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氣志團やNUMBER GIRLを“発掘”した加茂啓太郎に聞く、いまアイドルを手がける理由

音楽

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リアルサウンド

 とある一人の音楽プロデューサーが、アイドルに人生を狂わされた。その名は「加茂啓太郎」。音楽業界人でなくとも、音楽愛好家であれば一度は耳にしたことはあるかもしれない。たとえないとしても、ウルフルズや氣志團、NUMBER GIRL、フジファブリック、Base Ball Bear、相対性理論など、彼が関わったアーティストは知っているはずだ。

 今回は、2月28日に発売されたフィロソフィーのダンス1stオフィシャルブック『U Got The Look』に収録された加茂へのインタビューを、Web特別版のボリュームで掲載。ロックンロールに夢中になった少年が、錚々たるアーティストを世に送り出し、50歳を過ぎてからアイドルに魅せられ、自らがグループを作る側になるまでの過程や、アイドルを取り巻く音楽業界の現状について語ってもらった。(鈴木絵美里)

(関連:フィロソフィーのダンスはダンスフロアを更新してしまったーー2018年の躍進から思うこと

■「ロックバンドとアイドル、両方のいいところを取ろうと思って」

ーー加茂さんは東芝EMI時代からユニバーサルミュージックを2015年に退職されるまでの中で、90年代後半から17年もの間、新人発掘に携わってきました。今回は、氣志團やNUMBER GIRLといった名だたるバンドを世に送り出してきた方が今、こうしてアイドルをプロデュースすることの面白さについて伺っていきたいと思います。

加茂:新人発掘の仕事をしてきましたけど、生来、自分は新しいもの好きというのもあって。それこそ10代の頃から「何か面白いものはないかな」と探し続けているだけなので、そこはロックバンドを手掛けていた時も今も、なにも変わっていないです。アイドルとの出会いは、2012年頃に「『秋葉原ディアステージ』が面白いよ」と知人に誘われて観に行ったのがきっかけで、本当に衝撃を受けました。でんぱ組.incの曲は「こんなの聴いたことない!」というようなものばかりでしたし。

ーーでんぱ組.incは、加茂さんがアイドルの魅力に気づく明確な契機であった、と。

加茂:はい。BiSやでんぱ組.incの登場により、従来の芸能システムの中にあるアイドルとは違う、ストリートカルチャーとしてのアイドルが誕生していると思いました。それと比較しても、ロックミュージックは段々と権威主義的になり様式化してきている気がして「いやこれはアイドルのほうがもう断然、面白いな」と思ったんです。でんぱ組.incのプロデューサーであるもふくちゃん(福嶋麻衣子)、BiSを手がけたWACKの渡辺淳之介さん、いずれも“従来の芸能システムとは違うところで自分の表現したいものを作る”という意思が具現化されたことで登場したのがでんぱ組.incとBiSだと思うので。そこはむしろアーティスティックな姿勢なんですよね。

ーー長年続いてきたことでどうしても権威化してしまった業界から離れ、新たなストリートカルチャーとしてアイドルが出てきた、ということですね。

加茂:もちろん、アイドルは売るための音楽だから、“売れること”を一義とされているように見えるけれど、じつはそれよりもさらに前提として「とにかく面白いことをやってみよう!」という淳之介さんやもふくちゃんの姿勢があって、その結果として人気やセールスがついてきたという。そこが今までのいわゆる芸能システムのアイドルとは違っていると思いました。

ーーご自身でもそこから、ライブなどをたくさん観たそうですね。

加茂:そうです、そこからは年間50本くらい、でんぱ組.incのライブなどを追って観ていきました。やはり夢眠ねむさんのようなセルフプロデュース力も高く批評的にアイドルをやっている存在というのが本当に新しかったので。彼女の存在は自分にとって大きかったです。しかしまあ、自分が50代も中盤に差し掛かろうかという時に、人生で初めてアイドルにハマるとは思っていなかったですが(笑)。

ーーアイドルが面白いと気づかれてから、実際に自らプロデュースに至るまでの流れを教えてください。

加茂:20代から音楽業界にずっと身を置いてきて、もちろん仕事柄、音楽はジャンル問わずなんでも聴いてきたわけです。でも、だんだんと純粋にいいなと思えるものが少なくなってきて「さすがに自分が歳なのかなあ」なんて思うこともありました。しかしそんななかで、2011年にファレル(・ウィリアムス)の「Happy」を聴いた時に「ああ、これはなんていい曲なんだ!」と感動して。しかも、実際にその年に世界で一番売れた曲にもなりましたよね。この曲が一番になるということなら、まだまだ自分の感性でも勝負できるかなと思えたのは、かなり大きかったです。

