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『半沢直樹 特別総集編』堺雅人が2つの顔を持つ復讐者に 魅力が凝縮された対決シーンの数々

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 日本中を熱狂させた「倍返し」から7年。コロナ禍による撮影中断を経て、続編となる『半沢直樹』(TBS系、2020年7月19日~)が満を持してスタートする。『半沢直樹 特別総集編』では、新章開始を前に2013年放送の10話を前・後編に凝縮して届ける。本稿では『特別総集編』を振り返りながら、新章に受け継がれる半沢直樹イズムを探ってみたい。

参考:古田新太、朝ドラ『エール』廿日市役で発揮する俯瞰力 『半沢直樹』新シーズンにも期待

 前編は、西大阪スチールへの融資をめぐる回収話が中心。半沢直樹(堺雅人)は東京中央銀行大阪西支店の融資課長として、支店長の浅野匡(石丸幹二)に命じられて西大阪スチール社長の東田満(宇梶剛士)に5億円を無担保で融資する。しかし、西大阪スチールは粉飾決算によって倒産し、全額が回収不能となってしまう。半沢に責任を転嫁する浅野や人事部の小木曽忠生(緋田康人)たちに対して、半沢は5億円を回収すると宣言。東田の隠し財産をめぐって、差し押さえを狙う国税局の黒崎駿一(片岡愛之助)とのマッチレースが始まった。

 1992年に旧産業中央銀行に入行した半沢は、いわゆるバブル入行組だ。同期には本部融資課所属の情報通、渡真利忍(及川光博)や近藤直弼(滝藤賢一)がいる。バンカーとしての半沢のキャリアはバブル崩壊後に多額の不良債権処理に追われた銀行の歩みと重なる。「一度でもしくじればすぐに飛ばされる」(渡真利)銀行員の運命は常に出向と背中合わせであり、たった一つのミスも命取りとなる。

 とにかく半沢のキャラクター設定が秀逸だ。「人の善意は信じますが、やられたらやり返す、倍返しだ! それが私の流儀なんでね」と語る半沢は表面だけ取り繕った善人キャラではなく、白黒をはっきり付ける性格。そのためには上司や官庁と衝突することも辞さず、時にはあくどい方法も取る。また、頭取を目指すと公言する背景には、旧産業中央銀行から融資を打ち切られて父の慎之助(笑福亭鶴瓶)が自殺した過去があった。

 銀行員になった理由を「復讐するため?」と尋ねる妻の花(上戸彩)に、半沢は「そういう気持ちもたしかにあった。だけどそれだけじゃない」と答える。危機に陥った工場を救ったのは地元の信金であり、「あの小さな明かりの一つひとつの中に人がいる。俺はそういう人たちの力になれる銀行員になりたい」と語る。執念深い復讐者の顔の裏にはバンカーとしての信念があり、『半沢直樹』を単なる復讐劇と一味も二味も違うものにしている。

 そんな半沢の特異なキャラクターが発揮されるのが数々の対決シーン。裁量臨店で小木曽の企みを暴いたことに始まり、竹下(赤井英和)とクラブに乗り込んで東田の鼻を明かす場面や、東田と共謀して意図的な資金流出を行った浅野に決定的な証拠を突きつけるシーンなど、手に汗握るドラマの面白さが凝縮されていた。それに拍車をかけるのが「倍返し」をはじめとする決め台詞だ。「騙したほうが悪いんです。決まってるじゃないですか」、「金さえあればなんでもできると思ったら大間違いだ」など抜群の切れ味で相乗効果を生んでいた。

 職場を離れれば優しい夫の半沢だが、夫婦の対話では、花が「仕事じゃいろいろあるだろうけど、浅野さんだって本当はご家族思いの優しい人なんじゃないかな」と言い、浅野の妻・利恵(中島ひろ子)は夫を助けるように懇願する。復讐劇の王道展開であるが、やり返すだけでなくやられる方の視点を加味することでストーリーに人間的な陰影を与えていた。

 『特別編 前編』で逆転のきっかけは顧客との信頼関係であり、敵を使って敵を欺く知略がスリリングな駆け引きをもたらしていた。冷徹な復讐者と温情あるバンカーという半沢の二面性が最終的に倍返しにつながった。「晴れた日に傘を貸して、雨の日に取り上げる」と揶揄される銀行。その銀行が生み出した鬼っ子とも言える半沢が、銀行という会社組織にどのように挑むのか。後編は舞台を東京本部に移して、因縁の相手である常務の大和田暁(香川照之)と対決する。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。