残念ながら開催中止となった「法隆寺金堂壁画と百済観音」 公開されるはずだった展示会場の模様を紹介
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国宝《観音菩薩立像(百済観音)》とスペシャルサポーターの木村多江さん
火災で焼損した法隆寺金堂壁画の模写や国宝の百済観音像など、法隆寺金堂ゆかりの寺宝を紹介する展覧会『法隆寺金堂壁画と百済観音』。新型コロナウィルスの影響により残念ながら開催中止となってしまったが、公開される予定だった展示会場の様子をレポートする。
世界最古の木造建築にして、世界遺産に登録されている法隆寺。その金堂には約1300年前の飛鳥時代に描かれた壁画があったが、戦後間もない1949(昭和24)年に火災により大半が焼損してしまった。
同展では、焼損前に描かれた模写や、焼損後に再現された現代の壁画、そして日本古代彫刻の最高傑作のひとつである百済観音など、金堂ゆかりの諸仏が展示される。第1会場で最初に展示されているのは、金堂の断面模型。金堂内は、本尊の釈迦三尊像を中心とした仏教世界が彫刻や絵画で表現された空間となっており、内陣は巨大な厨子のような構造となっているのがわかる。
そして、朱塗りの柱をくぐり抜けてメインとなる会場へ。そこは、長身の百済観音を中心に、毘沙門天立像、吉祥天立像が並び、その周りを大画面の金堂壁画模写がぐるりと取り囲む、荘厳な世界が広がっている。
法隆寺金堂壁画は、全12面の巨大な壁画群。釈迦や阿弥陀如来など群像を描いた大壁4面と、諸菩薩を単独で描いた小壁8面からなり、大壁も小壁も高さは約3.1メートルにもなる。
この貴重な壁画を次世代へ継承する取り組みは、明治時代から行われていた。明治期には桜井香雲(1832〜95)が、大正〜昭和期には鈴木空如(1873〜1946)が、そして、国の事業として「昭和の大修理」が行われた際には、京都の印刷会社・便利堂による写真撮影と、安田靫彦ら日本画家による模写が行われた。さらに焼損後に行われた、安田靫彦と前田青邨を中心とした模写事業により再現壁画が完成したという。
同展では、江戸時代に描かれた最古の模写から、桜井香雲、鈴木空如、安田靫彦、前田青邨らが手がけた模本を展示。傷や剥落などをそのまま写し取った緻密な模写から、在りし日の威容と迫力を感じ取ることができる。
また、百済観音の名で親しまれている国宝《観音菩薩立像》は、この度23年ぶりに東京へお出まし。高さ約210センチのすらりと伸びた八頭身に、口元にはかすかな微笑みをたたえ、風を孕んでひるがえる衣やしなやかな指先など、静かな表現の中に観音菩薩の慈悲の心がにじみ出ているかのよう。加えて、金堂の本尊釈迦三尊像の左右に安置される国宝《毘沙門天立像》《吉祥天立像》も展示。平安後期の華麗な美と見事な彩色文様に注目したい。
第2会場では、金堂の世界を後世に伝えるためのプロジェクトにより制作された壁画の複製陶版や、東京藝術大学が開発した「スーパークローン文化財」による釈迦三尊像などの複製を紹介。貴重な文化財を保護し、継承することの大切さを伝えている。
そして、音声ガイドのナビゲーターを務めるのは女優の木村多江さん。壁画の焼損から保存、継承にまつわるドラマや、模写や再現に関わった画家たちのエピソードも紹介される。
同展のスペシャルサポーターも務める木村多江さんは、開幕に先駆けて同展を鑑賞。「実際の壁画模写を前にすると、表面的な美しさはもちろん、模写を描いた方達の情熱を感じることができました」と感動を表した。
また、百済観音については、クスノキという硬い木材で作られていながら、しなやかさや、柔らかさを表現していることに驚きながら、「何か訴えてくるものがあるような気がして、心が洗われるような、穏やかになるような気持ちがしました」と語った。
残念ながら今回は開催中止となってしまったが、このような貴重な文化財を心おきなく鑑賞できる機会がまた訪れることを願ってやまない。
【開催情報】
『法隆寺 金堂壁画と百済観音』
新型コロナウィルスの感染拡大防止による緊急事態宣言を受けて、開催中止
【関連リンク】法隆寺 金堂壁画と百済観音
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