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ぴあ 総合TOP > 木村拓哉、2020年以降も揺るがないトップスターの座 昨今の“キムタク旋風”を解説

木村拓哉、2020年以降も揺るがないトップスターの座 昨今の“キムタク旋風”を解説

音楽

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リアルサウンド

 筆者のように芸能関連のライターの仕事をしていると、「今までどんな有名人に会ったことがあるのか」とよく尋ねられる。そのなかでも圧倒的に多かった問いは「キムタクは?」である。

(関連:マクドナルドCM『ちょいマック 登場「迷う」篇』はこちら

 木村拓哉――。1987年にジャニーズ事務所へ入所し、男性アイドルグループ・SMAPの一員としてデビュー以降、数々のヒット曲をリリースし、また名作のドラマや映画にも出演。2016年末のSMAP解散後はソロで活動。世代を問わずその名が知られる、日本の芸能史に残るスーパースターである。

 筆者が初めて「実物のキムタク」を見たのは、2017年に京都で催された映画『無限の住人』のイベント取材時だ。これまで数多くの著名人にインタビューなどをおこなってきたが、木村拓哉に関しては「本物だ!」という、これまで仕事では抱いたことがなかった感激がわき上がった。彼はそれくらい特別な存在だ。

 1990年代から2010年代にわたる木村拓哉のトップスターの座は、2020年代に入っても揺るがない。そればかりか、50歳が近づきながらも変わらぬ輝きと新たな魅力の両方を放っている。今回は彼の過去の仕事にも触れながら、「2020年の木村拓哉」について論じていきたい。

●「何をやってもキムタク」という強み
 2020年に入って「これぞキムタク感」があったのが、マクドナルドの新CMだ。CMのなかで木村はビッグマックをほおばっているのだが、そのバーガーの持ち方がネットニュースを中心に注目を浴びた。

 一般的なのは親指でバンズの底部を支え、他の指で上部のバンズをつかみ、手を「C」のようにしてバーガーを持つ形。だが木村は、中指と薬指の間にビッグマックを挟んで食べていた。その独特な持ち方から「キムタク持ち」と称された。

 そもそも「ビッグマックの持ち方」という、些細な仕草までクローズアップされること自体、スターたる所以だ。後続の「マックシェイクの持ち方も独特」なんかは言いがかりに近い(笑)。ただ、「他とは違う」というその特異性がいかにもキムタクらしい。「キムタク持ち」に関連した記事を読むと、少なくとも20代の頃からこの持ち方だったようだ。木村の良さとしてまず挙げたいのは、たとえ人とは違っていても、自分がこうだと思ったことはやりきり、さらにその違いを魅力的に感じさせるところである。

 木村語録が収録された書籍『キムタクバイブル 木村拓哉のキーワードを読み解く!』(1997年)には、「“カッコイイ”も“ダサイ”も自分のなかにあるんだよね。周りが見たらダサイことでも、本人に使命感や責任感があったら、それはカッコイイ。そいつの本気がカッコイイんだよ」という1996年2月の発言が掲載されている。

 木村はかつて茶髪、ロン毛、ネルシャツ、ジーンズというアメカジ&サーファー系のファッションを流行させた。テレビに出演する際も、男性アイドルたちが着るようないわゆる用意された衣装ではなく、私服感があり、若者が真似できそうなラフな格好をしていた。そもそも、古着で歌番組やバラエティ番組に出るアイドルなんて、それまで見たことも聞いたこともなかった。茶髪にロン毛というヘアスタイルも当時のアイドルとしては異質。当時の上の世代からすれば、木村の見た目はチャラついた若者のイメージがあっただろうし、すべてにおいて好意的に受け取られていたわけではなかった記憶がある。

 ただ、周囲から何かを言われても、あくまで自分の価値観や世界観を大切にして、それを貫くことで「木村拓哉」というオリジナルブランドを築いていった。そういえばドラマ『CHANGE』で総理大臣を演じた際、このような台詞があった。

