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Laura day romanceはインディロックとポップスの新たな架け橋に 『Farewell Your Town』で響かせる“拠り所となる歌”

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リアルサウンド

 ノスタルジックで大らかなメロディと、感情の機微を丁寧に描写した歌詞、どこか物憂げながらも木漏れ日のような光を放つ歌。昨年「sad number」「ランドリー」という2曲を聴いた時から、すっかりLaura day romanceの虜になってしまった。思い浮かべたのは、初期のスピッツやスーパーカー。インディロックへの敬意を最大限に表しながらも、エヴァーグリーンな歌詞とメロディによって、多くの人に届く“ポップス”としてのポテンシャルを備えているのが魅力的だ。

 そんなLaura day romanceが、1stアルバム『Farewell Your Town』を6月10日にリリースした。これまで以上にアコギやピアノの柔らかなサウンドが際立つ作品で、街を行き交う人々や移ろう季節を捉える眼差しがとても温かい。流行のスピードがますます加速していく昨今だが、Laura day romanceの歌とメロディは聴き手にいつだって寄り添い続けることだろう。今回は、メンバーの音楽に対する想いを探るべく4人にインタビューを行い、ルーツや制作秘話、物事を捉える感性、これから目指すものに至るまで、たっぷりと話を聞いた。(編集部)

(関連:Laura day romanceが鳴らす“拠り所となる歌”

「大衆的な部分とマニアックな部分を繋げられる音楽をやりたい」

ーーLaura day romance結成の経緯を教えてください。

鈴木迅(Gt/Cho/以下、鈴木):大学のサークルが同じで、僕から川島くんと井上さんを誘って始まりました。僕は高校の時に年上の人たちとオリジナルバンドをやっていたんですけど、それは乗っかる感じだったんで、ちゃんと自分から始めたのはLaura day romanceが初めてです。

川島健太朗(Vo/Gt/以下、川島):コピーバンドしかやったことがなくてオリジナルバンドをやってみたいと思っていたので、誘ってもらって快諾しましたね。

磯本雄太(Dr/以下、磯本):僕は川島たちとは違うサークルに所属していたんですが、ちょいちょい顔を出したりしていて。最初このバンドにはサポートとして呼ばれたんですけど、1年くらい活動して正式に加入しました。

ーーメンバーの皆さんのルーツは、それぞれどういった音楽にあるんでしょうか。

鈴木:J-POPを聴く家庭だったのに加えてThe Beatlesを買い与えられていたので、国内・国外の両者のポップス感覚みたいなものが作曲に出ていると思います。

川島:僕は小学校3~4年生の時にスピッツを好きになって、それが音楽とギターを始めたきっかけなので揺るがない影響ですね。尖っていたりフックがあるんだけど、最終的にポップなスピッツの感じは、自分のバンドでも影響受けているんだろうなと思います。

磯本:僕は60~70年代のソウルやR&Bを大学に入ってからよく聴いていて、その前はハードロックとかを聴いていたんです。Lauraって微妙に跳ねてる曲もあったりするんで、そういうところは活きているかなと思います。

井上花月(Vo/Tamb/以下、井上):みんな聴いてきたものはバラバラですが、揃うとそれぞれの経験が活きるんですよね。私も家族が音楽好きでいろいろ聴いていたので、その影響はあると思います。洋楽も聴いていたんですけど、私が反応していたのはユーミンですね。幼稚園の頃からカラオケでユーミンばっかり歌っていた思い出があります。あとは、小学生の頃にチャットモンチーが好きで、歌い方に憧れて真似してたのが要素としてあるなと最近思いました。チャットモンチーのような邦楽バンドの影響があることで、聴きやすくなっているような気がします。うまく歌うのが好きじゃなくて、技術を前に出すというよりは素直な声をそのまま出すように、レコーディングで意識しています。

ーーメンバーの影響源もバラバラで、国内外の様々なポップスの要素を持っている中で、Laura day romanceは2020年の音楽シーンにおいて、どんな存在だと思いますか。

鈴木:自分が狙ってやりたいのは、大衆的な部分とマニアックな部分を繋げられるような音楽です。いい音楽って音楽オタクみたいな人にも、子供とか老若男女にもウケる部分を兼ねていると思うんです。それこそスピッツは、音楽的な評価も受けつつ大衆にも届いて朝ドラの主題歌もやる、というような特別な立ち位置にいると思うので、そういうことが今後できたらいいなと思います。

ーー柔らかなメロディで歌を聴かせることに長けたバンドであることから、自分はインディロックであると同時に、ポップスでもあると思ってLaura day romanceを聴いています。名前が上がったスピッツにも通ずる部分が大いにあると思いますが、そういった意識は皆さんの中にありますか。

