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私立恵比寿中学、ドキュメンタリー映画3作に記録されたタフでポップな歴史 変わらないグループへの思いや姿勢が軸に

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リアルサウンド

 私立恵比寿中学(以下、エビ中)のドキュメンタリー映画シリーズ『劇場版 私立恵比寿中学「EVERYTHING POINT」』3作品が現在、YouTube上で期間限定公開中である。これらは一部映画館で上映されたのみで、ソフト化されていない貴重な映像だ。ライブの裏側やメンバーの心情を捉えた本シリーズは、ファン以外にもエビ中の物語を届けるのに最適である。本稿では3作品の見どころを紹介しながらエビ中の魅力を掘り下げたい。

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■『EVERYTHING POINT -Limited Edition-』
 2015年公開の第1作目『EVERYTHING POINT -Limited Edition-』は、2014、2015年の映像を中心に編集された。2012年のメジャーデビュー以降9人で活動してきたエビ中だが、2014年4月15日の武道館ライブをもって3人が卒業。同日に小林歌穂、中山莉子を加えて8人での活動を開始し、その体制が定着するまでが記録されている。

 この作品を当時のメンバーの廣田あいかは「エビ中という1つの生き物の成長過程」と劇中で語っている。同年代のメンバーが多く、和気あいあいとしたムードが持ち味だった活動初期のエビ中。そこに少し年下の2人が加わり、メンバーに訪れた変化が2014年の節目だろう。最年長・真山りかが個々の成長を語るシーンには、アイドルとして躍進していく8人の眩しい姿が滲む。その後に繰り広げられる、ゆるいシメの挨拶を「エビ中らしさ」と評する感覚もまたこの頃から息づいている。

 2015年春ツアーの映像には、念願の『ミュージックステーション』への出演を果たし上昇気流に乗ったままパフォーマンスを磨いていく姿が残されている。体調不良でステージに立てない日があった安本彩花を思い、真山が「8人でエビ中だから」と語るシーンが2度登場し、チームとしての強靭さを実感する。また、演出に対してメンバーからアイデアを出すなど、エンターテイナーとしての自覚の芽生えもまたこの時期から見受けられるようになり、まさしく成長過程がありありと刻まれているのだ。

■『EVERYTHING POINT -Other Edition-』
 2017年2月、メンバーの松野莉奈が急逝。『EVERYTHING POINT -Other Edition-』には突然の別れを経た7人の1年間が収められた。

 前半は7人での再出発となった春ツアーの記録。星名美怜は松野にまつわる想いを乗せてツアーを回ると話し、柏木ひなたは「見てる人を不安にさせたくない」と語る。逃れようのない悲しみの中、メンバーそれぞれエビ中らしいステージを模索する姿はあまりにも逞しい。ツアー千秋楽で安本が語る「松野と久しぶりに夢の中で話した」というエピソード。その最中、カメラが映す7人の表情から伝わる彼女たちの強い結びつき。松野はこれからもエビ中にとって大きな存在であり続ける、という優しく真っ直ぐな温かさもまた、エビ中らしさとして語られるべき側面だ。

 後半で描かれるのは、廣田の卒業だ。個性的な声質と独自のセンスでエビ中を牽引してきた彼女。卒業発表は8月だが、春ツアーの時点で卒業を心に決めていたという。それを念頭に置いて観ると、彼女が自身の決意とエビ中で過ごす時間を丁寧に共存させていた姿が浮かび上がってくる。どんなシーンも見方によって複層的な意味を帯びるのがこのシリーズの醍醐味だ。

■『EVERYTHING POINT -a new beginning-』
 1月3日、日本武道館での廣田あいか卒業、翌日に同会場で6人体制を初披露する怒涛の幕開けを果たした2018年。『EVERYTHING POINT -a new beginning-』では、各メンバーのインタビューが中盤に固められ、6人それぞれの心象にフォーカスをあてた場面が多い。

 6人体制を引っ張ろうと責任感を抱える安本。ボーカルパートが増え、振り付けにも関わり始めた柏木。6人体制を「すっきりしちゃったな」と語る真山。苦労と楽しさを天秤にかけたうえで「なんでもこい」と言う星名。エビ中を初期から支える4人が、それぞれの立場からグループについて語る場面はとても興味深く、当時のエビ中を立体的に見せてくれる。

 普段は天真爛漫な小林が「よくも悪くもまとまっちゃったから、壊していかないと本来のエビ中っぽさは薄れていく」と冷静に分析する姿も胸を打つ。最年少の中山も、この頃からよりオープンになってきたことが他メンバーから語られる。意識的にも、潜在的にも、メンバー全員が6人体制のエビ中を完成に運ぼうとしていた姿が見えてくるのだ。

 年末、幕張メッセでの公演前に星名が怪我をする事故があり、5人で大舞台に臨むことになった。その時を振り返り、安本が「見た目は5人だけど中身は6人って感じでやりました」と話すシーンは、1作目の真山の「8人でエビ中」という言葉を想起させる。全員がエビ中という居場所を守り、エビ中であることを誇りに思い、エビ中を楽しもうとしていることが伝わる。その基本姿勢はずっと変わらず、グループの軸と言えるものの1つではないだろうか。

 主要な見どころを紹介してきた本稿だが、この作品群は何気ない日常描写や食事シーンも見ごたえがある。札幌の空港で巻き起こった通称「サーモン事件」など、メンバーの人柄をふとした場面に映し出すアプローチがなされているのも特筆すべき点である。なお、ライブ映像もYouTube上で2作品が無料公開されている。エビ中のドキュメンタリーには、私立恵比寿中学という、タフでポップなアイドルの歴史が記録されている。(月の人)