そのとき、何を思い、何をしましたか? 第3回 少しずつ前へと進む、劇作家、演出家、俳優、舞台スタッフたち
ステージ
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「そのとき、何を思い、何をしましたか?」第3回の寄稿者。
新型コロナウイルスの感染が広がり、政府が緊急事態宣言を発令してから3週間。街では人の往来が減り、日常の風景が変わった。舞台を取り巻く環境も2月中旬から目まぐるしく変化し、今では静かに再開のときを待っている。しかし、水面下では舞台を未来へとつなげるために奮闘している人々が多くいることも忘れてはならない。
ステージナタリーでは、ここに至るまでにさまざまな決断を下した舞台人たちの思いを数回にわたり届けている。第1回(参照:そのとき、何を思い、何をしましたか? 第1回 | 劇作家、演出家、俳優、ダンサー、プロデューサーたちが語る)は劇作家から演出家、俳優、プロデューサーまで17名の声を紹介。第2回(参照:そのとき、何を思い、何をしましたか? 第2回 | 客席から舞台の明日を支える)ではクラウドファンディングやドネーションを介して活動資金を捻出しつつ、観客との新たな結びつきを模索し始めている団体に焦点を当て、今、観客として舞台を支えられる方法を考えた。そして第3回では再び、舞台人たちの声を集める。
今回、「そのとき、何を思い、何をしましたか?」の問いに答えてくれたのは、全国の劇作家、演出家、俳優、舞台美術・衣装スタッフなどの26名。彼らはそれぞれに事情が異なる中で、無観客上演を実施し舞台への思いを強くしたり、悔しい経験から生まれる感情とその変化にしっかりと向き合ったり、周囲とのつながりを濃くしたり、さまざまな思いを抱えている。その言葉からは、出口の見えない状況に立ち止まりながらも、少しずつ、前へと進んでいこうとする姿が見えた。
【舞台人たちが思いをつづる】
劇作家から舞台スタッフまで、26名の舞台人たちが、それぞれの思いを語る。
池田亮(脚本家・演出家・美術家 / ゆうめい)
2月下旬、他劇団の公演が中止・延期の決断をしたという知らせが日々途絶えなく届いており、今まで以上に「今すべきなのか」が強く問われる稽古場となっていました。
劇場側とも日々協議を重ね、新型コロナウイルスの情報を収集し衛生管理を徹底するという方針を固め、2月28日に「上演を実施する方向で進めている」ことを発表しました。
3月中旬まで過去3作品を再演する公演を実施しましたが、その中で上演予定だった「あか」の中止を決めました。
理由の詳細は今も話すことはできないのですが、新型コロナウイルスがもたらした周囲の現状が強く関係し「今すべきなのか」と強く問われる出来事が劇場でもあったためです。「あか」を再び上演する際にすべてをお伝えできる、する所存です。公演場所はいまだ確定できませんが、中止となった公演をどうしても上演したく存じます。
4月はゆうめいの俳優・田中祐希の自宅から配信企画を実施しましたが、その後も「今すべきなのか」、では「何をどうすべきか」、が家の中でも続いています。
ゆうめい | ホームページ
池田亮 (@yyyry_ikeda) | Twitter
市原佐都子(劇作家・演出家・小説家 / Q)
4月から3カ月間ミュンヘンに滞在し現地の劇場へ新作戯曲を書き下ろす仕事があったが、その仕事はとりあえず日本にいたまま遠隔で進めることになった。自分のことでも他人のことでも、楽しみにしていたことが予定通り行われないのは悲しい。近頃は、3年前に執筆した「妖精の問題」という作品をZoomで上演するための作業をしている。この作品は相模原障害者施設殺傷事件を受けて創作した。自分の中にある優生思想をみつめ、できるだけ偽善的でない方法であらゆる人間の生を肯定しようと試みた。3部構成になっている。3部「マングルト」では菌を用いてその存在を認めることで人間の生を肯定する。菌は一見すると人間の身体に悪い働きをすることもあるが、それは重要な警告でもある。菌は見えないけれどあらゆる場所に存在し、あらゆる人間にすみついて、同じように作用する。菌とウイルスは違うが、この点においてはウイルスも同じだろう。この部に限らず、3年前の言葉たちが今の状況下ではまた違う角度から私に刺さってくる。当然ながらZoomで劇場公演のような効果を持った上演はできない。私は今すぐ気の利いたことはできない。大事な友達が言った。「それでいいんだよ。いつか新作の役に立つよ」と。この時期に感じている感情の揺れ動きをいつか未来の私が何かに昇華すると信じている。
