琴音、1st アルバム『キョウソウカ』で示した“信念を持って歌っていく決意” 「心を痛めている誰かに寄り添いたい」
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シンガーソングライターの琴音が1st アルバム『キョウソウカ』を6月24日にリリースした。現役高校生シンガーとして人気のオーディション番組で勝ち抜き、話題を集めた彼女だが、今作はそんな高校時代の音楽活動を総括する1枚でもあるという。まだ10代とは思えないほどの落ち着いた佇まいと確かな歌唱力で多くの人々を魅了している彼女だが、このアルバムでは弾丸のような言葉を放つ力強いアップナンバー「いざ、さぁ」や、英詞のムーディなラブバラード「The moon is beautiful」、キュートなロックテイストで伸びやかな歌声を発揮する「きっと愛だ」など、新たなテイストにも果敢に挑戦している印象。そして自身が作詞作曲を手がけた表題曲「キョウソウカ」では喪失を癒やす歌の力を放ち、幅広さも深みも存分に感じさせるバラエティ豊かな仕上がりに。今回はアルバムに込めた想いと共に、あらためて彼女の“歌を届ける者”としてのスタンスを語ってもらった。(上野三樹)
(関連:琴音、信念を持って歌っていく決意)
「歌いたい歌にちゃんと辿り着けることが一番」
――1st アルバム『キョウソウカ』は琴音さんの高校時代の音楽活動の集大成的な意味合いもあるということですが。ご自身の高校時代と、その中での制作を振り返っていかがですか。
琴音:学校もありますし、結構忙しかったです(笑)。曲作りにおいては、プロデューサーの石崎(光)さんが私のやりたいと言ったことに力を貸してくださるんですけど、歌詞では私が勉強不足なところも多いのである意味ちゃんとシビアに向き合ってくださったので、なかなかOKが出なくて……。難しかったところもたくさんありました。今まで作ってきた曲たちの集大成であることもそうですし、初めてのフルアルバムということで、いろんな挑戦をしていたので実りある時間を過ごせたかなと思います。
――琴音さんが中学生で曲作りを始めてから、なかなか速いペースでいろんなことが進んでいきましたね。
琴音:そうですね。やっぱり自分の中で急にバッと変わった部分があったので、そのペースにまだ乗り切れてない部分があるのかもしれないです。
――急に変わったというのはやはりテレビ番組に出演し始めてからの反響の大きさだったり?
琴音:はい。そこからメジャーで活動をし始めるのも結構早かったので。とりあえずやるしかないなという気持ちでやっています。
――アルバムには1st シングル曲「今」と2nd シングル曲「白く塗りつぶせ」も収録されていますが、メジャーデビュー以降、ファンの方の反響も感じながら、また新曲を制作するという流れだったんですか。
琴音:そうですね。自分の悪いところでもあるんですけど、曲をどんどん生み出せるタイプではないので、時間がかかるんですよ。なのでライブをやったり、シングルのプロモーションだったりの合間にまた次の曲作りをするというやり方がほとんどだったと思います。
――「白く塗りつぶせ」では〈そんなあなたへ〉という歌詞が繰り返し出てくるところがすごく琴音さんらしいなと思いました。自分の心情よりも、「あなた」のことを想う歌。
琴音:やっぱり曲を作る時に自分が最近どんなことを思っただろうと考えることがあるんですけど、その中で友達や家族や、全く繫がりのない人もそうですが、誰かのことが浮かんでくることが結構あります。なので必然的に誰かのことを題材にした、誰かに向けた歌というのが生まれやすいんだと思います。
――新曲もいろんなタイプの曲が入っていて、琴音さんの多くの挑戦を感じさせるアルバムでもありますよね。例えば「The moon is beautiful」はムーディーなサウンドが新鮮だったりして。
琴音:これはラブソングを書いてみようという挑戦だったんですけど、全編英語詞の曲をオリジナルで作ってみたいという気持ちもあって。トランスレーションの方にもお願いして、自分が英語で書いたものを見ていただいて、文法とか直していただいたり、歌う段階でも発音を念入りに教えていただいたり。サウンドにおいても大人な感じの、バーで歌ってるみたいな雰囲気にしてもらいたい、ジャズっぽい感じも入れて欲しいんですとお願いしたら、石崎さんに『ジャズっぽいってどういう感じ?』って聞かれてまた話し合って。たぶん私が思ってるジャズっぽさよりも、プロデューサーさんはもっといろんなジャズっぽさを知っているので、そのジャズっぽさを探りながら、最終的に行き着いたのがこれなんですけど。歌声もリヴァーブがかかって、バーみたいなところで歌っているようなライブ感のある仕上がりになりました。とても満足しています。