 さらに、ブルーノ・マーズやマーク・ロンソンといった新しいブラックミュージックを作るアーティストが出てきて、すごく面白いと思いました。彼らの音楽は歴史を俯瞰して凝縮しているけれど、パクリではないし、ある種ヒップホップ的だとも思います。今の時代においては、“聴いたことがあるように感じるけれど、元ネタがわからない曲”というのがいい曲だな、と僕自身は考えています。そういうコンテンポラリーなR&Bファンクのよい曲を、ちゃんと歌が上手いグループで、アイドルというフィールドでやってみたいというのが、フィロソフィーのダンスを見据えたオーディションのきっかけでした。

ーーフィロソフィーのダンスの音楽ジャンルは最初から決まっていたんですね。

加茂:そうですね。 “アイドル”は、音楽ジャンルを指す言葉ではないので。プログレアイドルでも、トランスアイドルでも成立すると思いますし。だからこそ“いい曲”をしっかりと届けられる存在にしていきたいと考えました。それこそ松田聖子、松本伊代、中森明菜とかは、曲として素晴らしいなと思って僕も聴いてきましたし。「ギター:鈴木茂」「キーボード:松任谷正隆」って、ミュージシャンのクレジットが初めて出たアイドルは松田聖子だったはず。

ーークレジットから辿るアイドルの楽曲ファンも、今になってまた増えていますよね。韓国からのNight Tempoさんのような流れもありますし。

加茂:そうなんですよね。ikkubaruのようなAORバンドも出てきていますし。“曲がいい”というのはアイドルにとっても大事なことです。しかもそれをユニゾンで歌わずにしっかりと個性もある声で届けたかったので、僕がプロデュースするならば、まずは歌の上手い子に集まってもらいたかった。また、アイドルのステージに欠かせないダンスや振り付けというのは、そもそもダンスミュージックと相性がいいわけです。ステージを見ていて面白いと感じる振り付けに挑戦しやすいのは、ダンスミュージックでもあると思うので。ダンスミュージックとしてのファンクやソウルを届けられる、いい曲をいちばん活かせる調理方法を身につけるべく、この5年間でフィロソフィーのダンスは成長してきた、という感じです。

ーーこれまで加茂さんが手がけられてきたロックバンドと、手法は違いましたか?

加茂:そもそも新人発掘では、見つけてデビューするまではサポートするけれど、そこから先は基本的に「あとはがんばってね!」と手放すしかない、というジレンマが自分の中にありました。もう少し、デビューして成功するまでは自分のビジョンで手掛けてみたい、と。じっくりとプロデューサーとしてやらせてもらえているのは、違いとして大きいです。ロックバンドとアイドルでは本当にやり方が全く異なりますが、自分としては両方のいいところを取ろうとは思っていて。

ーー「両方のいいところ」というと?

加茂:たとえばバンドの場合だと、「曲をつくりました」となったら、ライブで何回かやってからレコーディング、という流れですが、アイドルの場合は「曲ができあがってきました」となったらすぐにレコーディング、その後にライブ、となるケースがほとんどです。僕としては、まずそこをバンドと同じやり方に変えていきたいと思いました。曲ができたら、何度かライブでやって、それからレコーディングする、というプロセスを取ることで、曲がしっかりとメンバーの身体に入るので。まあ、バンドであれ、売れてくると段々とそうもできなくなるわけですし、フィロソフィーのダンスも徐々にできなくなってきそうですが……。特に最初のほうはつとめてそうしてきましたね。

ーーじっくりとアイドル自身も音楽となじんでいく、ということが重要なわけですね。

加茂:ええ。それとも関係しますけど、加えてアイドル文化ってやっぱり無理して大きめの会場を抑えて、ファンも煽りながらそこを埋めていく、という風潮があるじゃないですか。でも、あれってアイドルファンじゃない人には違和感がすごくあるから、それも避けたいなと思い、ここまで5年間は着実に、現実的なキャパシティの会場でライブをやってきたんです。それでも、バンドよりは確実に固定のファンが増えていっているなとも肌身で感じました。

ーー逆から見ると、急速な伸びが求められる時代において、バンドという形態自体がついていきにくい、ということもありそうですね。

加茂:バンドは曲作りやリハーサルもあるけれど、アイドルはとにかくライブの本数を打てるのが強みです。単純に知ってもらう・観てもらえる機会が多く、ファンも自分たちでやりたいようにやっているしみんなで作っていっている雰囲気もある。ゆえに、ファンの愛も深いなと思いました。

ーーアイドルがいて、プロデューサーがいて、コンポーザーがいて。みんなで分業してひとつの作品をアイドルというフォーマットで作っている、という意味でも、効率は上がっていますよね。