ぜひ完成したらZoom「妖精の問題」に参加していただきたい。
Q | 市原佐都子の劇団/ICHIHARA Satoko's theater company
Q(キュー)/ 市原佐都子 (@QQQ_9) | Twitter
井上芳雄(俳優)
「桜の園」は2月半ばから稽古が始まりました。
3月に入り、周りの状況はどんどん変化していましたが、僕たちは変わらず稽古に集中していたように思います。ただ、もしこれがお客様の前でやれなかったら……という思いが、ふとよぎったりはしていましたが。
それでも稽古場を終え、劇場入り。
20年前の初舞台から何度となく経験してきたことですが、こんなにも劇場に入れたことがうれしいと感じたことはありません。
衣装もカツラも、照明もセットも音響も、客席のシートや通路までも、こんなにまでいとしく感じたことはなかったです。
検温し消毒をし、マスクをしながらの場当たりを終え、一旦休みに入ったところで緊急事態宣言が出て、公演の中止が決まりました。
解散式もお別れのあいさつもできず、そのあとにできたキャストのグループLINEで連絡を取り合っています。
今でも、場当たりの最後に客席から見た「桜の園」のラストシーンが忘れられません。
生きることの真実を垣間見たような瞬間でした。
今は、とにかく命を守ることが第一です。
そのうえで、僕たちにできることは何なのか、どうやったらみんなで劇場に戻ることができるのか。
あれからずっと考え続けています。
井上芳雄オフィシャルサイト
井上芳雄 | グランアーツ【Grand-Arts】
上田大樹(アートディレクター・映像作家)
3月の段階では、おそらく中止となるのだと薄々感じつつも、
粛々といくつかの作品のために動いていて(宝塚歌劇宙組「FLYING SAPA-フライング サパ-」、「スーパー歌舞伎II(セカンド)『新版 オグリ』」の仕込み中でした)、
上演されないかもしれない作品の準備をするのは、おそらく多くの人がそうであったように、思った以上に心がすり減る状況で、
でも、現場の空気には未来につながる種のようなものを感じたのもまた事実です。
生き延びていくための問題(これはもちろんとても大事なことです)とはまた別に、
しばらく続くこの状況と共に何を作り、
再開したときに、どう新しいものを作り出していけるのか、
映像を仕事としている自分ですら、
何でもオンラインやバーチャルでできるとは思えないながらも、
いろんなアクションを起こされている方たちのことを心から尊敬しつつ、
今はまだ迷いながら、保育園と小学校の休校に伴って、1日の大半を子供たちと過ごす日々です。
&fiction
上田大樹 (@Taiki_U) | Twitter
鵜山仁(演出家 / 文学座)
3月から6月にかけて、文化座の「炎の人」が2ステージを残して中止。舞台芸術学院の卒業公演が授業見学扱いに規模縮小。こまつ座の「雪やこんこん」、文化座の「命どぅ宝」の沖縄公演、新劇交流プロジェクト「美しきものの伝説」、この3本がいずれも中止。創る側の我々が公演の中止を自ら決定しなければいけない、これはもう大変なストレスですが、決断しないわけにはいきませんでした。スタッフ、キャストにとっては文字通り死活問題です。ただ、これまで何千年間か、演劇は数限りない困難を乗り越えてきたわけで……。
僕が今気になるのは、実はそのことだけではなく、改めて演劇はウイルスに似ていると。つまりライブの感染力というか、振る舞いというか、感染してなんぼ、増殖してなんぼという危険な特性を、演劇とウイルスは共有しているのだなと。
アントナン・アルトーの「演劇とペスト」ではないが、「演劇とウイルス」の行く末を、この際じっくり見極めたいと思います。
文学座
鵜山仁 (@hitoshiuyama) | Twitter
桐生麻耶(俳優 / OSK日本歌劇団)
「春のおどり」の中止、延期と聞いたとき、漠然とした不安はありましたが、同時に、決して投げやりなわけではなく……なるようにしかならない、待つしかないと思いました。何かを、そして誰かを守るためにたくさんの方が動いてくださり決断をしてくださったわけですから。大阪での公演は延期という光もあります。何ができるわけでもないですが、公演するはずだった期間中だけは、ブログは更新しようとそのとき決めました。
