Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > LiSA「紅蓮華」が『鬼滅の刃』とともに愛され続ける理由は? 作品そのものに寄り添う歌詞などから考察

LiSA「紅蓮華」が『鬼滅の刃』とともに愛され続ける理由は? 作品そのものに寄り添う歌詞などから考察

音楽

ニュース

リアルサウンド

 LiSAが歌うTVアニメ『鬼滅の刃』(TOKYO MXほか)のOPテーマ「紅蓮華」がロングヒットを記録している。配信リリースから1年以上経ったにもかかわらず、アニメ最終回の放送日から半年以上経ったにもかかわらず、だ。

(関連:LiSA、紅白初出場までの10年を辿るーーアニメ音楽とポップスシーンを繋ぐ“ロックヒロイン”の軌跡

 音源の売上やストリーミングでの再生数、SNSでのユーザーの反応などを指標としたBillboard JAPANのアニメソングチャート“Billboard JAPAN Hot Animation”(5月11日付/4月27日~5月3日集計)で、「紅蓮華」は通算19度目の首位に輝いた。19回も首位を獲得するのは史上初の快挙で、これに続くのは、18回を記録したDAOKO×米津玄師の「打上花火」(映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』主題歌)、そして17回を記録したRADWIMPSの「前前前世」(映画『君の名は。』主題歌)とのこと。つまり「紅蓮華」は、「打上花火」や「前前前世」に並ぶ規模のヒットソングになったといって差し支えないだろう。

 こういった類のチャートに一度ランクインしても、ピークタイムを過ぎたあとはゆるやかに下降していくケースがほとんどで、だからこそリリースやメディア出演のタイミングを調整し、ピークタイムを複数回設けることがロングヒットの秘訣だと言われている。「紅蓮華」の場合、ピークタイムと呼べそうなタイミングが5回あった。

①2019年4月22日:配信リリース
②2019年5月31日:YouTubeでMVを公開
③2019年7月3日:CDシングルのリリース
④2019年10月21日:「紅蓮華」を含むLiSAの全楽曲のストリーミング配信を開始
⑤2019年11月14日~12月31日:『第70回NHK紅白歌合戦』への出演を発表~『紅白』をはじめとした年末放送の音楽番組に複数出演

 特に④、⑤は、LiSAというアーティストやアニソンに精通していないリスナー層を取り込むきっかけとなったのではないだろうか。それを踏まえたうえでチャートの推移を見てみると、興味深いポイントが2点ある。ひとつは③-④間。アニメ『鬼滅の刃』の最終回が放送されたのは2019年9月28日(放送局ごとに多少タイムラグがあるが)。それを境にランクを落とす可能性も考えられたが、そうはならず、「紅蓮華」は上位に留まっていた。もうひとつは⑤以降。今年に入り、音楽番組出演による年末フィーバー状態が終わってからも、「紅蓮華」の勢いは衰えることがなかった。

 アニメが終了してからも動き続けていた『鬼滅の刃』関連のトピックといえば、原作となる漫画の連載である。漫画『鬼滅の刃』は『週刊少年ジャンプ』に連載中の作品で、最新話が同誌に掲載されるほか、2~3カ月周期で単行本が発売されている。年末年始の長期休暇や昨今の外出自粛生活を機に、既刊を一気読みしたという人もおそらく少なくはないだろう。また、現在、物語の展開が「最終話に近いのでは?」といった読者の憶測を呼んでおり、さらなる盛り上がりを見せているところだ。

 「紅蓮華」はアニメのOPテーマであり、言ってしまえば漫画とは直接関係がない。それにもかかわらず、漫画の展開とともに曲が愛され続けているのは、「紅蓮華」が(アニメのみならず、漫画も含めた)『鬼滅の刃』作品群に寄り添った楽曲である証といえるだろう。

 『鬼滅の刃』には、人を食らう「鬼」と化した人間と、鬼を退治する「鬼殺隊」側の人間が登場する。鬼になった者にも、鬼殺隊になった者にも、その者特有の“今に至る背景”がある。ほとんどのキャラクターが過酷な過去を持っている。例えば、主人公の少年・竈門炭治郎は鬼殺隊に所属する人物。彼が旅に出るまでには、鬼に家族を皆殺しにされ、唯一生き残った妹・禰󠄀豆子は鬼と化してしまい――という経緯があった。

