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増加する大型フェス、ヴィジュアル系シーンをどう変える? BugLug主催『バグサミ』から考察

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 近年、アーティスト主導型が増加/定着してきている日本のフェスシーン。その潮流はヴィジュアル系も同様にあり、ここ数年はその勢いがさらに強まってきている印象を受ける。たとえば、現行シーンの中核を担う4バンドがしのぎを削りあったスプリットツアー『均整を乱す抗うは四拍子』や、昨年は武道館を経験している上の世代へ盟友と共にぶつかり、今年は同世代と全国各地で激闘を繰り広げたDEZERT主催の『【This Is The “FACT”】』、関西を拠点に活動しているFEST VAINQUEURが大阪で行なっている『FEST FES』(今年は8月25、26日に開催)など、その形や内容はさまざまだが、どのイベントにも共通しているのが、「縮小傾向にあるシーンの現状を打破したい」という熱い想いから立ち上げられているということだ。

(関連:the GazettE、アルバム『NINTH』がライブに与えた衝撃 ツアーに凝縮された深化したバンドの姿

 元を辿れば、X JAPANのYOSHIKIが設立したレーベル<エクスタシーレコード>の所属バンドが集結し、『VISUAL JAPAN SUMMIT 2016』では24年振りの復活を果たしたライブイベント『エクスタシー・サミット』や、BUCK-TICK、LUNA SEA、SOFT BALLETが、ブレイク前夜のL’Arc~en~Ciel、THE YELLOW MONKEY、THE MAD CAPSULE MARKETSなどを各地に招いて開催したツアー『L.S.B.』など、“ヴィジュアル系”という言葉が生まれる前、シーンの礎にあたるレジェンド達も、アーティスト主導で自身の音楽を広めてきた。より多くの人に今のヴィジュアル系を知ってほしい、閉塞感のあるシーンに風穴を開けたい、あの黄金期をもう一度ーーそんな想いを抱いているバンドが増えてきていることは、とても頼もしい。そんな中、8月9日、新木場STUDIO COASTにて、新たなアーティスト主導型のフェスが開催された。BugLugの主催フェス『バグサミ』である。

 BugLugは、一聖(Vo)、一樹(Gt)、優(Gt)、燕(Ba)、将海(Dr)による5人組バンド。キャッチーなメロディを軸にしつつ、様々な音楽ジャンルを混ぜ合わせていくミクスチャーぶりは、ロック、パンク、ハードコア、メタル、エレクトロはもちろん、レゲエや中東音楽にオペラ、ときには演歌までをも飲み込むほどに柔軟かつ貪欲だ。それゆえに、ライブはポップでアッパーなものから、ヘヴィでシリアスなものまで幅広い楽曲が次々に繰り出され、オーディエンスの身も心も激しく揺さぶるものになっていて、2009年の結成以降、着実にステップアップを続け、支持を集めてきた。

 しかし、2016年、ボーカルの一聖が不慮の事故に会い、長期療養を余儀なくされる。一時は復帰困難という診断も下された絶望的状況だったが、4人でライブ活動を続け、翌年の日本武道館ワンマンで完全復活を果たした。そんな九死に一生を得た彼が綴る、毒や皮肉を織り交ぜながらも根底には“希望”が流れている歌詞も、彼らの魅力のひとつだ。ちなみにBugLugは、前述の『均整を乱す抗うは四拍子』に、己龍、R指定、vistlipと共に出演。“ヴィジュアル系新世代の四天王”と称される一角でもある。

 BugLugは、バンド名にちなんで毎年8月9日(バグの日)には大きな企画を行なっているのだが、今年は主催フェスを初開催することとなった。インタビューでは、バンドはもちろんのこと、シーン全体を盛り上げていきたいという旨の発言をしている彼らなだけに、その旗を自らの手で力強く掲げあげ、それを有言実行したといえるだろう。

 『バグサミ』は、「KITERETSU STAGE」「HATENKOU STAGE」「BASARA STAGE」の3ステージ制。メインステージの「KITERETSU STAGE」には、DaizyStripper、BAROQUE、DIAURA、A9、アルルカン、そしてBugLugが登場。サブステージの「HATENKOU STAGE」には、The THIRTEEN、Anli Pollicino、キズ、ダウト、RAZORが、「BASARA STAGE」には、ジャックケイパー、CLØWD、Neverland、甘い暴力、ザアザア、ぞんびの全17バンドが出演した(タイムテーブル順)。ゼロ年代から活躍しているバンドの参戦だけでなく、新進気鋭の若手バンドのフックアップにも力を入れており、現行のシーンを堪能できるラインナップとなった。

 フェス当日は台風13号が関東地方に接近していたこともあり、開催がどうなるか危ぶまれていたが、定刻通り、13時30分からスタート。各バンドが自身の持ち味を発揮したステージを繰り広げていたが、時折、BugLugのメンバーが共演者のライブに顔を出すこともあった。筆者が確認したものでいうと、A9のステージには一聖、優、将海の3人が登場。ラウドなパーティーチューン「UNDEAD PARTY」に華を添えていた。また、ジャックケイパーのステージには、「カニカニカーニバル」という彼らの曲タイトルにちなみ、一聖がカニの被り物をして恥ずかしそうに姿を現わす場面も。そんなところからも、イベント全体を盛り上げようとする彼らの姿勢がしっかりと伝わってくる。

 オーガナイザーのBugLugは大トリとして登場。1曲目の「KAIBUTSU」から、ステージに向かってオーディエンスが押し寄せるカオティックな様相を生み出す。そこからも5人はハードナンバーを連発。「言刃」や「Die s Kill」といった最新アルバム『KAI・TAI・SHIN・SHO』の収録曲や、「ギロチン」「絶交悦楽論」など、ライブの鉄板曲を一気に畳み掛けていく構成で、フロアを沸きに沸かせていた。MCでは、オーディエンスと出演バンドへ感謝を告げた後、「ヴィジュアル系をどんどん盛り上げたいし、“ヴィジュアル系って最高なんだよ!”と広めたいと思っていたけど、俺ら個人でそういうことを頑張ろうとしても、何の意味もないことがわかった。みんなパワーがあるし、いいものを持っている。そんなバンドと一緒にライブをすることで、もっとシーンが発展するんじゃないかなと、俺は思ってます」と一聖。最後は「『バグサミ』という名前ではあるけど、今日はここにいる全員が主人公だから」ということで、全出演バンドがステージに集合し、アッパーチューンの「猿」で大円団を迎えた。

 「今後も続けられたらいいなと思っている」という一聖の発言もあり、次回開催にも期待を寄せたいが、これからの流れとして、ヴィジュアル系シーンの発展を目指したアーティスト主導型イベントが増えていく可能性は、大いにあるだろう。より大規模なフェスとして行なわれるかもしれない。現状、『【beauty;tricker】~渋谷が大変~』や『びじゅある祭』といった、毎年開催されている大型フェスがヴィジュアル系にもあるのだが、筆者としては、より多くの人たちが足を運びやすいイベントがもっと必要なように感じているので、その流れは大歓迎だ。もちろん、ただ開催するだけでなく、リスナーがシーンをより楽しめるようなホスピタリティ面の向上や、ヴィジュアル系未体験の人たちがいまシーンで盛り上がっている音楽に触れやすくなるような環境づくりをすることが必要になってくるとは思うが、まずは活動しているバンドが活性化を推し進めようとする意志を持っていることが、なによりも大切だろう。熱い血が通い始めたヴィジュアル系シーンは、ここからまた何かが動き出すかもしれない。(山口哲生)