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yonigeら所属レーベル<small indies table>鈴木健太郎に聞く、シーンへの問題意識 「“奥行き”を感じられるバンドは少ない」

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リアルサウンド

 時にバンドシーンの盛り上がりの中心となることもある音楽レーベル。近年、そんなレーベルが再びライブハウスでの熱狂を生みだしている。「リアルサウンド」では新たに、バンドシーンを引っ張り、ライブハウスの“今”を担う気鋭のレーベルを取材する連載「次世代レーベルマップ」をスタート。第1回は、yonige、FOMARE、KOTORI、街人が所属する<small indies table>。渡辺旭氏(THE NINTH APOLLOほか)とともに同レーベルを主宰する鈴木健太郎氏に取材を行なった。前編では、レーベル立ち上げの経緯やレーベルカラー、4組それぞれの個性などについてじっくりと語ってもらった(※取材は2月某日、『small indies table tour 2020』開催延期発表前)。なお、鈴木氏自身の音楽遍歴などを聞いた後編も近日公開予定だ。(編集部)

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■“土くさくて粘り強い、簡単に夢を諦めない”ことがレーベルカラーに
ーー<small indies table>は、yonigeのリリースからスタートしたと思いますが、そもそもどういう意図やプランの下で立ち上げたレーベルなのでしょうか。

鈴木健太郎(以下、鈴木):今おっしゃってくれた通り、yonigeの作品をリリースしよう、となった時にリリース元がなかったので、最初はyonige専門のレーベルを作ろうとして、<THE NINTH APOLLO>の渡辺旭さんと2人で立ち上げたのが<small indies table>でした。今はKOTORI、FOMARE、街人もいますけど、最初は正直yonige以外をリリースしようとは思っていなくて、とにかくyonigeをどうオーバーグラウンドに上げて広めていくかを考えていたレーベルでしたね。

ーーそこから展望が開けていったのは、何かきっかけがあったんですか。

鈴木:yonigeが『Coming Spring』(2015年)という全国流通盤をリリースしてツアーを回ったぐらいから、若手バンドのライブとかにも遊びに行ったりして、出会う機会もすごく多くなって。そこで次に出会ったのがKOTORIでしたね。最初はYouTubeで「19歳」と「4号線」のMVをたまたま見つけて、メロディアスなんですけど土くささもすごくあったというか。ライブも何回か見させてもらってメンバーとも会話していく上で、彼らは志も高いし「音楽でちゃんとご飯を食べていきたい」と言っていて。シンプルにそういう想いがある若手バンドって少ないので、うちのレーベルカラーとすごくマッチしてるなって思いました。KOTORI自身もデモCDじゃなくて全国流通盤でツアーを回ることにこだわってましたし、後々のプランニングとか野望もざっくり持っていたので、「じゃあ一緒にやっていきましょう!」と。

--なるほど。yonigeの次になるバンドを探そうとしていたわけではないんですね。

鈴木:元々そういうつもりではなかったんですけど、偶然出会ったカッコいいバンドは広めた方がいいんじゃないかなって。でも、やっぱりyonigeの意思がすごく大事だったから、まずはyonigeのメンバーにKOTORIの音源を聴いてもらったり、時間をかけて決めていきましたね。演奏力はまだまだ若い部分が多かったけど、yonigeの2人も最初から音源をめちゃめちゃ気に入っていて。

--そうだったんですね。こうして4バンド揃ってみると、改めてどういうレーベルだと感じていらっしゃいますか。

鈴木:4バンドとも、全国流通する前のライブ本数が尋常じゃなくて。酸いも甘いもちゃんと経験している4バンドなので、そこが土くさくて粘り強いから、簡単に夢を諦めない感じのレーベルカラーになっているのかなと思ってます。今のライブハウスのギターロックシーンって、すぐに全国流通盤をリリースしがちというか。ライブハウスで働いている方々とか対バンの人たちと関係が深くなる前に流通盤を出してツアーするとなると、ライブハウスからもなかなか応援しようって思ってもらえなかったりするので、そういう意味で<small indies table>はオーバーグラウンドのギターロックシーンと差別化してるかもしれないです。

--バンドシーンにおいて、中長期的に全国に出て行くための足場作りが足りていないんじゃないかという問題意識もお持ちなんですね。

鈴木:ライブを見てて、曲も良いしテクニックもあるバンドはたくさんいるんですけど、そこから先の“奥行き”を感じられるバンドは少ないのかなとは個人的には思ってますね。<small indies table>は、しっかり足場を固めてから徐々に上がっていくのを大事にしていて。バンドの未来像がちゃんと背景に見据えられたら、全国流通盤のリリースに繋げてツアーを回っていく感じです。

--例えば4バンドいる中で、「このバンドは最初に出会った時と変わってパフォーマンスに奥行きが出たな」と感じた印象的なエピソードはありますか。

鈴木:全バンドにターニングポイントのライブがありましたけど、やっぱりyonigeの日本武道館(2019年8月開催)かな。僕がyonigeを見てきた中でも一番素晴らしいライブだったし、あれを経たことで力強さや自信が生まれた気がしますね。彼女たちって、YouTubeが何百万回再生されようがZeppでライブをやろうが、本当に自分達に自信がない子たちなんですよ。だから「武道館に挑戦しよう」って言った時も最初はネガティブで、「埋まらないでしょ」って言いながらもいろいろディスカッションを重ねて武道館をやることになって、皆さんのおかげで何とかチケットを売り切ることができて。それを経てライブが終わった後は、すごく強くなって成長した感じはありましたね。