毎日身体は動かしています。部屋でできることは限られますが筋トレ! 振りの確認! あとはウォーキングも。春はまた必ず来ますので、そのときに待っていてくださったお客様に最高の舞台をお届けできるように、たくさんの準備期間をいただいたと思います。たくさんの方々に支えられて、舞台は成立するのだと、痛感しました。どこかで当たり前だと思っていた日常は、実は大切な日々なのだということも痛感しました。その気持ちを次からの舞台に生かせるように。踏ん張ります。
皆さま、どうかお身体にはお気を付けてお過ごしくださいませ。
OSK日本歌劇団
桐生麻耶 | OSK日本歌劇団
相馬千秋(アートプロデューサー / 芸術公社)
シアターコモンズ'20の開幕前夜、政府から大規模イベントの自粛要請が出た。私は実行委員長でもあったので、最終的な責任はすべて自分が取るという覚悟のもと、ワークショップやトークはすべてオンラインに変更、上演作品は関係者との協議のもと続行することにした。幸いクレームやバッシングは一切なし。「大規模ではない」イベントの規模感と「自分が意思決定の主体」であれるインディペンデントの強みを感じた。が、それすらも今や奇跡に思える。
そもそも身体的な「濃厚接触」と「移動」が大前提の舞台芸術は今、瀕死の状態だ。まずは延命と蘇生のための応急措置(補償)が絶対必要。生還後に向けては、ウイルスとの共生を前提とした、新たな集客・上演の方法を発明しなければならない。その作業は逆説的に、私たちが信じていた舞台芸術というものの本質を浮かび上がらせるはずだ。かつてアルトーがペストをもって演劇の本質を語ったように──。危機の時代の演劇は、危機と共に変異し、生まれ変われるはずだ。そう信じて、私は今日も部屋にこもって企画を考えている。
シアターコモンズ'20
特定非営利活動法人 芸術公社 | Arts Commons Tokyo
相馬千秋 (@somachiaki) | Twitter
多田淳之介(演出家 / 東京デスロック)
2月29日、3月1日に神奈川県青少年センター スタジオHIKARIで上演予定だった小田原の寄宿生活塾はじめ塾の子供たちとの作品が中止になり、劇場と相談して保護者や関係者のみにゲネプロを観劇してもらいました。作品は子供たちが考えた授業を観客が受ける体験型作品だったので、身内とはいえ子供たちも初めての観客を前に多くの発見をしてくれてとても良い上演でした。表向きには中止でしたが各所スケジュールを調整して6月に上演する予定だったのですが、その後の緊急事態宣言を受け県知事も8月末までの県の施設の閉鎖と事業の中止を宣言し、6月の上演も中止となりました。子供たちとこの状況でどうやったら上演できるか、全員防護服を着るとか、オンラインでの上演、配信だとしたら何ができるか、稽古もオンラインでどうやるか、ちょうど学校でのオンライン授業も始まりwithコロナのコミュニケーションを子供たちと考える良いタイミングだったのですが、非常に残念です。
Tokyo Deathlock
JunnosukeTada@JPN (@TDLTJ) | Twitter
玉田真也(劇作家・演出家・俳優 / 玉田企画)
いつ中止の判断をすることになるかわからないな、と思いながら稽古していた。毎日のように世の中の状況が変わるので、その日は決行するという判断をしても、その翌日にはその判断を翻さなければいけないかもしれない。毎日、情報をできる限り収集して、判断の材料にした。行ったことないけど戦場にいるような気持ちだった。
結果としては上演をまっとうすることができた。3月後半の上演で、あと数日でも日程がずれていれば上演を諦めるしかなかっただろう。今の状況を考えれば奇跡的だと思う。
今はあのときとは比べものにならないほど状況が悪化している。まだ1カ月しか経っていないなんてうそのようだ。世界はものすごいペースで変わるらしい。
変わってしまうことはもう仕方がない。この中でやれることを探していくしかないと思う。演劇をやりながら培ってきた、ものを作る技術や想像力は、いろんな状況で応用できるはずだ。振り返らずにやるしかない。
玉田企画
玉田企画 (@tamadakikaku) | Twitter
ダムタイプ
