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鈴木亮平が悲劇の連鎖を止める 『テセウスの船』原作を改変し描いた“変わらないもの”の正体

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 『テセウスの船』(TBS系)最終話は、佐野文吾(鈴木亮平)が逮捕されるシーンで始まる。31年前の事件を防ぐために力を尽くしてきた田村心(竹内涼真)にとって、目の前で家族が引き裂かれる光景を目にするとは思いもよらなかっただろう。

参考:竹内涼真が語る、『テセウスの船』撮影の日々 「出口が見えない時はとりあえずがむしゃらに」

 すべての罪を佐野に着せて死刑に追い込もうとしていた犯人は、小学生の加藤みきお(柴崎楓雅)だった。共犯者に襲われて意識を失っていたみきおは、心の前に現れると「計画変更」を告げる。みきおの犯行動機は鈴(白鳥玉季)のヒーローになることだったが、佐野がいなくなればかえって鈴が悲しむと考えて犯行を自供する。

 佐野の無実が証明され、残されたのは誰がみきおの共犯者なのかという疑問だが、考察が繰り広げられた共犯者の正体について村人それぞれの過去が明かされた。可能性がある村人の中で、もっとも怪しい雰囲気を出していた石坂校長(笹野高史)や商店主の井坂(六平直政)はシロ。そんな中、12年前の音臼村祭りの経緯が明らかになった。

 毒キノコを食べた徳本(今野浩喜)の母親が亡くなった村祭りで、みきおの共犯者は佐野を逆恨みした徳本(今野浩喜)とも思われたがそうではなく、背景には入り組んだ事情があった。実は、キノコ汁に毒キノコを入れたのは田中正志(せいや)の母親であり、当時捜査を担当したのが佐野だった。村会議員に立候補しようとしていた父親の義男(仲本工事)は事件のもみ消しを図ったがうまくいかず、正志の母親は「あんたの点数稼ぎのために捕まって、親父に捨てられて、さんざん苦労して体壊して、あっさり死んだ」と正志の口から明かされた。

 その後、妹も「殺人犯の子」と呼ばれて自殺。正志にとって決定的だったのは、父親の介護で音臼村に戻った正志に佐野がかけた「家族は大事にしねえとな」という一言。「俺の家族をぶっ壊したあんたとあんたの家族に同じ地獄を見せてやる」と心に決めて、佐野を排除しようとするみきおと手を組んだのだった。

 佐野を狙っていた黒幕が、佐野が担当した事件の加害者家族だったという衝撃。村人の笑顔を守るために職務を遂行したことが、かえって新たな犠牲者を生んでいたのだ。心と同じ加害者家族として、正志は地獄のような日々を送ってきたに違いない。佐野が無自覚に発した言葉も正志の心を深くえぐっていた。

 音臼小事件の「その後」を描いたドラマ版『テセウスの船』の原作との最大の違いは、共犯者の正体だ。原作では、大人になったみきお(安藤政信)が過去にタイムスリップして子どものみきおに力を貸すというストーリーだが、ドラマでは正志が共犯者であり、動機から見ればむしろ正志が主犯とも言える。

 正志と心はコインの裏表のようなキャラクターだ。加害者家族として父の冤罪を晴らそうとする心も、一歩間違えれば正志のようになっていた可能性は否定できない。また佐野にしても、家族を守るために自身を正当化することも十分にできたはずだ。

 しかし、佐野はすんでのところで正志への反撃を思いとどまる。それは、自分を信じてくれた心を裏切れないという思いからだった。佐野が正志に投げかけた「大事な家族を救えなかったって、お前はずっと苦しんできたんだな」という言葉は、互いを許し、悲劇の連鎖を断ち切るという決意でもあった。

 佐野が有罪にならなかった未来で、心は過去にタイムスリップすることはない。31年前に出会った心が未来から来た息子であることを知っているのは佐野だけ。目の前にいる心は、31年前には和子(榮倉奈々)のお腹の中にいたもう一人の心だ。あったかもしれないもう一つの未来に思いをはせる「テセウスの船」のパラドックスは、時がたっても変わらないものがあることを教えてくれる。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。