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戸田恵梨香の笑顔は回を重ねる度に魅力的に 『スカーレット』が描く変わらない一日を過ごす尊さ

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 NHK連続テレビ小説『スカーレット』も残すところ1週間となった。戸田恵梨香演じる川原喜美子の、時折零れるように笑う笑顔は、不思議なことに役柄が年を重ねれば重ねるほどキュートさを増し、いつもハッと心を奪われる。

参考:『スカーレット』第145話では、武志(伊藤健太郎)がやり場のない感情を初めて爆発させる

 そして、誰よりも「リアル」という言葉が相応しい、優しさも弱さも、零れ出る愛も、ありのままの表情が愛おしい松下洸平演じる八郎。子役の中須翔真時代から変わらず健気ないい子であり続け、特に父親との関係性は本当に微笑ましい限りである、伊藤健太郎演じる武志の真っ直ぐな好青年ぶり。信作(林遣都)はじめ楽しく愉快な大野一家。照子(大島優子)とバナナ好きの夫・敏春(本田大輔)。父親譲りの性格とド派手衣装が楽しい直子(桜庭ななみ)。

 物語が終わりに近づき、顔を見せにきた、それぞれに信念を持って強く生きてきたことが一目でわかる、懐かしくかっこいい人々。彼らと出会えるのももう最後かと思うと、本当に、一日一日が愛おしい。

●愛おしく優しい登場人物たち

 喜美子の人生は、苦難の連続だった。お金や家族の心配もしなくてよくなり、背負っていたものが全てなくなって1人の生活に戸惑う、あのアンリ(烏丸せつこ)が舞い込んできた時期だけが彼女の唯一の空白の時間だったのかもしれない。それでも、このドラマのことで思い出すのは、愛おしく優しい登場人物たちの姿ばかりだ。

 八郎と喜美子が元夫婦として、息子の闘病を支えるための、いわば共同戦線として築いた新しい関係は、互いの表情の変化や性格の違いを誰よりもわかり合い、たわいもないやりとりで笑い合う、本当に心地いい関係だ。川原一家は、いろんな荒波を越えて、互いにアドバイスし合い、時には分析し合う、最高の親子となり、親友・仲間となり、越えるべきライバルとなった。

 そんな陶芸一家の成熟期はじめ、ドナー探しを契機に顔を見せにくる懐かしい人々の姿、さらには、武志の病気に心を痛めながらも、武志ができる限り最上の「いつもと変わらない一日」を過ごせるように、いつも明るい笑顔と気遣いを絶やさない、愛すべき信楽の人々が提供する笑いも、どれもこれもが、大崎(稲垣吾郎)の言葉「病気はつらいこともたくさんありますが、泣きたくなるような素晴らしい出来事もいっぱいおきます」そのままであると言える。

●琵琶湖へとつながる一滴の水

 水滴が青空を揺らす。底抜けに明るい「スペシャル・サニーデイ」の週明け、本編の再開を示す第22週のファーストショットは、青空だった。武志は入院中、じっと病室の窓に宿る水滴を見つめ、朝病室から見える青い空を眺めていた。やたら「負けずに」「負けへん」と「揺るぎない強さ」を持ち合わせている真奈(松田るか)。彼女が雨に「負けへん」ために買った傘は、真奈のことを大切に思うがゆえ、病気を理由に彼女を遠ざけようとする武志との涙が零れそうなやりとりの後、忘れられてそのまま置いていかれる。

 その傘は、晴れた日の通り雨と日差しを受けて煌く、美しい受け皿となる。そこから零れ落ちた一滴の水は、青空の映る水溜りに落ち、波紋となって広がっていき、武志の「熱くなる瞬間」につながる。武志は、持ちうる限りの力全てを注ぎ込むように、器の中にその光景を描いていく。

 思えば、このドラマは、お茶を出したり、コップを渡し、薬を飲み、喜美子がコップを洗うという過程であったり、作業場の蛇口で丁寧に手を洗うといった行程であったりと、水にちなんだ何気ない仕草を殊更大切に描いていた。彼らの日常には、常に水が寄り添っていたのだ。これもまた、武志にとっての「いつもと変わらない一日を過ごす」ことの一つなのだろう。

 そして、川原家の庭に零れ落ちた一滴の水は、水溜りを揺らし、大きな器に生き続ける水となって、琵琶湖に繋がる。京都の展覧会に参加するなど陶芸家として多忙な日々を送っているはずの喜美子は、未だに琵琶湖大橋を渡ったことがなかったということが第142話で判明する。

 武志の、「琵琶湖大橋を渡って俺の作品を智也(久保田直樹)に届けたる」という言葉に、喜美子は「お母ちゃんも絶対行く」と子供のようにワクワクとした表情を浮かべた。その表情は、父・常治(北村一輝)と一緒に家族で琵琶湖を見ていた幼少期の彼女(川島夕空)の表情と重なる。智也は亡くなってしまったが、予告を観た限り、武志と喜美子が、真奈を連れて、完成した作品を手に智也の母親(早織)に会いに、琵琶湖大橋を渡るという幸せな光景を我々は目の当たりにすることができるのかもしれない。そしてその後もきっと……。優しい奇跡が起こることを、心から祈っている。(藤原奈緒)