ダムタイプは、ロームシアター京都で、3月28日・29日に予定していた新作パフォーマンス「2020」公演が、3月23日に公演中止となりました。
ロームシアター京都としては、ウイルス感染防止対策を最大限検討しつつ、ぎりぎりまで公演の準備を進めていましたが、最終的に主催者である京都市の判断により公演は中止となりました。
約1年半にわたって制作に取り組んできた作品の初演が中止になったことは極めて残念ですが、私共ダムタイプとしても、この新型コロナウイルスの感染拡大の危機的状況においては、お客様や劇場スタッフ、メンバーおよび関係者の皆様の安全のためには、公演中止という判断は正しい判断だったと思っています。
このような困難な状況の中、直前まで粛々と準備を進めてくださり、また公演中止決定後にはチケットの払い戻し等の対応作業に当たってくださっているロームシアター京都のスタッフの方々には心から感謝しています。
【公演中止】ダムタイプ 新作パフォーマンス『2020』 | ロームシアター京都
堂本教子(舞台衣裳家)
イベント自粛要請が出された2日後の2月28日は、私にとっては異例の公開トークが歌舞伎座ギャラリーで行われることになっておりました。急きょ中止になり楽しみにしていただいていた知人、友人に急ぎ「またやることになったら、ぜひ来てくださいね」とお知らせ。3月の中旬にはいつもの日常が戻るものと、どこか遠い国の出来事のようにのんきに思っておりました。
しかし公開トークどころではなく、参加することになっていた舞台公演が次から次に中止・延期になり、公演間際の中止のことを聞くと、時間をかけて創り上げられた舞台芸術が世に出ないことに、心が折れる思いでした。
この空白期間に気付かされたのは、私にとって舞台芸術に携わることはもちろん、観客としてそれらを目撃してゆくことが、エネルギーチャージになっているのだということです。これからどこで私のエネルギー補給していくのか、じっくり考えていきたいと思っています。
また、今回の苦難がさらなる新しい舞台芸術の始まりになってゆくことを、切に願ってます。
KYOKO88%|堂本教子(舞台衣裳家・堂本教子の制作作品の紹介)
徳永京子(演劇ジャーナリスト)
3月は約40本の公演を観る予定でした。実際に観られたのは20本ですが、観劇できたものもそうでないものも、1日単位で予定が変わる日々でした。ご招待を受けていた公演で、初日延期→日程を再調整→結局中止というものがいくつもあり、その間の制作の方々のご苦労を思うと言葉がありません。ちなみに4月の劇場での観劇本数はゼロです。
当初は「上演を決めた団体を観ることで応援したい」と考えていましたが、3月25日の小池都知事の緊急記者会見を機に、私だけでなく東京の演劇関係者の多くに、それまでと違うギアが入った気がします。2月26日の大規模イベント自粛要請より深いギアですね。
仕事はもちろん減っていますが、今、考えているのは、書くことが根幹から問われ直しているということ。私はこれまでひたすら劇場に通って皮膚感覚を敏感にする、つまり足で書いてきましたが、それが当分できない。オンラインの演劇はそれぞれ付帯条件が異なっていて批評の軸をどこに置くか迷っています。ほどなく生まれるであろう新しい形の演劇を待ちながら、自分が足場にできる演劇の本質を探しています。
徳永京子|note
徳永京子 (@k_tokunaga) | Twitter
泊篤志(劇作家・演出家 / 飛ぶ劇場)
2月下旬、台本の北九州弁への翻訳・方言指導として関わっていた舞台が初日のみ上演し、翌日以降すべて中止になった。北九州芸術劇場の主催事業だったこの公演は「北九州市が主催するすべてのイベント等が中止」となったことで漏れなく中止となったのだ。自分が作演出した作品ではないけれど、作り上げてきた舞台を観客に届けられないというのは初めてのことで、気持ちをどこに向けていいのかよくわからなかった。3月に入ってからは自分が関係した舞台が続々と中止や延期になっていった。当初は「何らかのカタチで上演したい、届けたい」と画策しようとしたが、やがて事態が深刻になるにつれ「安心してお客さんを迎えられるようになるまで延期やむなし」と気持ちも変化していった。悔しさから諦めへといったところか。これらほぼ全て「公共」が主催者だったので自分の意志が入り込む隙はなかった。逆に自分の劇団公演ではなかったので経済的なダメージはさほど大きくなかった……というのは不幸中の幸いだったか。そして今「延期になった舞台をいつ上演するのか?」という問題に直面している。コロナ騒動はいつ収束するのか、いつ舞台を始められるのかがまったくわからない。これが4月下旬、緊急事態宣言下における最大の苦しみ。