加茂:結局思うのは、音楽の進化って“誰でも簡単にすぐできるという方向に広がっている”ということかもしれません。昔はフルオーケストラがあって、それがジャズなどになっていって、バンドの人数も少なくなって、打ち込みになっていき。だからロックバンドというのは、別になくなる文化ではないけれど、時代の最先端ではもはやなくて。時代の最先端はやっぱり今はクリトリック・リス(加茂が2015年にディレクターを務めて制作)ですよ。ひとりでライブ会場へ行ってオケを流してパフォーマンスする人が、35歳から音楽をスタートさせて、50歳で日比谷の野音を埋めるという。あれは言ってしまえばいまの進化形の最先端ですし、アイドルもその進化形だと僕は思っています。簡単にすぐ始められるし、自由度がまだまだある。だからこそアイドルが面白い、というのはあるかもしれないです。

■「“アイドルは音楽として格下”という認識はまだある」

ーーYouTubeはもちろん、音楽もストリーミング配信が登場したことで、新しい作品を知っていくスピード感も、この10年ほどで激変したなと感じます。その辺りを含め、加茂さんがフィロソフィーのダンスを通してチャレンジしてみようと思うことはありますか?

加茂:現状、アイドルはなんでもありのフィールドなので。半年連続でリミックスを出したり、半年連続アナログ盤を出したり、楽曲のステムデータを配信してみたり。ストリーミングサービスが浸透してアナログも復権してきているからこそ、そういう状況を楽しみながら面白いことはできているなと思っています。

 あと、フィロソフィーのダンスの場合は“哲学”という軸を、作詞を手がけるヤマモトショウくんにより出せているのも大きいですね。彼は東大の文学部哲学科を出ていて、オーディションから来てくれている存在です。彼に言わせれば、すべての歌詞には哲学があるはずだし、無い歌詞なんてありえない、と話します。アイドルソングの大半は、十代の女の子の淡い恋心というのがほとんどかもしれませんが、もっと別の奥行きを出したいなとは常に考えていますね。

ーーファンやリスナーの層を見ていて、加茂さんとしてはどのように感じているでしょうか。届いてほしいところには届き始めているな、と感じますか?

加茂:とはいえ、やはり壁はなかなか厚いですね! アイドルだからという理由で聴かない人も、扱わないメディアもやっぱり多いです。先日のフィロソフィーの新木場スタジオコーストでのライブは、J-WAVEが協賛についてくれました。J-WAVEとしてはアイドルのライブの協賛につくのは初めてだったとのことで、壁がひとつこわれた感じはします。別にこちらからゴリ押したわけではなかったので、たまたまではあるでしょうが、音楽的に気に入ってくれたのなら嬉しいですけれど(笑)。

ーー “アイドルである”ということで、聴いてもらうためのハードルが一気に上がってしまう現状はまだあるわけですね。

加茂:“アイドルは音楽として格下である”っていう認識はまだありますよね。でも、ストリーミングで音楽を聴くと、ジャンルも関係ないし、自分で詞曲を作っているかも関係ないわけです。もう“曲がいいかどうか”だけだから。そういう意味で、フィロソフィーのダンスはこれからの時代にフィットしている音楽のスタイルになると思っていますけどね。ちなみにフィロソフィーの楽曲については、新しいという人もいれば懐かしいという人もいて。それが面白いですよね。長くソウルバーを経営しているような方達にもいいねと言ってもらえるようになってきているし、若い人たちにとっては新しい音楽に感じられるのでしょうから。

ーーフィロソフィーのダンスにどのようになっていってもらいたい、という希望はありますか?

加茂:いろいろ話してきましたけれど、結局のところ僕はミュージックマンとしては、究極、ヒットソングを作りたいだけなので。その一因となる“紅白に出る”“万人が知るところとなる”“エバーグリーンになる”曲を作りたいし、アイドルをプロデュースするのは、そういう曲を作り世に送る方法として、いま一番適している、という理由からです。あとは、自分が「最高だな!」と思うものを世の中に問うてみたい、というのも大きなモチベーションですね。

 もちろん、アーティストの楽曲はあくまでアーティストのもの。でも今プロデューサーとしては「こういう歌詞、こういうアレンジにしよう」とディレクションして作っていくから、自分でゼロから作っていける達成感は強く感じているんです。「ダンスファウンダー」も「これはいい曲だな!」と思っていたら、それなりに反響があったのでとても嬉しかったです。もちろんまだまだここからではありますが!

ーーメジャーデビューのタイミングなので、それを記念して新しいアレンジにすることもできそうですね。

加茂:そうですね。先人がやっていないことをやってみて、それが成功するとすごく面白いじゃないですか。僕の仕事のポリシーなんですが、誰もやっていないことを思いついて一番はじめにやりたいんです。それはもうずっと。わりとみんなセオリーから外れたがらないですけど、そういう挑戦は今後もどんどんしてみたいところです。