鈴木:いろんな人に届けたいというか、普遍的なものを作りたいという意識はあります。ニッチな音楽が好きなので、ごく少人数に向けて音楽をやる選択肢もあったと思うんですが、バンドを始めようってなったときに少人数に向けて作っても意味ないなと思ったところもあって。

井上:お茶の間に届くかもしれないって言われたときに「本当ですか?」とは思うけど、それが普遍的なものを届けられているという証拠なのかもしれないと思いました。自分もニッチな音楽を聴くんですけど、そういうものの良さをかいつまんでみんなが聴きやすいポップスにできているのであれば、それが迅くんが狙っているところだと思うし、やっぱり多くの人に届けられる音楽が作れているっていうのが嬉しいことだと感じます。

ーーそのためにソングライティングでこだわっているのはどういう部分なんでしょうか。

鈴木:歌メロを邪魔しないようにアレンジを組むっていうのはひとつあると思うんですけど、その線引きとして、ギリギリまでアレンジの面白さでせめぎ合うように持っていけたら、毒っぽくなるというか……聴いたことない感じだけど、耳障りではないものができるのかなと意識しています。

ーーこれまではエレキギターを豪快に鳴らす曲が多かったですが、『Farewell Your Town』は、アコースティックギターやピアノの柔らかいサウンド、寄り添うような温かなリズムが印象的な作品になりましたよね。そういった音作りにはどんなこだわりがありましたか。

鈴木:中村一義さんの『金字塔』をよく聴いていて、フォークから派生するバンドサウンドにしたいと思っていたんですよ。もともと今までの曲も自分がアコギから作り始めているので、日本のフォークソングっぽいものは軸にあったと思うんですけど、そのサウンドをもうちょいナチュラルかつオーガニックに聴かせたいというのをアルバムテーマに置いて、それに準じてアレンジを組んでいきました。

川島:アルバムのアコースティックギターはほとんど僕が弾いているんですけど、ずっとエレキを弾いていたのでアコギには苦手意識があって……。でも2~3年前にギブソンの良いアコギを買って、いつかちゃんとバンドで良い音で録りたいと思っていたのが今回大活躍してくれて。アルバムの核になったかなと思います。アコギって生楽器なので手元で全部調整しなきゃいけなくて大変でしたが、自分でも良い音で録れたと思います。

磯本:Lauraの曲って意外と面白いリズムというか、他のバンドの曲にはなかなかないパターンが多いんですよね。ドラムだけ聴くと「大丈夫かな?」って思うことはあるんですけど(笑)、歌メロやギターのフレーズと合わせて聴くとハマっているというか、むしろそれを後押しするようなものになっていて。リズムから見ても、ポップス色とかメロディを一番大事にしているバンドだと思うので、新しく曲を作るにしてもライブをするにしても邪魔しないように意識しています。

「今までと景色の見え方が変わった瞬間に『曲にできる』って思う」

ーー「架空の街」というアルバムコンセプトは、どんなきっかけで生まれたのでしょうか。

鈴木:シャムキャッツの『AFTER HOURS』とかはっぴいえんど『風街ろまん』とか、自分が今まで聴いてきたアルバムの中で、街というテーマはポピュラーというか伝統としてあったと思っています。アルバムというたくさんの曲が入れられる機会をもらって、どういうものが作りたいか考えた時に、好きだった作品のテーマを思い返したら「架空の街」とか「1つの場所で展開される何か」っていうのが頭の中にあって。自分の手持ちの中で組み合わせたらそれが成立すると思ったので、その方向でまとめました。

ーー例えば、銀杏の木を見て〈君〉を思い出したり、午後の空を見て退屈になったり。時間や風景、季節など、自分を取り巻くものに感情を重ねることで「情景」が描かれていると思いました。そうした歌詞の書き方はどんな感性や人生経験から来ていると思いますか。

井上:感情が景色に乗っているものがもともと好きで、そういうものが日常の中で一番グッとくるポイントのひとつだと思っているので、意識して書きました。架空の街の中で起きている日常の一つ一つを書いていきたくて。たぶん影響を受けているとしたら、今まで読んできた吉本ばななさんや江國香織さんの本で、優しい表現の中に「あぁ、わかる~」ってなるものがたくさん含まれている文章だと思っていて、優しい共感が曲に合ってると思うことが多いですね。あとは迅くんが書いた「girl friend」の歌詞で、〈自転車泥棒 二人乗り〉っていう2番のサビを聴いた時に、映画『オーバー・フェンス』でオダギリジョーさんと蒼井優さんが羽を撒きながら自転車を2人乗りしているシーンが浮かびました。私が書いた歌詞じゃないけどそれはすごくリンクしていて、歌うときも思い出したりしていましたね。