「相手と自分は違うんだということに気づく。同じ人間だと思っているから、ちょっと否定されただけでムカついたり、誰かが一人別行動をとったら、『なんだあいつ』ってそこから喧嘩やいじめが始まったりする。でも同じ人間なんていない。みんな、考え方も事情も違う人間。だから僕は子どもたちに、自分と相手は違うんだってことを理解してほしい。その上で、どういう言葉を使えば自分の気持ちが相手に伝わるのか、どうすれば相手を説得できるのか、(子どもたちに)そこを考えろと言ってきました」

 筆者はオンエア当時、木村がこの台詞を書いたんじゃないかと感じたほど、その言葉に彼自身を重ねた。SMAPの「世界に一つだけの花」(2002年)然り、「誰かと違うから変だ」ではなく、オンリーワンであることの貴重さを木村はいつの時代でも伝えてきたのだ。

 2019年1月2日にオンエアされた『ニンゲン観察バラエティ モニタリング』(TBS系)に出演したとき、木村は「何をやってもキムタクって言われる。しょうがないよね」とコメントしている。自嘲的な意味もこめられたコメントだが、人や作品を見て何でもかんでも「○○っぽい」と引用元があるかのように評価する人が多いなか、「何をやってもキムタク」という唯一無二をあらわす言われ方は、実は何よりも強みなのではないだろうか。

●娘たちがスクープするキムタクのパパ感
 「2020年の木村拓哉」を象徴する大きな出来事は、何といっても長女のCocomi、次女のKōki,が、インスタなどを通じて父親である木村のプライベートを明かすようになったことだろう。

 ふたりは自分たちのアカウントで、木村に関する“スクープ”を連発。なかでも木村を「トト」と呼んでいることは、語感の妙も相まってか大きな反響をあつめた。さらにCocomi、Kōki,は理想の結婚相手について「トトよりかっこいい人」と発言。フォロワーは「キムタクよりかっこいい人なんていない!」と苦笑いを込めてツッコミをあびせた。

 Cocomi、Kōki,の無邪気な投稿の数々は、分かってはいたけれど、木村が年頃の娘を持つひとりの父親であることをあらためて認識させられた。6月21日のインスタライブでふたりは、木村に直してほしいことについて質問を受け、エピソードとともに木村にやめてほしいことを明かした。「ゴキブリをつかんで娘を追いかける」なんて、面倒くさいお父さんがやるようなことを、あのキムタクもやっているなんて……! 娘たちに好かれ、しかし時にはちょっと煙たがられるような、キムタクの新たなリアルを感じることができる。

 また、木村自身も中国のWeiboに続き、ふたつめのSNSアカウントとなるインスタを2020年5月に開設。こちらでも、顔文字を頻繁に使用するなど、ごく一般的な40代男性に近い文章スタイルで親近感を抱かせている。

●バナナマン・設楽が驚いたキムタクの心づかい
 映画、ドラマに出演する際、スタッフなど関係者への配慮が深いことでも知られている木村。木村の作品づくりへの真摯な姿勢と、一緒に取り組む仲間たちへの心づかいに関心が向いたのも、「2020年の木村拓哉」の特徴のひとつだ。

 2月17日、お笑いコンビ・バナナマンの設楽統はバラエティ番組『バナナマンのドライブスリー』(テレビ朝日)の公式Twitterで、ドラマ『MR.BRAIN』(2009年)への出演時、木村から受け取った差し入れが「エゲツなかった」ということを明かした。大勢の関係者に対し、高級焼肉店・叙々苑の弁当や人気ブランド・ヒステリックグラマーのシリアルナンバー入りTシャツなどを配ったのだという。

 ほかにも今年、ドラマ『BG~身辺警護人~』(テレビ朝日系)の撮影現場で、マクドナルドのハンバーガーやサラダなどを種類豊富に用意し、スタッフ全員分を差し入れ。その模様は木村のWeiboに掲載され、机いっぱいに埋め尽くされた各メニューの写真が話題となった。

