。

「24年目もがんがん飛ばしていきます。これからもよろしくね!」

 残念ながらその後のツアー日程は、やむをえない社会事情の変化により流動的になってしまったが、これまで積み上げてきた「ヒトリシュガー」の価値は変わらない。早期のツアー再開を願いつつ、今は楽しい記憶をかみしめよう。スガ シカオの2020年は始まったばかり。お楽しみはこれからだ。(宮本英夫)