 過酷な過去を背負いながら、ときには倒れていく仲間の屍を越えながら、『鬼滅の刃』のキャラクターたちは戦いを続けている。つらい経験を闘志に変えて前を向いている。『紅蓮華』のモチーフとなっている蓮とは、泥から出てきても汚れることがなく、綺麗な花を咲かせることのできる植物。その佇まいを感じさせるフレーズの数々が、『鬼滅の刃』の世界で生きる彼ら彼女らを彷彿とさせるわけだ。

 「紅蓮華」の歌詞を書いたのはLiSA自身。LiSAの楽曲制作に携わるクリエイターは多数いるが、彼女自身もまた優れたソングライターである。アーティストとしての自身の物語を直に投影させながらも“作品に寄り添う”ことに重きを置いた言葉選びに定評があるのだ。そういう意味で「紅蓮華」における最も象徴的なエピソードは、1番サビの歌詞変更。「紅蓮華」は一部の歌詞がTVアニメバージョンとフルサイズで異なっているのだが、それがキャラクターの心情を配慮した結果であることを彼女はブログで明かしている。

 ソングライティングはしっかり実を結び、SNSでは「原作を読んでから改めて聴いたら感動した」という声が続出。さらにそこから発展させ、アニメでは放送されなかった2番の歌詞に触れながら「『紅蓮華』はあのキャラクターの歌なのでは」「いや、あのキャラクターのことを歌っているようにも聴こえる」というふうに、考えを巡らせているファンも少なくはないようだ。

 そして、この“「紅蓮華」は誰の歌か議論”に『鬼滅の刃』の作品性やファンの性格が深く関わっていると思われる。『鬼滅の刃』に登場するキャラクターは、端的に言うと個性が強い。まず、服装や髪型、口調、性格などに際立った特徴がある。加えて、その人物が生死の境をさまよった際には回想シーンを通じて過去のエピソードが語られ、彼(彼女)が鬼殺隊隊員(鬼)になった背景が明らかになる構成になっている。シンボリックな外見的要素から「かわいい」「かっこいい」「美しい」といった印象を抱き、内面的要素の深掘りを受けて、キャラクターに感情移入する。そういった段階を経て、自身の“推し”にあたるキャラクターに対して強い愛情を抱くようになる読者が多いようだ。このように各キャラクターに非常に熱量の高いファンがついていることが“「紅蓮華」は誰の歌か議論”に結びついているのではないだろうか。

 『鬼滅の刃』に寄り添うことで人気を集めていった「紅蓮華」だが、ユーザーの欲求は“聴きたい”だけでなく“歌いたい”にまで広がりつつある。フェーズ変化の兆候は昨年の時点から見られたが、今年に入ってからその傾向がより強くなってきているのだ。

 数値データに話を戻すと、まず“Billboard JAPAN Hot Animation”のカラオケ指標において、2019年12月16日付(12月2日~12月8日集計)から2020年4月13日付(3月30日~4月5日集計)までの間、「紅蓮華」はTOP10をキープしていた。なお、4月20日以降は、緊急事態宣言などに伴う外出自粛要請をふまえ、カラオケ指標の集計自体がストップしている。また、TikTokでは、歌唱(演奏)動画や、「紅蓮華」をBGMにダンスやイラストを披露する動画の投稿が増加。“TikTok週間楽曲ランキング”では、2020年2月末から3月初め(2020年2月24日~3月1日/3月2日~3月8日集計)に2週連続で首位を獲得し、最新チャートでも11位に位置づけている(2020年4月27日~5月3日集計)。

 さらに「紅蓮華」はプロのボーカリストをも惹きつけている。YouTubeではまふまふ、広瀬香美、ポルノグラフィティの岡野昭仁らがカバー動画を公開。さらに地上波の音楽番組では、X JAPANのToshIが『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)でカバーを披露。ファーストサマーウイカは『爆笑そっくりものまね紅白歌合戦スペシャル』(フジテレビ系)でモノマネを披露した。これら5件はいずれも2020年に入ってからの出来事である。

 2019年のヒットソングとされていた「紅蓮華」は、ここからさらに、その波の及ぶ範囲を広げていくことになるのだろうか。引き続き、動向を見守りたい。(蜂須賀ちなみ)