飛ぶ劇場
ブログトマリ
泊篤志〔飛ぶ劇場〕 (@tmr_atc) | Twitter
中島諒人(演出家 / 鳥の劇場 芸術監督)
当劇場では、大型連休の公演を無観客ライブ配信により実施する。演劇の「生」にこだわりたくて、8回の配信を全部ライブでやる。最後に芝居のテーマ曲を、観てくれた人と一緒に歌い、それぞれの場所と劇場をつなぎたい。さらにそれぞれの歌声を録音して送ってもらい、合唱にしたいとも考えている。劇場の新しい在り方を試行する機会として前向きに捉えようとしている。
課題は山積みだ。当劇場も助成金によって支えられている部分が大きいから、売り上げ減は、事業規模の大きな縮小につながる。20名のメンバーが、演劇人としてフルタイムで生活している現状をどのように維持できるか、日々頭を悩ませている。
世界でそして日本でも、この伝染病が新しい、より深い社会的分断を生んでいる。共に考え、共に悩み、共に怒り、共に喜ぶ場として、劇場の役割はますます高まるだろう。最終的な収束まで数年という予測の中、運営基盤の強化が急務だ。
BIRD Theatre Company TOTTORI 特定非営利活動法人鳥の劇場
鳥の劇場 (@bird_theatre) | Twitter
長塚圭史(劇作家・演出家・俳優 / 阿佐ヶ谷スパイダース・新ロイヤル大衆舎)
KAAT神奈川芸術劇場においてインフルエンザにより中止となった公演を目の当たりにしたこともあり、ウイルスと演劇の相性が極めて悪いことについて考えていたところだった。それゆえ忍び寄る新型コロナウイルスに対して比較的早くから警戒心を抱いていたのだが、パンデミックにまで拡大するとは思ってもいなかった。
6月の新ロイヤル大衆舎の延期を決めたのは4月14日。緊急事態宣言の発令もあり、5月1日からの稽古が現実味を失っていたことと、稽古中の俳優及びスタッフ陣の安全の問題、また上演の可否が不透明な中で券売の見込みが立たないゆえ、リスクが大き過ぎるという判断だ。参加してくれるはずだった方々とは再会を約束し、
大堀こういち、福田転球、山内圭哉と私のメンバー4人で、上演期間中に何かしらしようと「緊急事態軽演劇」というタイトルだけは決める。何をするのか、どこでやれるのか日々協議している。50歳前後の4人でこれだけリモート会議をすることになるとは思わなかった。
オンラインでの表現を探らざるを得ないこの状況下、私も当然考えるのだが、原始的な思考に立ち戻ってばかり。オンラインは思いがけずとても便利だが、演劇的ではない。こう言い切ってしまう自分を苦々しく思ってまた煩悶する日々である。
どのような形で演劇が再開できるのかはまだわからないが、できれば多くの劇場が、さあまた始めるぞと一斉に劇場の扉を開けないものか。横目でチラチラ探るのではなく、一斉に。いずれにしても、現在そして未来の劇場、演劇の在り方、非常時における表現者の生活の維持、膨大な課題と向き合う機会であることは間違いない。
長塚 圭史 | 鈍牛倶楽部 -- DONGYU OFFICIAL SITE
阿佐ヶ谷スパイダースWEB
新ロイヤル大衆舎「無法松の一生」
那須佐代子(俳優 / シアター風姿花伝 支配人)
私は俳優業と小劇場運営を行っている身です。俳優として、公演の縮小・中止によるダメージももちろんありましたが、劇場にとっては、私個人のレベルでは語れないほど大きな、そして全国の劇場がもれなく存亡に関わる打撃を受けていると感じています。
振り返ると、この3月は「自粛」というあいまいな線引きで非常に悩ましい月でした。民間の小劇場としては、借主である主催者の意思ある限り公演を続行するというスタンスでした。中止する団体と続行する団体は半々で、劇場としてできる限りの衛生対策は施しましたが、日に日に増える感染者数に気が気ではない毎日でした。当時はクラスター発生源として「ライブハウス」がやり玉に上がっていた頃で、このタイミングでどこかの「小劇場」がクラスターを出したら最後、すべての小劇場が世間から総攻撃にあってしまうだろうという危機感でした。