--牛丸(ありさ/yonige)さんは元々ライブが嫌いで苦手だっておっしゃっていましたもんね。

鈴木:武道館を経てからは、自主企画とかワンマンライブへの意識もたぶん変わったのかなって。「武道館を超えるライブをしないとお客さんからお金を取れないな」とか言うようになったので(笑)、ちゃんとライブ一本一本に対して観客のためにやるっていう責任感が芽生えているのはすごく感じますね。あと、yonigeの武道館にKOTORI、FOMARE、街人のメンバーも全員来てたんですけど、3バンドともみんな食らってましたね。悔しい想いとか、yonigeに負けられない想いをそれぞれすごく感じたみたいです。終演後みんな本当にテンションが低くて。その時に、やっぱりyonigeがレーベルの先駆者としていてくれる強みを感じましたね。

ーーでも、それはすごく良い刺激ですね。

鈴木:だから、yonigeも他の3バンドも、あのライブ以降変わった気がします。そこはレーベルとしてはすごく嬉しいことですね。

--昨年は、特にFOMAREの成長が著しかった印象でした。

鈴木:それもyonigeの武道館ライブをきっかけに、自分たちでよりバンドのことを考えるようになったのが大きかったんでしょうね。FOMAREは昨年47都道府県ツアーで全51本を回っていて。途中何度もへたれそうになったと思うんですけど、それも今に活きていると思います。47都道府県ツアーって、今の若いバンドはなかなかやりたがらないんですよ。正直今の時流に合ってるわけじゃないし、やっぱり本数を減らして7大都市だけ行くという効率感とかマネタイズも大事だとは思うんですけど、あえてFOMAREは47都道府県ツアーをやって他のバンドがあまりできない経験をしたことで、大きな自信に繋がったんじゃないかなって。その上で、ツアーファイナルとしてスタジオコーストでワンマンを迎えた(2019年11月)のが、彼らの一番のターニングポイントだったかもしれないです。

■大事にしているのは4組のバランス感
--レーベル全体の地力が上がって迎える今回のツアーだと思いますが、鈴木さんは2年前と比べて、今回のツアーをやる意義はどのように変わってきていると感じますか。

鈴木:この2年間、基本的にyonige、KOTORI、FOMAREって対バンで共演することをあえてやめていて、ほとんど共演がなかったんですよ。KOTORIのツアーに何回かyonigeが出たくらいで、対バンとかフェスの日にちも違うことが多いので、そういう意味ではこの2年間の成長をそれぞれが見せられる絶好の場になる気がしていますね。逆に言えば2年前はyonigeのイメージが抜きん出ていた部分もあるので、他の3バンドにはすごくバチバチ感があって。レーベルとしてもyonigeに頼りたくなかったから、シークレットゲストで一カ所だけ(恵比寿LIQUIDROOM)出た以外、あえてyonigeはツアーに出ていないんです。だから特にFOMAREとKOTORIは互いにかなり意識し合っていて、どっちがトリを取るかで感情の起伏が激しくなっていたというか(注:街人はオープニングアクトとして出演)。トリに関しては全部僕が決めているんですけど、LIQUIDROOMでKOTORIがトリって決まった時は、FOMAREはハラワタが煮えくり返るぐらい悔しかったと思うんですよ。僕はどっちもトリはできると思っていたんですけど、レーベルカラーとして「このタイミングで、このライブハウスはこのバンド!」という直感的なイメージで決めていたので、やっぱり2年前は若くてセンシティブなツアーをやってましたね。

ーーなるほど。

鈴木:それを経てKOTORIも先日、赤坂BLITZでキャリア史上最大規模のワンマンをやったんですけど(2020年1月)、yonigeは武道館、FOMAREはコーストのワンマンを経て3バンド集まるわけですし、今回は以前のようなバチバチ感というよりは、それぞれがちゃんと実力をつけたことで、ファミリー感とかレーベルカラーが見えるようなツアーになる予感がしていますね。もちろん仲良しこよしという意味ではなくて、「<small indies table>ってこういう空気感でやっているんだよ」というのが感じられるんじゃないかなって。

ーー今回出演はないですが、街人に対してこれから期待するのはどういうことでしょうか。

鈴木:街人はメロディセンスというか、ソングライティングのセンスがすごく良くて。ライトな曲から極上のバラードまで書けますし、ラップもできたりレゲエを取り入れた曲も書けるので、曲の振り幅で言ったら<small indies table>の中で街人が一番ですね。奥(智裕/街人)自身も、幼少期は海外に住んでいたこともあって英語がすごく堪能なので、他の3バンドにない強みやレンジの広さをもっと活かして、今年は面白いことができたらいいなって考えています。

ーーyonigeとFOMAREは比較的ドメスティックなサウンドを鳴らしていて、KOTORIと街人はエモやオルタナ、ヒップホップといった洋楽的な要素を取り入れるのが上手いバンドという印象があるんですが、その点で<small indies table>の音楽性の幅も徐々に広がってきているんじゃないかと思います。

鈴木:でも、yonigeもメンバーは洋楽志向だったりするので、『HOUSE』以降はミドルテンポの洋楽風なエッセンスが入ってきたりしています。4月にアルバムがリリースされますけど、そこにも疾走感だけじゃない新しさが詰まってるので、yonigeも進化は遂げているのかなと思いますし、逆にFOMAREはよりドメスティックな方向に行く作品を作りそうなので、そういう4バンドのバランスはすごく大事にしていますね。(リアルサウンド編集部)