――カバー曲「明日への手紙」に関しては、琴音さんにとってどんな想い入れのある曲ですか。
琴音:テレビ番組『音楽チャンプ』に出演させていただいた時に、視聴者の方からの反響が特に大きかった曲です。今回あらためてカバーさせていただくことになってレコーディングをしてる時に、出演前に毎日カラオケボックスに通ってこの曲を練習したことを思い出しました。その時の歌いグセじゃないですけど、こういう風に歌おうと意識してたなとかが蘇ってきて。懐かしいなとか、辛かったなとか、思い出すと感慨深くて泣きそうになりながらレコーディングをしました。サウンド面ではアルバムに収録する上でちょっと違う部分を出してみようと、空気感を大事にしたアレンジをしたり、「明日への手紙」が本来持っている温かさに、コーラスで神々しさを加えられたらと思いました。心を浄化するような想いでいろんな声を重ねたのでぜひ聴いてもらいたいです。
――テレビ番組で琴音さんが歌われる前の気迫というか緊張感って独特で、人にどう見られるかよりも、その歌とどう向き合うか、に対する真摯さを感じました。
琴音:他の方はもちろん、これを機に大きなチャンスを掴みたいっていう気持ちもあったと思うんです。でも、自分はもう、それよりもっとこじんまりとした目標というか、ライブをしてもお客さんが少なかったからもっと知名度を上げて、少しでもお客さんを増やしたいという気持ちだったんです。それに加えて自分がどういうレベルのところに今いるのかを知りたかったので、自分が歌いたい歌に本番でちゃんと辿り着けるようにということが一番でした。ただ、回数を重ねるごとに、ここで負けたらお客さんも離れちゃうのかなとか、そういう焦りも若干ありましたね。このアルバムを機に「明日への手紙」のカバーをまたいろんな方に聴いていただけたら嬉しいです。
――そしてラストは「昨日より」という等身大の可愛らしいラブソングで締めくくられています。
琴音:基本的に私は先に曲を作ってから歌詞を書くんですけど、曲を作った段階で、素朴というか、ほのぼのとした雰囲気だったので内容も可愛らしい感じにしたかったんです。大人な感じよりも私自身の年代に合ったラブソングにできて、こういう雰囲気の曲でアルバムが終わるのはいいなと思いました。
――ちなみに今回の全12曲の中で、一番初期に作った曲は?
琴音:一番最初に作ったのは「キョウソウカ」なんです。アルバムに向けた制作の前から、高校2年生くらいの時に個人的に作っていた曲で。アルバムのタイトルにもなっていますが、自分の中でも想い入れのある大事な1曲です。
――「キョウソウカ」は〈それでも私は歌うよ/少しだけでも伝えたくて〉という歌詞もあったりと、先ほどの「白く塗りつぶせ」のお話にも通じますけど、琴音さんが歌を人に届ける上でのスタンスが明確に書かれていますよね。それを高2で作ったのはすごいなと思うんですけど、どんなきっかけだったんですか。
琴音:もともと私がひとりで音楽活動をしていた時にお世話になっていたご夫婦のミュージシャンがいたのですが、旦那さんが急病で亡くなってしまったんです。私もお葬式に行かせていただいたりしたんですけど、その時に、自分は部外者だし子供だし、かけられる言葉も見つからなくて、何もできない無力感を感じてしまって。だからといって何もしないのは嫌なので、何かしたいと思った時にこの曲ができました。当時も歌詞を書いたんですけど、それには結局自分自身が納得いかなくて。今回アルバムに「キョウソウカ」を入れることは迷ったんですけど。入れると決めてから歌詞を再考して最終的にこの形になりました。ちゃんと伝えられるものになったと思います。
〈それでも私は歌うよ〉は軸となる想い
――どうしてこのアルバムに「キョウソウカ」を収録するか迷ったんですか。
琴音:最初は悩みましたね……。やっぱり人の死はすごくセンシティブなテーマでもあるし、少し間違えたら悪く捉えられてしまうもの。私自身、この歌ができたことはいいとしても、それを売り物にしたりするのはどうなんだろうという気持ちはずっとあって。入れない方がいいんじゃないかとずっと思っていたんですけど、最終的に私の主観だけでなく家族や周りのスタッフさんたちなどいろんな人の話を聞いてみたときに、確かに売り物にはなるけれど、私がどういうことを大事にしているかとか、こういうことを伝えたいんだということが、多くの人に届くのは嬉しいことだと思うよって言われて。なのでこの曲がいろんな人に届けばいいなと思いますし、お世話になった方にも届くといいなと思います。
――〈私は無力で〉と心を痛める時もあれば、それでも周りの人を理解したいという気持ちも強いんだなと感じます。
