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伊藤健太郎の凜とした目つきが伝える“いま”を生きる姿 『スカーレット』武志の作陶への熱意

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 武志(伊藤健太郎)は、真奈(松田るか)が忘れた傘に雨水が溜まっていくのを眺めていた。八郎(松下洸平)が傘を片付けようとするのを「雨……見てたい」と静止した武志は、見とれるように傘を見つめ続けた。

 連続テレビ小説『スカーレット』(NHK)の第142話は、陶芸に向き合う武志の生気に満ちた表情と厳しい現実を前にした表情が印象的な回となった。

 雨があがった後、武志は縁側で作品のイメージを膨らませていた。八郎が遠くから黙って見守っている姿から、武志は無心で描き続けているのだと分かる。1枚を描きあげた武志は何かが足りないような表情を見せ、再び傘に目をやる。すると強い風がふき、傘から水滴が落ちていった。水滴に吸い込まれるように見入っていた武志は再び筆をとる。夜になって喜美子(戸田恵梨香)が帰ってきても、武志は描き続けていた。

【写真】息子を見守る松下洸平

 伊藤健太郎は、病気と闘いながら作陶に励む武志の“いま”を生きる姿を演じていた。「大変な道を歩く」と決意した武志だが、日増しに病状は進んでいる。「高熱が続かなければ大丈夫」と大崎(稲垣吾郎)は言っていたが、前話で発熱が判明したとき、武志は不安がる父をなだめながら、自身もどこか不安そうな顔をしていた。しかし、気持ちが作陶に集中すると、武志の心は“いま”に集中する。雨が降る、水が溜まる、風が吹く、水滴が落ちる、何気ない一瞬の感覚を捉え、それを作品に投影しようとする武志の思いが、伊藤の凛とした目つきから伝わってくる。

 喜美子に「器ん中に水が生きてるように水の波紋を描くんや」と話す武志の表情は、いつになくイキイキとしていた。喜美子は武志の絵をじっと見つめて「水が生きてる……ええな」と返す。絵を眺める喜美子の感慨深い表情は印象的だ。“水が生きてる”の言葉に、武志の作陶と闘病への決意が込められているように感じた。

 しかし終盤、小さな希望を阻む出来事が訪れる。風呂からあがった武志は一人、暗い部屋で立ちすくんでいた。武志が頭に手をやると、その手には大量の髪の毛が。抗がん剤の副作用が武志に厳しい現実を突きつける。言葉を失った武志の表情が忘れられない。

(片山香帆)