やがて緊急事態宣言が出て、劇場にとって命を懸けた問題はここからがスタートなのだろうと思っています。この状態がどこまで続くのか。演劇にお客様が戻ってこられるようになったとき、果たして自劇場は存在していられるのか。
良い方策はまだ見つかっていません。
シアター風姿花伝
波乃久里子(俳優 / 劇団新派)
2月16日に新橋演舞場で開幕した「八つ墓村」に出演しておりました。
横溝正史先生のミステリーを新派版としてお届けする新作に、昨年のスチール撮影から気合いが入っておりましたし、1月に始まったお稽古も活気にあふれておりました。
初日の幕が開くと、お客様からうれしい反応を頂戴しましたもので、27日を最後に3月3日まで予定していた残りの公演が中止と聞いたときには、残念でなりませんでした。
「評判を聞いてますます観たかった……」とおっしゃっていただく機会に触れるにつけ、大変に残念で悔しくもあります。でも、何より生命あってのもの。生きていれば、またお会いできますし、その悔しさは次の舞台に向かう底力になります。
父勘三郎の舞台に立った初舞台から、今年でちょうど芸歴70年を迎えますけれど、このような状況は初めてのことです。
私は舞台に立っているときに初めて、自分の生を実感できるようです。ですから、早く事態が収束していただかないと、生きた心地がいたしません……困りますね。
舞台はご覧いただくお客様がいらして成り立ちます。皆様も、くれぐれもお身体にお気を付けになられて、お健やかにお過ごしくださいませ。お会いできる日を楽しみにしております。
波乃久里子 | 俳優名鑑 | 劇団新派 公式サイト
波乃久里子/新派特別公演『八つ墓村』コメント動画 - YouTube
野上絹代(振付家・演出家・俳優 / 快快)
「カノン」の公演中止を告げられたのは劇場入りの日。政府から文化イベントの自粛要請が出た日だった。私は主催者ではないので、もし中止と決まれば受け入れる覚悟はしていた。
劇場からの提案で、当初の初日(3月2日)に記録撮影する運びとなり、それまではキャスト・スタッフと仕事ができることになった。初打ち合わせから1年半、オーディションも経て丁寧に作り上げた座組みだ。本当にいいチームで、仕事ができることが幸せだった。
3月2日。非公開とはいえ、初日で千穐楽なので全体的にかなり力は入っていたが、それでも前日の通し稽古から飛躍的に完成度が上がっていた。もともと劇場で公演することにこだわらない活動をしてきたが、身体のほとばしり、野田さんの言葉、客席に迫る舞台美術は間違いなく劇場で観るのがふさわしく思えた。たった1回のみ許されたこの時間を「いにしえの貴族の遊び」と呼び気持ちを保った。最高の人員を集め、ぜいたくに劇場を使ったまさに夢の公演だった。
覚悟していた中止とはいえ、予定通り16回上演されていた未来を想像すると簡単に悲しくなったし、まだ3月の初め、いつも通り電車や駅に人があふれているのを見ると簡単に怒りが湧いた。
この一変してしまった世界では絶対的に大事なものだけに集中していないと、相対的に自分を憂いて気持ちの分断を生んでしまうことを学んだ。
私にとって絶対的に失くせない表現とは何か、演劇の何を大事にしているのか、いただいたたくさんの励ましの言葉と共に今ゆっくり考えている。
野上絹代 | 快快 -FAIFAI-
野上絹代 (@silkgeneration) | Twitter
ノゾエ征爾(俳優・脚本家・演出家 / はえぎわ)
無観客でやった1回きりの本番のあの虚しさは一生忘れないだろう。去る2月末、初日2日前に公演中止が決定した。首相から自粛要請が出された。主催が放送局である性質上仕方ない。とはいえ必死こいて作り上げた新作。わがまま言って無観客での本番をやらせてもらった。どんな作品に行き着いたのかを観たかったわけだが、虚無しかなかった。目の前に観客あってこその演劇であることを身に染みて痛感した。続いて3月末、シアターコクーンでの初演出作品が始動した。日に日に深刻化し、3密しかないこの稽古ってダメなんじゃないか? バレなきゃいいのか? いいわけない。と危惧するうちに緊急事態宣言が出され中止となった。
生活者に根付く演劇ならば、生活者が納得する責任ある判断が必要だ。
この先地球規模でのコンマリ的な淘汰と選択が進むとして。そのとき演劇が「ときめくモノ」であるために、今軽やかな思考が求められる。と言いつつ、1歳半の息子との生活に追われるばかり。なかなか得られなかった息子との時間。この点に限ってはご褒美と考えている。ただ腰がキツい。