 作品に出演する多くの役者は、飲食の差し入れをして現場のスタッフや共演者を労う。それ自体は決して珍しいことではない。でも芸能界をよく知るバナナマン・設楽をして「エゲつない」とびっくりさせるくらいなので、木村のおもてなしは超越したものがあるのだろう。

 木村はドラマ『ロングバケーション』(1996年)の撮影時、「みなさんは僕が主役と言ってくれるけど、僕はドラマを作る全員の共同作業だと考えています」(『キムタクバイブル 木村拓哉のキーワードを読み解く!』)と話している。

 書籍『SMAP×SMAP COMPLETE BOOK 月間スマスマ新聞VOL.2~RED~』(2012年)でも、「メークさんや美術さんとちょっとコミュニケーションをとれるところにいたい」「何を食うか、何をしゃべるか、何を歌うか。考えてくれるのもスタッフだし。スタッフがいて、初めて成り立っていることだから」と、各現場のスタッフのおかげで今の自分があることを強調している。

 どの作品でも常に主役級をつとめる木村。でも、どれだけ自分が注目を集めようが、「主役は作品に関わる全員である」という信念をもとに長年活動してきた。「キムタクのためなら」と意気に感じる関係者もきっと多いことだろう。木村の評価の高さは、そういったところに結びついている。

●姿勢の良さでキャラクター像を表現した『教場』
 「2020年の木村拓哉」を語る上で絶対に外してはいけないドラマが、1月にオンエアされた『教場』である。警察学校を舞台に、木村演じる冷酷無比な教官・風間公親が、厳格なルールや監視下を敷き、生徒たちをふるいにかけていく物語だ。

 木村は、若々しく躍動する役のイメージが強い。『HERO』(2001年)の検察官・久利生公平のように、常識にとらわれず、見た目も言動も型破りな人物役が確かによく似合うし、そういった痛快なキャラクターを木村の真骨頂として見る傾向がある。

 しかし木村は、影のある役を担ったときの作り込みや没入度が素晴らしい。映画『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』(2009年)の他人の痛みを身代わりとなって引き受ける特殊能力者・シタオ、『無限の住人』(2017年)の死にたくても死ねない伝説の人斬り・万次など、心身ともに傷を背負いこんで孤独のなかをさまよう男を味わい深く表現できる俳優だ。

 また、自分で自分にプレッシャーをかけて、追い詰めながら、こちらの想像をはるかにこえる芝居を見せる部分も彼のすごさ。『CHANGE』の総理大臣・朝倉啓太役は特に圧巻だった。最終回スペシャルでラストの22分間を全国生中継。ワンカットの長台詞で締めくくるという離れ業をやってのけた。現代のドラマでは前代未聞ともいえるこのチャレンジ。視聴者としても緊張感が伝わってきた。そもそも22分もの間、画面を持たせることなんて木村以外に誰ができるだろうか。とにかく尋常ではない芝居だった。

 『教場』もそれらと並んで語りたい、木村の芝居の妙味が味わえた。木村自身が提案したという白髪のビジュアルは、これまでとは違ったキムタク像が漂っていて驚きの声が続々とあがった。さらに色付き眼鏡をかけて、顔色もほとんど変えない。さらに他人の横やりをはさませない淡々とした喋り。いかにも気難しくてシビアな雰囲気を入念に作り込んだ。

 何より良かったのが、木村の姿勢だ。ピンと立てた背筋、芯をしっかり通した首。その姿勢こそが風間の厳格さを物語っていた。2019年12月に発行された雑誌『AERA』でのインタビュー記事で、木村は「風間だけが無機質な静物のように存在している感じのイメージは伝えたかった」と話しているが、その不気味な静けさをあらわしていたのはあの姿勢であったと筆者は考えている。

 先述したように木村は若々しい役が多かった。でもこの『教場』を機に、実際の年齢相応の、腹に一物を抱えた中年役が増えていきそうな予感がしている。

 2020年になってもトピックスが絶えない木村拓哉。美空ひばり、石原裕次郎、吉永小百合、山口百恵、松田優作らのように語り続けられるであろう大スターの、さらなる進化を期待したい。(田辺ユウキ)