琴音:そうですね。一番は心を痛めている誰かに寄り添いたいという気持ちがあります。できれば曲を聴いて少し前向きになったり、何かしらの支えに少しでもなれたら、と。
――琴音さんはもともとそういうことを考えながら生きてきたんですか。それとも、歌を通じて自分の中にそういう気持ちがあることを自覚したんですか。
琴音:どうなんですかね。「キョウソウカ」は悲しい曲ですけど、誰かに感謝を伝えたり、誰かを励ましたりする曲をメインに作ってきた気がします。そういう気持ちは作曲を始めた最初の段階から持っていたのかもしれないですね。私、尊敬するアーティストさんはいるんですけど、こういう人になりたいみたいな感情が生まれたことは今までなくて。自分が歌ったり作った曲が何かその人の中に取り込んでもらえて、元気になったり何かの手助けになってもらえたらいいなっていう気持ちだけなんです。
――琴音さんのそうした想いをひしひしと感じる1枚なんですが、この『キョウソウカ』というタイトルは、いろんな漢字をイメージすることで異なる意味を持つことができますよね。
琴音:私としてはこの曲を作った当初は、ちょっとネガティブな気持ちで。旦那さんを亡くされた奥さんの悲しみを想ってできた曲なんです。でも自分は何もできなくてふさぎこんでいる時だったので、どうせこの曲を作ってもちゃんと受け取ってもらえるかはわからない、音楽なんてどうせ娯楽なんだからと、腐ったような考えがありました。そんな時に思いついたのはーークラシックで狂想曲ってあるじゃないですか。ひとつの出来事に心を乱されている自分にぴったりだなと感じて『キョウソウカ』というタイトルにしたんです。それは自分自身に対する皮肉でもあり、曲そのものと聴いてくれる人に対する皮肉としても、ある意味ちょうどいいかなと思って付けたんですけど。でも、周りの人は『キョウソウカ』のカは“花”じゃないの? と捉えてくださる方もいたり、私が作った時の気持ちとは真逆でも、優しくて温かい内容の歌として聴いてくださる方もいるんだなと。なのであえてカタカナのタイトルにしたことで、そういう個々の捉え方に任せられるのは、すごく良いことだなと思いました。同じような悲しい経験をされている方に届いたらいいなとも思うんですけど、何より今は、旦那さんを亡くされた奥さんに届けばいいと思って、気持ちの面ではだいぶ楽になりました。
――〈それでも私は歌うよ〉という、その覚悟のような歌詞を今、書けた理由は?
琴音:〈それでも私は歌うよ〉ってすごくパーソナルな感覚じゃないですか。私は曲を作って歌うことを主として生きてますけど、聴いてくれる人のほとんどは、身近にいる人を励ますために歌うことってあんまりないですよね。そう思うと、あんまり大衆的じゃないからどうなんだろうって制作過程でもスタッフさんにも言われたりして考えたんですけど。でもこの想いは私の軸となる部分なので、変えたくないなと思って。最終的に、この曲に関しては、そもそもひとりの人を励ましたくて作った曲だし、大衆的であるかどうかよりも、私はこうするよ、という気持ちを大事にした書き方でいいんじゃない?って言ってもらえて。この歌詞が最終的に書けたのは、私にとってすごくありがたいこと。私の気持ちを尊重してもらえてすごく嬉しかったですし、制作面でも自分が一歩、成長できたのかなと。今後、ライブで歌う機会があれば、大事に届けていけたらいいなと思います。
――琴音さんのパーソナルな想いから生み出された「キョウソウカ」ですが〈何も出来ない 何も言えない/当たり前の日々がこんなに脆いとは〉という部分は、コロナ禍の今の世界ですごくリアリティをもって響いてくるフレーズでもありますね。
琴音:そうですね。そこは本当に、今こういう状況になるとは考えもしてなかったことですけど。
――他者を理解したい、その痛みすら感じたい、という目線で歌われる歌は、今とても必要とされていると思います。不安定な時代ではありますが、これからどんな活動をしていきたいですか。
琴音:お正月に今年の目標として「多彩」という言葉を掲げたんですけど。これから先のことを考えるとたぶん、気が遠くなっちゃうと思うんで、今年いっぱいくらいまではその目標通りに「多彩」な曲を作ったり、音楽活動でもプライベートでもいろんな経験をしてみたいなという気持ちです。
――あまり周りに流されずに揺るぎなく歩みを進めていくタイプですよね。
琴音:まさにそうだと思います。軸がブレると体調を崩したり精神的に不安定になっちゃうタイプなので、だからこそ我が強いと思います。今までちょっとブレると納得行かない出来事が起こったりしてきたし、今回のアルバム制作では特に『私はちゃんと自分の軸を持っていていいんだな』ということに気づけたので、これからより自信を持って軸をぶらさずにやっていける気がしています。
(上野三樹)