ノゾエ征爾
はえぎわ
ニッポン放送プロデュース はえぎわ番外公演「お化けの進くん」|ニッポン放送EVENT
母を逃がす | Bunkamura
畑澤聖悟(劇作家・演出家 / 渡辺源四郎商店)
渡辺源四郎商店第33回公演「大きな鉞の下で」はGWの東京公演と5月中旬の青森公演、計11ステージを予定していた。稽古は3月7日にスタートしたが、緊急事態宣言発出前の4月3日に中止(1年の延期)を決めた。どう考えても東京・青森間の移動は無理である。劇団員は一様に悔しさを述べたが、同時に自分の職場のことを語った。飲食店店員、保育士、小学校教員、市役所職員、看護師である彼らは、自分の職場を、お客様を、子供たちを、患者を守るためには仕方がない、と口をそろえた。我々は東京でなく青森で生活することを選び、同時に演劇を生活の中心に置くことを選んだ。そのためには自立した社会人となり、仕事を持たなければならない。そして青森だけでなく東京やいろんな街で公演を打ち、作品のクオリティを証明し続けなければならない。どちらも地域の力となり、地域を守る仕事である。今回、1つを諦めたが、1つを貫くことはできた。そう考えている。
渡辺源四郎商店
渡辺源四郎商店 | Facebook
渡辺源四郎商店 (@nabegenhonten) | Twitter
藤田俊太郎(演出家 / 虹艶Bunny)
私の演出作では東宝製作「絢爛豪華 祝祭音楽劇『天保十二年のシェイクスピア』」で東京3公演、大阪8公演の計11公演を中止。「act guide 2020 Season 6」の連載「From The Balcony Seats」と「えんぶ2020年6月号」の中で、作品への思いをインタビューで答えました。また梅田芸術劇場製作のミュージカル「VIOLET」全29公演休止に寄せてメッセージを書きました。
今日の段階で本来であれば「VIOLET」の公演中です。演劇活動の自粛は、今までの活動を振り返る契機となりました。まずは中止・休止となった2公演の製作会社が演出の仕事にきちんとした補償をしてくださったことは大きな希望となりました。社会の中での演劇の在り方、演出家の仕事の多様化、1つの公演をより長く続けることも安定につながる可能があるのではないか、など考えるべきことがたくさんあります。まずはウイルス拡大の中、私にとって大切な「劇場」でどのようにして安全にお客様を迎え入れることができるのかを、時間をかけ、製作、劇場関係者の方々と話し合っていきます。
藤田俊太郎
藤田俊太郎 (@shuntarofujita) | Twitter
堀尾幸男(舞台美術家)
コロナウイルスを知った時、感染拡大で影響を受けたその時
京都で、スーパー歌舞伎を仕込んでいました。
初日が数日遅れたうえ、無観客上演(YouTube配信)となりました。
小生は早々に帰京して、だんだんとコロナが拡大されてゆくニュースを見ていました。
パンデミックと言われて初めて、芸術の価値を認め、即高額給付するという演劇・舞台の仕事に対して、ドイツ・フランスのレベルの高さを、わが日本の政治家との比較で知りました。
自分の認識も、かく、低いものでした。いかに自分の仕事の意味・価値を知らないで、あるいは認識しないで働いていたのだと思います。
「誇りをもつのだ!」と知りました。
しかし、今のこの現実は差し迫った若きスタッフ・若いアーティストの救済を考えるべきかと思いました。
思っただけで、何をしてよいかわかりません。が、1つ考えました。
舞台美術家協会は200人のほとんど若いデザイナーの卵で構成されています。
そこで、“つかみ放題救済BOX”の存在です。
食えなくなった連中は、とにかく、ラーメン代でも、丼代でもあてがう資金になる“日銭BOX”を存在させるのです。
昔、「年末の救済社会鍋」というのがありましたが、それと似たようなものです。
一方で、私をご指名いただいた各プロデューサーに、私を可哀想だとお思いなら、
「お恵み」を少しばかりいただきたいと、御願いに廻ろうかと考えております。
松井るみ(舞台美術家)
2月26日の深夜、絶賛上演中だった「天保十二年のシェイクスピア」の公演中止の連絡を受け、頭の中が真っ白になった。