鈴木:自分が悲しい想いをしたときとかに、今まで見ていた景色の見え方が変わったり、生活している中で目に入るものが変わったりする経験があると思うんですけど、そういう瞬間に「あっ、曲にできる」って思うんです。なので自然にそういう歌詞が増えるんだと思います。アルバムのテーマ自体がそういう情景を必要とするというか、登場人物が共有するそれぞれの景色が必要な作品になると思っています。かっちゃん(井上)もそれは意識して書いてくれているんですけど、そういう部分が重要かつ自分の中で大事な場面なので、歌詞に反映されているんじゃないかなと。映画で会話の後にパッと別の景色が印象的に挟まれてたりするじゃないですか。例えば机の上に取り残されているコップみたいな、インサートが入ることによって景色の見え方が変わる。そういう歌詞表現ができたらいいなというのは考えています。

ーー具体的な場所を特定することなく、「街」「季節」といった誰もが日常的に感じている言葉を使うことで、聴く人を選ばない普遍的な歌になっていると思いますが、そういう音楽を鳴らしたいのはどうしてなのでしょうか。

井上:何も考えず聴いているだけで「なんか良い」っていうのが一番嬉しいかもと思っているんですけど、そういうときにスッと入ってくる言葉が「街」とか「季節」じゃないかなって。確かに私も迅くんも好きでよく使ってる言葉なんですけど(笑)。

鈴木:本当に。「街」も「季節」も抑えてこの数です(笑)。

井上:どの季節にも、どの街にも当てはまるようにしているし、トゲトゲしていなくて丸いイメージだから、どんな状況でも受け入れられるといいなと思って使っています。すごくパーソナルなことを普遍的な詞にしようとしている部分もあるんですけど、後から見返して「結局個人的なことでしかないな」と思うこともあるので、ちゃんと普遍的な歌と言ってもらえるのは嬉しいですね。

鈴木:音楽って部屋で聴くときもあるけど、自分は帰り道だったり移動中とかのタイミングで聴くことが多くて。自分の中で重要な作品って、家で聴いてわからなくても、外出時に「あっ、そういうことだったんだ」ってわかる歌詞とかが多くて。そういう感覚を抱いてほしいっていうのは思いますね。どこかで聴いてくれる人と共鳴する部分があれば、その人にとって特別な作品になると思うし、そう思ってくれる人が多いほど音楽を作る者としては嬉しいので。

ーー忙しない現代社会を生きていると、街中のちょっとした変化を見落としがちだったり、安心できる場所をなかなか見つけられなかったりするなとつくづく思います。しかし、いつまでも変わらないもの、巡り巡るものについて歌うことで、Laura day romanceの音楽自体が聴き手にとっての拠り所になるんじゃないかと感じました。そういう音楽を作りたいという想いや、そう感じられる音楽が必要であるという想いは、実際に感じていますか。

井上:巡り巡るもの、変わらないものというのは今回のアルバムのテーマとしてあって。歌詞ともリンクしているし、聴いた人がそう思ってくれるのが、このアルバムを作った理由だと思います。いろんな人がいろんなことを思う中で、拠り所になる音楽は必要ですよね。特に今みたいな(コロナ禍になった)ときには……作っていたときはこんなことになるなんて思わなかったけれど、そういう拠り所として機能できるアルバムになるんだったらめちゃくちゃ嬉しいです。

川島:僕もこのアルバム作り終えてこういう状況になって、「架空の街」っていうコンセプトがよくも悪くも現状のみんなの心に引っかかるのかなと思っていて。それはタイミングでしかないし考えて作ってはいなかったけど、リリースしてみんながどう捉えるのか不安でもあり楽しみでもありますね。

磯本:僕がこのアルバムを作っているときに、僕なりの理想の生活というか暮らしを思い描いていたんですよ。自分がこうしたいなと思う暮らしはみんなあって、でもなかなかそれにはたどり着かないじゃないですか。今回のアルバムは、僕がそうだったように、いつかこうしてみたいなぁっていう生活とか暮らしを想いながら聴いてほしいなって思います。ひとりひとりに固有の理想があると思うので、それになるべく寄り添うことができる音楽とかアルバムを作っていきたいですね。

鈴木:自分が好きなバンドはいろいろなことをやるバンドが多いんですけど、くるりとか、中心に普遍的な歌がある音楽に結局戻ってくるんですよね。自分の中でここが柱だと思っているからなんですけど、今ってサイクルが速くて新しい音楽がバンバン出てくるし、話題になるものもガッて出てきてパッと消えちゃうことも多い気がしていて。自分がそういうふうに消費されたいわけではなくて、戻ってこれるような音楽が必要だと思うからこそ、自分たちがそういう立ち位置になれたらいいなと思います。
(信太卓実)