川口春奈、『麒麟がくる』に“深み”を与える 帰蝶の多面的な人物造形
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先週放送されたNHKの大河ドラマ『麒麟がくる』第12回「十兵衛の嫁」で、斎藤道三の娘であり、政略結婚で尾張・織田家の信長(染谷将太)に嫁いだ川口春奈演じる帰蝶が、信長の父・織田信秀(高橋克典)を向こうに回し、強い存在感を示した。さらに今週放送の第13回「帰蝶のはかりごと」ではタイトルの通り、またこれまでとは違う帰蝶の顔が見られそうだ。
【写真】若き頃の帰蝶
沢尻エリカの降板により、急きょ帰蝶を演じることになった川口。初の大河ドラマ出演であり、時代劇も初めてという不安要素が多いなか、主演を務める明智光秀役の長谷川博己をはじめ、共演者、スタッフのバックアップもあり、安心して撮影に臨めていることを明かしていた(参考:https://www.cinematoday.jp/news/N0114556)。
序盤こそ出演シーンは少なかったが、最初の夫である美濃の守護大名・土岐頼純(矢野聖人)が、実の父・道三によって殺害されたあと、政略結婚として尾張・織田家に嫁ぎ、信長の妻となってから、帰蝶の人物像は一気に立体化していく。
もともと放送前に実施したインタビューで川口は、帰蝶という人物像について「激動の時代を生き抜いた女性。芯の強さがあり、のちに信長をコントロールする賢い女性」というディレクションを受けたことを明かしていたが、“凛とした佇まい”というのが一つのキーワードになっていた。
この言葉通り、織田家に嫁いでからも帰蝶は、信長をしっかりと立てつつも、ただ従うだけではなく、自分の意見をもち行動する。特に第12回では、弟の信勝(木村了)に重要な拠点である末盛城を任せることを聞いた信長が反論し、父・信秀に叱責され気持ちが荒れるなか、信長に寄り添い慰めることなく、病床に臥している信秀のもとに一目散に駆け寄り、信長のことをどう思っているのかを問う。
ここで帰蝶と信秀がどんな会話をしたかは現状、視聴者には明かされていないが、その後、帰蝶は信長に対して、彼の士気が上がる言葉を投げかけ、信長をも自身の手の内にいれるような“強さ”を見せつけた。
一方で川口は、放送前のインタビューで帰蝶の“女の子らしさ”にも言及していた。そのことが最も良く出ているのが、光秀という同じ男性に恋をしているという共通点から、心を許している駒(門脇麦)とのシーンだ。第12回でも、久々に再会した駒が登場する場面では、満面の笑みで廊下を歩く帰蝶が映し出されるが、その弾けんばかりの笑顔は、信長や光秀と対峙するそれとは明らかに違い女の子らしさが溢れていた。
その後、光秀が嫁をもらったことを駒に話したあと帰蝶は「十兵衛(光秀)が参ったらチクチクいじめてやろうと思うておる」といたずらっぽく話すが、信秀との緊張感あるやり取りがあったあとだけに、この軽やかさは、今後の帰蝶という女性を見るうえで、非常に良いアクセントになっていたように感じられた。
放送終了後、川口は信秀とのシーンについて、ドラマ公式Twitterで「義父に信長へ対する真意を聞きに行くシーンを演じながら、やはり帰蝶はマムシの道三の娘だなと思いました。敬意をもってお願いしているけど、話してくれたら医者を呼びますと、交換条件を出して交渉している。頼もしくもあり、しぶとさも感じます」とコメントを出していたが、信長役の染谷同様、多面的な人物造形は、川口の帰蝶という人物の理解度の深さを印象づけた。
本作で帰蝶がみせる軽やかさや女の子らしさは、これまでの川口がもつパブリックイメージに近い部分があるが、凛とした佇まいや芯の強さという部分でも、非常に近しいところがあると感じられる。
数年前、自身が主演した連続ドラマの視聴率についてあるメディアが報じたとき、映画の舞台挨拶で、悔しさをにじませた川口の姿を見た。そのとき取材していた記者たちは、川口の作品に取り組む姿勢や愛情、周囲のスタッフへの心配りなど、10代にして責任感の強さや向上心ある言動に「将来、絶対に素敵な女優になる」と口をそろえて話していたのを覚えている。
その後も映画、ドラマと着実にキャリアを重ねているが、本作は自身も「間違いなく自分をステップアップさせてくれる役だと思う」と手応えを感じているように、今後帰蝶の活躍が作品に深みを与えてくれることだろう。
(磯部正和)