中国の演劇関係者からの情報で、日本もいずれ同じ状態になると恐れていたが、こんなに早く襲ってくるとは。35年の演劇人生の中でいまだかつてない戦慄を覚えた。これから一体、何が起ころうとしているのだろうと。
その後、大道具は完成したのに仕込めない、劇場にセットは仕込めたけれど舞台稽古ができない、舞台稽古は最後までたどり着いたのにゲネプロができない、そして初日が迎えられない公演が、次々と続く。可児市と英国リーズの共同制作では、リーズでの初日公演2時間前に中止をアナウンスされ断念。
俳優が存在できない、お客様が観ることのない舞台美術を目の前にして、何て自分の仕事が空虚なのだろうと思い知らされる。
いつ劇場に戻れるかが分からない今、ようやく未来に向けて考え始めたばかり。舞台美術家にいったい何ができるのだろうかと。
Rumi Matsui
Centreline Associates
松浦茂之(三重県文化会館 副館長兼事業課長)
台風や体調不良による公演中止は何度も経験しているため、公演中止そのものは慣れっこなところもあるが、今回のコロナ騒動は「先が見えない」「状況が悪くなるばかり」という点で、我々劇場やアーティストにとって戦時中に匹敵する未曾有の惨事だ。この2カ月何をしているかと言えば、中止・返金・補償をひたすら繰り返しているだけ。3・11の後は「劇場よ、アーティストよ、立ち上がろう」と言えた。しかし3密の敵視に始まり、今では県外からのアーティスト招聘も禁止され、「劇場よ、今は立ち上がるな」といった有様だ。1つはっきり言えることは、こと私に関してはコンサートや演劇のライブが、仕事とはいえ日常に組み込まれていたことがどんなに幸せなことであったか、そして後ろ向きな事務ワークだけの日々がどんなに虚無なことかを、身をもって味わっている。出口の見えない長いトンネルの中にいるようだ。
文化会館 | 三重県総合文化センター
松本幸四郎(歌舞伎俳優)
「三月大歌舞伎」公演が、3度の初日延期があり、最終的には一度も幕を開けずに中止。YouTube配信のために無観客の歌舞伎座で二日間舞台を勤めました。
幕が閉まったとき、大役を歌舞伎座で演じられた幸せ。勤め終えた安堵感。しかし、それがすかさず空虚感。誰もいない観客席。この幕が次に開くのはいつかわからない。
不安しかないはずなのに、歌舞伎座を後にするとき、
「次にここに来るときは皆に再会して芝居を作り、満杯の観客席にするぞ」と心で叫びました。
芸能は、社会が豊かでゆとりあるときに必要でもありますが、不安や悲しみに沈んでいるときにこそ、必要とされ続けた歴史があります。
歌舞伎が皆様の心に必要とされる「夢」になることを目指しています。
舞台は役者、スタッフが集まり、作品を作り上げ、多くの人々に共有していただくものですが、今はそれができません。できないという現実をしっかりと受け止めたうえで、誰も集まらずに役者、スタッフと作品を作り上げ、集まらずに多くの人々が共有できる方法を打ち合わせています。これを実現することが、今の自分がすることだと信念を持って動いています。
世界に平和が訪れることを心から祈念しております。
松本幸四郎|松本幸四郎オフィシャルサイト
松本幸四郎オフィシャルブログ「残夢」
山田由梨(劇作家・演出家・俳優 / 贅沢貧乏)
4月中旬から予定していた城崎国際アートセンターでの滞在制作が実施見送りになりました。延期できるのかはわからない状況です。この滞在制作で旗揚げ10周年に向けた創作を始める予定でした。
幸い、私が主宰している贅沢貧乏はたまたま公演の予定がなかったので大きな被害はありませんでしたが、もし自分が何年もかけて構想した作品が直前で中止になったら、劇団の主催公演が中止になり借金を負っていたらと、あらゆる中止のニュースを自分の身に起きることとして想像しては身を切られるような思いになります。
5月末から6月に出演する予定の公演は、今オンライン稽古で読み合わせをしています。楽観的にやれるかもしれないということではなく、粛々と今やれることを未来のためにやっているのだという気持ちです。でも、やるからには本気で読み、コロナのことなんかつい忘れて、早く立ち稽古したいなあと当たり前に思ってしまうのです。
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(以上、五十音順)
※初出時より、本文の表現を一部変更しました。
構成 / 大滝知里、興野汐里、熊井玲